好きだった人と似ている彼女を、俺は好きになってしまったのか
フラット
プロローグ
「じゃあね……」
「ああ、お前も元気でな」
そんな会話とともに、2人は別々の帰路についた。
帰り道。俺の顔には涙が流れていた。無論嬉し涙ではない。むしろ真逆、いや、悲しいとは少し違う。悔しい、だろうか、それとも情けないだろうか………………
自然と零れた雫は、額をゆっくりと流れ落ちていく。歩みは進んでいるはずなのに、時間はまるで止まったような感覚だった。
中学の頃、俺には好きな女の子がいた。決して活発な女の子ではなく、大人しく、少しクールで、前髪も少し長くて、…………そんな彼女に、俺は惹かれ続けている。
仲は、まぁ良かったと思う。中学二年生の時に隣の席同士になってからは、目が合えば軽い挨拶を交し、どうでもいいことからちょっとした悩みまで、お互い、友達以上くらいには思っていたのではないだろうか。
俺は気持ちを伝えたかった…………いや、その時は、この関係が壊れることを避けようと、気持ちを伝えようなんてことは微塵も思っていなかっただろう。今俺が頭の中でしている1人語りも、只々過去を青く脚色しているだけで、意味があるのかと言われればないのだろう。
なぜなら、結局卒業式、最後の最後まで、俺は彼女に好きということは伝え無かったのだから。
◆
「お兄ちゃん! 起きて! 今日から高校始まるでしょ。ほら、さっさと準備して、あぁ〜もぅすっごい寝癖」
「おはよう。もうそんな時間か」
4月8日。今日は僕が通う高校の入学式。もうそんなに日が経ってしまっていることに驚き、ガッカリしながらも、俺は妹の言う通りに準備を始めた。
「ほら、いつまでも昔のことで落ち込んでないで。前を向く!」
「分かってるよ。ありがとな」
「よし! それじゃあ行ってらっしゃい」
「あれ? 今日ひーちゃん学校ないのか?」
「私は学校近いからこんな早く行かないよ。お兄ちゃんも去年まで通ってたんだから分かってるでしょ。大丈夫?」
「ああ、そうだったな。それに比べて高校は、チャリ使って片道30分なんて……地獄すぎる」
「ほらほらー遅刻しちゃうよ!」
「行ってきま〜す」
「行ってらっしゃい」
そうして家を出てから約30分後。
「ここが俺が3年間通うことになった学校か」
県内有数の進学校、といってもトップという訳ではなく、偏差値順で表すとしたら3番目の学校。自分で言うのもなんだが、そこそこの頭を持った生徒たちが入ってくるような高校だ。
学校の玄関には少し花が散ってしまっている桜の木。昨日の大雨のせいだ。
春の門出を祝うには、少々色が映えない。
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