第19話撮影会

「どうです?このカスタム?」


マッチャズッキーニは会うなりそう言ってきた


「単品ヘッドを自分でカスタムしたのですが、いい感じですな!」

「うん!可愛い!」


里美達はとある建物の前にいた

実はここドールの撮影ができるスタジオなのだ


「マッチャズッキーニさんはカスタム得意ですよね?」

「得意っていうか好きなだけですぞ!」


マッチャズッキーニは里美の質問に明るく答える

誉められたせいか顔が赤い


「メイクはもちろんアイにもこだわりがあるのですぞ」

「へぇ~、どこのディーラーさん?」

「自分で作りました」

「マジかよ!?すげーな!里美!!」


思わず俺は話に割り込んでしまった


「綺麗な色が出るまで苦労しました……。それこそ何回もやり直しですぞ」

「へぇ~人形の目って自分で作れるんだな」


俺は感心する


「紙にこだわりましてな、もー何回印刷したことか」

「印刷できるのか?」

「レジンも気泡が入らないように何回もやり直しました……大変でしたぞ」

「目ってレジンなのか」


レジンってアクセサリーとかにあるやつだよな?人形の目も作れるのか


「なんかドールオーナーって多芸なんだな」

「名前はユナにしました!よろしくですぞ!」

「可愛い!」


話が勝手に進む、もともと俺の声は相手には聞こえない


「イメージは銀河の精霊なんてすぞ!!」


おうっ…、歌い出しそうだな、なんか


「精霊ユナちゃん!だからエルフ耳なのね!」

「そうなのです!こだわりの箇所ですぞ」


マッチャズッキーニはユナの耳を指差す


「さすがにこれはディーラー様に作って頂きましたが」

「エルフか~私もお迎え考えようかな~」

「ほほ!いいですぞエルフ!」


二人は笑い合う、実に楽しそうだ


「ぽよん殿はミズハ贔屓ですな」

「うん!可愛いし」

「好みは人それぞれ、善き善き」


そうマッチャズッキーニは語り頷く


「よし!いっぱい写真撮りますか!!」

「さんせ~い!」

「……仲いいなぁ~」


二人はノリノリでカメラの機材を出す

さすがの俺もこの量の機材には慣れてきた


「また数時間か……肩こるな……」


俺は球体関節をパキパキ鳴らした


「ん?何か音した?」


ぽよんこと里美がこちらを見る


「やべ!」


俺はすぐさま固まる


「ははっ、気のせいでは?ぽよん殿」

「う~ん、そうかぁ」

「でも動いたら嬉しいですがな」

「言えてる、言えてる!」


人形が動いたら嬉しいのか、普通は怖がるんだけどな


「あ~もう、自分で着替えて欲しいよね~」

「あ~、わかるわかる」


……いや、何その理由

二人は楽しそうに談笑しながらシャッターを切る


「里美、楽しそうだな……」

撮影会の時はいつも楽しそうだか今回は特にそう感じる


「……」


あれ?なんかさみしい……?なぜだ?


「でね~メルメルさんと写真撮った時もー」

「ああ、あの服のディーラー様がー」


二人はお構いなしにしゃべる

当たり前だか俺は無視だ


「……こういう時声が聞こえないって不便だな」


俺はしゅんとして二人の話を聞いていた




「あれ?里美?」

撮影も終わりに入ろうとした時だ

「えっ…明日香!!?」

「やっぱ、里美じゃ~ん」

そこには里美の学生時代の同級生明日香がいた

「なっ、なんでここに…」

里美は動揺が隠せなかった、慌てふためる

ただ救いなのがドールも機材も撤収したあとだったからだ

「私?彼氏用事すっぽかしたから…里美こそ何してんの~」

「誰?知り合い?」

マッチャズッキーニが入ってくる

「えっ?誰っ!?このムキムキ?」

明日香は見た目でそう答えた

「ははっ、ムキムキか~」

「ちょっと!何よその言い方!」

「いいって、いいって。実際ムキムキだし」

マッチャズッキーニはかなりガタイがよかった

「私は松澤明日香、里美の友達よ」

明日香は詫びることなく答えた

「里美?ああ…そう。俺は抹茶好きとでも名のっとこうか」

「抹茶好き?」

だからマッチャズッキーニなのか、俺は鞄の中で納得した

「明日香、私達忙しいから」

「えっ何?ははーん、そういうことか」

明日香はニヤニヤ笑い出す

「なら仕方がない、帰るわ」

「言っとくけど変な考え持たないでよね」

「はいはい、あとは仲良くどーぞ🖤」

「明日香!」

明日香はニヤニヤしながら帰って行った

かなり勘違いされてしまったらしい

「ごめんなさい!」

里美はマッチャズッキーニに謝った

「謝ることないよ、気にしてないから」

「でも…」

「それより里美って名前なんだ。はじめて知った」

「う、それは内密に…」

SNS上しか会ってないから名前は教えていなかった、呼び合うのもハンドルネームだし

「とりあえずご迷惑おかけしました」

里美は頭を下げる、こうでもしないと恥ずかしい

「いいって言ったのに…まぁ忘れるけど」

下手に関わったら仲がこじれるかもしれない、適度な距離感は大切だ

「でもお友達はいいのか?ほっといて」

「いいですよ!いつもふらふらしてるし」

「ふーん…とにかくお開きにするか」

「そうですね」

二人は後片付けを再開した

「なんか嫌な予感…」

俺は鞄の中で終始聞いていたことに何かを感じた

「こりゃマリン達に報告だな」

そう思った時、鞄が動いた

家に帰る時間だ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る