第11話 悪徳領主の息子2



「どういうことだ!? 何故いきなりこんなことが起こる! 原因はなんだ!?」



 何だそれは? なぜ急にそんなことが起こった!?

 前兆など何もなかったじゃないか!

 俺の怒声に兵士は震え上がる。



「その、領地の全ての畑に糞尿がバラ撒かれたようです……」


「なんだとぉ!?」



 誰がそんな馬鹿なことをやりやがった!?

 糞尿なぞ畑に撒いたら作物が根腐れするのは俺でも知っていることだ。

 そこで俺はハッとした。

 まさか父上を襲い、我が家の宝を奪っていった賊の仕業ではないか?

 間違いない! 

 なんて悪辣な奴だ!



 まんまとしてやられたことに、俺は歯噛みする。

 悔しがるのは後だ。

 まずは被害を確認せねば!



「疫病はどこで発生した?」


「そ、それが……」



 言いずらそうにする兵士に俺は苛ついてきた。

 いかん、感情的になってはならない。

 心は熱く、頭はクールでなくてはならん。



「兵士や騎士の詰め所で発生しています。その、詰め所に繋がる水道にて汚物の入った手桶が発見され、おそらく人為的なものかと……」


「クソがぁぁっ!!」



 兵士の報告に俺の怒りが再燃する。

 なんていう嫌がらせだ!

 どこのどいつだ!?

 と、とにかく今はやるべきことをやるしかない。

 犯人捜しはその後だ。

 髪の毛を掻きむしりながら、俺は言葉を絞り出す。



「……蓄えた兵糧を民に配るのだ」


「な!? それでは戦に出られませんよ!? 」


「土地が汚染されたのであろう? まともに作物ができるのにどれだけかかるか分からん!」


「す、直ぐに手配します!」



 俺の言葉に兵士が走り去っていく。

 まるで魂が抜けたように体の力が抜け、床に座り込んでしまった俺を爺やが慌てて助け起こす。



「若様! 大丈夫ですか!?」


「ああ、問題ない。残念だが、鬼族の土地を奪い、彼女らを我らの物にするのはしばしお預けだ」


「……我らはともかく、民はどれだけ今年を越せるでしょうか」



 絶望した表情を浮かべる爺やをみて、俺は秘密を打ち明ける決心をした。

 反対される恐れがあったから言わなかったが、爺やならばきっと分かってくれるだろう。



「大丈夫だ、爺や。実は数年前から金になる薬草を栽培していてな」


「金になる薬草……? そんな物ありましたかな?」



 爺やは不思議そうに首を傾げる。

 そんな都合のいい植物などこの地にあったかという表情だ。

 だが一つだけあるのだ、依存性が高すぎて危険視されている植物が。



「麻薬だよ、爺や」


「なんと!? わ、若様、あれに手を出すのはお止め下さい! あれは悪魔の薬ですぞ!? 民が不幸になります!」



 どうやら勘違いさせてしまったようだ。

 慌てふためく爺やの肩をそっと抑え、俺は笑みを浮かべる。



「大丈夫だ、爺や。あれを売るのは他の領地だけだから。うちの領地では使わせないさ! 想像してみろ、他の領地の力は衰え、うちの領地だけが豊かになるのだ!」



 俺の言葉を聞いた爺やが驚きで体を震わせた。

 そして興奮した様子で頬を真っ赤にして口を開く。



「す、素晴らしいです! 敵の力を削ぎ、我らが領地だけが肥え太る。一石二鳥という奴ですな!」


「そうだろう!」


「まぁ売りつけられた他の領地は地獄になるでしょうが、そんなの我々には関係ありませんからな!」


「その通りだ! 分かってるじゃないか、爺や」



 俺と爺やは肩を組んで笑いあう。

 こんなことなら最初から言っておけば良かった。

 今年の分もそろそろ収穫の時期だ。

 明日にでも人を使わせるとしよう。




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