第40話 ゲスーイ伯爵の怒り
◇side マジス・ゲスーイ伯爵
「若様が凱旋なさったぞ!!」
「俺たちのために山賊団を討伐してくれたらしいぜ」
「さすがは若様だ! 暴君だった先代とは全然違うよ!」
「若様、万歳!!」
領民たちの大歓声の中、俺は略奪品を持って屋敷に凱旋していた。
本当はアホーン子爵の領地で略奪していただけなんだが、心優しい我が領民それを聞けばきっと悲しむだろう。
ゆえにアホーン子爵領から来た山賊団を討伐するという名目で軍を動かした。
まあ、周囲の領地なんて仮想敵国みたいなものだし別に間違ってないだろう。
領民たちの歓声に手を振りながら俺は屋敷の中へと入っていく。
すると真っ先に笑顔で近づいてきた男がいた。当家に長く仕える爺やだ。
「若様……いえ、当主様! よくぞご無事で」
「爺や、誰にモノを言っている? たっぷりと奪ってきたぞ」
「本当ですか!?」
「ああ、これで税は上げずに済む」
俺の言葉に爺やは感極まったように涙を流す。
爺やは長年苦しみ続ける領民を見ていることしか出来なかったからな、喜びもまた
一段と強いのだろう。だがまだこれからだ。
我が領地は辺境で、中央の庇護など存在しない。
そのため奪われた方が悪いという考えが蔓延っている。
紳士的な俺と違って、周囲の領主は野蛮としか言えない。
なにせ連中は他人から土地や財産を奪うことしか出来ない暴君だ。
もし我が領地が他の領主に奪われればどうなるか?
間違いなく使い潰されて死ぬか、奴隷として売られるかのどちらかだと断言できる。そんな連中にウチの大切な領民を渡すわけにはいかん!
他所の領民はどうでもいいけど、うちの領民だけはダメだ!
そのためには富国強兵しかない。
手っ取り早く国力を蓄えるには、資源豊かな土地を手に入れるのが肝要だ。
「爺や、これで来年には鬼人族の領地を奪えるぞ。資源の多いあの土地を奪えればもっと豊かになれる……我が領民たちも楽になれるはずだ」
「若様……ご立派になって爺は嬉しいです……」
爺やが涙を流しながら破顔する。
そんな爺やと笑い合っていると蹴破るように扉が開かれ、騎士が駆け込んで来た。
「た、大変です!! 黒いネズミが津波のように町に入ってきたと報告がっ!」
「ネズミ……いや、ただのネズミだろ? そこまで慌てることか?」
そこまで騒ぐほどだろうか?
そう考えていた俺だが、次の騎士の言葉を聞き愕然とした。
「そ、それが……駆除したネズミに妙なコブがあったので学者に調べさせたところ、すべて病気持ちのネズミで中には危険な伝染病持ちもいると! 少なくとも数千匹はいると報告が!」
「なんだと!?」
予想外の報告に思わず絶句する。
伝染病持ちのネズミが数千匹も群れるか!? しかもよりによって俺の領地で!?
俺は叫び出したくなる気持ちをグッと堪え、対策を練る。
俺の肩には領民の命と安全がかかっているのだ!
他所の領民はどうでもいいけど、ウチの領民だけは守らねば!
「領民たちの安全が最優先だ! 急いで避難させろ! それと当家の医者と学者たちに疫病対策を練らせ、指示に従え!」
「了解であります! それとこちらが現地の学者が書いた報告書になります」
俺に報告書を渡した騎士が大慌てで部屋を飛び出す。
まずは詳しい情報を知らねばなるまい。
俺は素早く報告書へ目を通す。
ふむ、どうやら現地の医師も学者と同じ見解らしいな。
ということは間違いなく病気持ちのネズミか。
しかしいきなり大発生したのは何故だ?
これでは鬼人族への領地襲撃が遅れてしまうではないか!
苛立ちながら報告書を読み進めていた俺の視線がある部分に釘付けとなった。
「クク……やってくれたな、あいつ等……!」
「若様、どうされたのです!? あいつ等とは一体……?」
急に笑い出した俺を見て爺やが心配そうな表情を浮かべる。
俺は悔しさに歯噛みしながら報告書を爺やに手渡す。
「現地の報告によると、病気ネズミの群れはアホーン子爵領と鬼人族の土地の間からやってきたらしい」
「ということはもしや……!?」
「ああ、犯人はアホーン子爵で間違いない……! 逆恨みにこんな所業に出るとは奴には人の心はないのか!?」
脳筋な鬼人族にネズミを操る技能なぞない。
おそらくアホーン子爵が呪術師でも雇ったのだろう。
アホーン子爵の領地には毎年略奪に行ってるからな、これが奴なりの報復というわけか。おかげでこちらの被害は甚大だ。
報告書によるとご禁制品の薬物を栽培していた実験農場が壊滅したらしい。
マンドラゴラや惚れ薬の材料となる薬草がすべてネズミ共に食い漁られた。
おのれ! また出兵が遅れるぞ!
資源の豊富な鬼人族の領地をさっさと手に入れたいのに邪魔しやがって。
決めたぞ、鬼人族の領地は後回しだ。
まずはアホーン子爵、貴様を潰す!
舐めやがって……目にモノ見せてくれるわ!
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