第11話新しい友達

俺はいつも(?)のようにソファーに座っていた

怒涛の撮影のあといつものドレスを着せられソファーに座らされた

そして里美はニコニコしながら眺めてたのだが時計を見るなり慌てて飛び出した


……いや、没頭しすぎだろ!


そして今に至る、はぁ


「あ~、暇暇」

「ミズハ、そんな声に出さんでも」

「いいじゃんか、マリン」

「せやかて……」

「あ~暇、どっかふらつくか」

「あ、待ちいや」


俺は部屋の中を歩く

なんやかんや部屋の中を歩くのは初めてだ


「ほんっと人形しかないな、この部屋」

「まあそういう部屋なんやろ」


棚の中で大小さまざまなドールが詰まっている

……よく集めたな、そして詰めたな、里美


「しかしいくらかかったんだ?こんなけの人形買うのに」

「ミズハ、知らん方がええで」

「そうなのか?」

「100はこえてるらしいで!」


やったな!里美!!


「これがドール沼ってやつか……」

「なんやそれ?」

「マリン、知らない方がいい」


恐ろしい、ドール沼


「クスクス」

「ん?」


上の方から笑い声が聞こえた


「誰だ?」

「クスクス」

「誰だよ!」

「クスクス」


ずっと笑っている

話す気がないのか?


「ごめん、ごめん」


急に笑い声が止んだ


「誰だ?」

「僕?僕はチャイ」


見てみると茶色のドラゴンがこちらを見ていた


「チャイ?ってかドラゴン??」


こんなドールもあるのか

チャイは赤色の瞳を向けて話しかけてきた


「ごめん、なんだか楽しそうだったから」

「いいって!話せるなら話そうぜ!その方が俺は楽しいし」

「俺……?女の子じゃないの……?」

「えっ、ああ。えっ~と」

「チャイ、ミズハは男の娘や」


えっ、今なんて……


「マリン……、どういう意味……」

「知らん方がええで、ミズハ」

「クスクス……」


また笑われた、そんなに面白いか?


「僕、こんなに楽しいの初めてかも」

「そうなのか?」


俺は不思議だった

これだけ人形があれば話し相手なんていくらでもいるだろ……?


「意外だ」

「みんながみんな喋れる訳じゃないからね」

「そうなのか?」


聞けば持ち主の思い入れが強いドールしか喋れないらしい

俺もマリンも里美にとっては特別らしい


「でも、あんさんやて喋れてるやん」


マリンが聞いた


「僕はファーストドールだから」

「えっ、そうなのか?」

「うん、5年前に出会ったんだよ?」

「へぇ~」


ってことは5年で数百万使ってこれだけの数のドールを集めたと


「ドール沼恐ろしい……」

「? どうしたの?」

「チャイ、知らない方がいい……」

「クスクス、またそれ?」

「そんなことよりチャイの話を聞かせてくれよ」


俺は話を変えた


「いいよ」


それから俺とマリンはチャイと話した

海外生まれのチャイは初めて海を渡ったこと

里美のテンション上がりまくった様子に引いてしまったこと

当時の恋人ではなくてチャイにマフラーを編んでいたこと

夜中まで話を聞いたこと

里美との生活を教えてくれた


「里美は本当にドール好きなんだな」


俺は感心した

それくらい里美の熱愛ぷりに驚いた


「最近はおさえぎみだけどまた似たようなことがあったよ?」

「へえ~、どんな」

「頭、撫でてくれた」

「そうか、よかったなチャイ」

「うん!」


まるで子供のようだった

目がキラキラして、顔がとても眩しい笑顔で……


「チャイは里美が好きなんだな」

「そうだよ?ミズハは?」

「俺?俺は……」


どうなんだろうか、好感は持ってるけど


「嫌いじゃないな」

「なんやねん、それ」

「マリンはどうなんだよ」

「嫌いじゃないで」

「なんだよ、それ」

「クスクス」

「……まぁいいか」


俺はそういうと笑った

なんとなく笑えたから


「ミズハ、マリン」


チャイが改まって話しかけてきた


「これからよろしくね」

「ああよろしく」

「よろしゅ~」


俺に人形の友達、しかもドラゴンの友達ができた瞬間だった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る