第27話 ドラゴンレース
「なるほどねぇ~。分かったよ。僕に任せて! 使ってない船をタダであげるよ」
シュリから要件を聞いた辺境伯の息子バッカスはお人好しそうな表情を浮かべて
朗らかに笑った。
こんな二つ返事で引き受けてくれるとはこの天才も予想外だ。
てっきり何か要求されると思ったが考えすぎだったか。
おまけにタダでも良いとか、バカボン辺境伯は相当金を持っているようだ。
「ええっと、まずは船の手配と輸送だよね。あと港町建設の人員も……」
「若様! お待ちください! 安請け合いはしてはいけないとあれほど……!」
「失礼、シュリ様。若様の一存で決めるのは少々……」
ほっとしたのも束の間。
シュリとバッカスの間に取り巻きが割り込んでくる。
さすがにタダとはいかないようだ。
「ええ~!? でも困っているみたいだし助けてあげよーよ」
「若様のそのお心は素晴らしいのですがタダというのはさすがに不味いかと」
「お父上の側近にまた小言言われますよ?」
「ううっ!」
不満顔のバッカスだったが、取り巻き達の言葉に顔を歪める。
どうやら親父さんの側近には頭が上がらないようだな。
しかしこの流れは良くない。
話を聞く限りだと領主の側近は有能そうだ。
そんな連中が俺たちという仮想敵国の助けになることをするだろうか?
まず無いだろう。
このままだと父親の側近によって法外な値段を吹っかけられるか、船自体買えなくなる可能性も出てくる。
ここらで介入すべきだ。
「失礼、バッカス殿。少しよろしいか?」
「おや? 君は見ない顔だけどシュリちゃんの護衛さん?」
「いえ、俺はシュリ達のアドバイザーにして賢者の秀也と申します」
「えっ! 君は賢者なの!? わぁ~、僕賢者の人初めて見たよ! よろしくね、シューヤ君!」
俺の自己紹介に驚くバッカスだったが、すぐに子供のような笑顔を浮かべて俺の手を握るとブンブンと振るってくる。
うむ、ちょっとアホそうだが悪い男ではなさそうだな。
「若様、待って下さい! 賢者なんてめったにいませんよ!? 失礼ですがあなたは本当に賢者なんですか……?」
「間違いなく賢者です。偏差値だって40もありますし」
「へんさち……?」
「きっと賢者のレベルのことだよ!」
「よく分かりましたね、バッカス殿」
「あの、偏差ナントカって上限はどのくらいなのですか?」
疑うような取り巻きの言葉に俺は迷う。
そもそも偏差値って上限はどのくらいなんだ?
マンガとかには60超えている奴がいた気がしたが、あれはきっと例外中の例外のはず。いや、おそらくフィクションだろう。
この天才が偏差値40の壁を越えるのがやっとなのだ。
ということは偏差値の上限は50といったところだろう。
「偏差値の上限は50です」
「おお~! 偏差値40ってすごいんだね!」
「ええ、すごいです」
俺の言葉にバッカスは感心した声を出す。
取り巻きは怪訝な顔をしていたが。
バッカスは縋るような声を出した。
「ねえ! 賢者のシューヤ君にお願いがあるんだ! 僕を助けて! そしたら父上に船とかの事を頼み込んでくるから!」
◇
ドラゴンレース。
今となっては競馬のようなギャンブルとなってしまったが、元々は竜好きのバッカスが作り上げた、強さではなく速さを競うものだったらしい。
らしい、というのは今は違うからだ。
今は武器さえ使わなければ妨害アリ、しかも金を賭けられる賭場になっている。
なんでもバッカスの行いが金になると踏んだ金持ちや父親の側近によって、賭場に変えられてしまったのだ。
レースによる竜の速さと騎手の駆け引きが好きだったバッカスにはそれが不満らしい。
「戦場で役に立つ竜ばかりが注目されてるけど、僕はそれっておかしいと思うんだ。強くなくてもいいじゃないか。人に向き不向きがあるように竜にだってそれはある。僕は戦えない竜にも活躍の場を与えたかったんだ。それで作ったのがドラゴンレースなんだけどさ、乗っ取られちゃって……」
「ふむ」
俺はバッカスの話を聞きながらドラゴンレースのルールブックに目を通していた。
権力者が金になる木をみすみす捨てるはずがない。
正当な手段でどうにかするのは無理だろう。
ではどうするか。
考え込む俺は妙なことに気づく。
「ん? 相手への妨害行為は反則じゃないのか?」
「うん。観客は竜同士の派手なぶつかり合いを好むからね。妨害は反則じゃないってルールに変えられてしまったんだ。そのせいで足の速い竜より、戦場で活躍する竜しか勝てなくなっちゃってさ。こんなのレースじゃないよ」
バッカスは悲しそうにうつむいた。
なるほど。
妨害がアリ……。
その瞬間、俺の偏差値40の頭脳がスパークし、素晴らしい秘策を思い付く。
これならばイケル!
楽勝だな!
「おっ!? まさか秀也、秘策を思い付いたのか?」
「ああ、この天才に任せておけ」
毒島の言葉に俺は自信満々に答える。
「もう秘策を思いついたのか!?」
「さすが秀也だぜ!」
「ああ、偏差値40は伊達じゃないな!」
「ふっ、この天才と頭脳とみんなの力があれば何も不可能などないさ」
沸き立つクラスメイト。
俺はその中でも隠密行動に特化した仲間の前に立った。
「まずは服部に甲賀、伊賀に頼みがある」
「何でも言ってくれ」
「「任せな! 」」
「あとバッカス殿、選手としてこちらの指定する者を2人ほどレースにねじ込んで欲しいのですが出来ますか?」
「うん、そのくらいなら……。でもどうするのさ?」
「シューヤ様、何を仕出かすおつもりですか……?」
何故かシュリが不安そうな顔をしているがどうしたのだろうか?
まあいい。
この天才に、偏差値40に不可能などない。
シュリを安心させるために俺は不敵な笑みを浮かべた。
「この天才にお任せあれ」
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