第9話ディーラー

里美はため息をついていた

とぼとぼと歩きながらとある会場を目指す


「はぁ……」


今日はドールイベントがある日だった

イベントと言ってもドール用の服を売り買いできるイベントだ

里美はそのイベントに買い手として参加する


「ドールは持ってこれないよね……」


昨日のブログ炎上がひびいていた

里美はそのショックからまだ立ち直れない


「はぁ……」


里美はため息をつきながらイベント会場についた



「わぁ、可愛い……!」


会場の中に入ると鬱々とした気持ちは何処かへと消えた

色もサイズもデザインも個性的だったりオシャレだったりなドール服

ドレスだったり、カジュアルだったりコスプレだったり


「何買おうかな!」


里美はウキウキとテーブルを回った

一口にドールと言ってもメーカーも違えば見た目も違う、男の子から女の子、人外まで


「あ、これ可愛い……これも……これも……」


財布の中身が軽くなるのもお構い無しに買いまくる

今までのイライラを振り払うように


「あ……」


そこで里美は一人のディーラー(出展者)と目があった


「こんにちは」


その人は優雅に微笑むおばあちゃんだった


「こ、こんにちは……」


おばあちゃんが?少し尻込みをしてしまった


「よかったら見ていってくれない?」

「あ、はい……」


里美は流されるように作品を見る、そして


「あ、可愛い……!」


ひとつの服を見て思わず声が漏れる


「ありがとう、嬉しいわ」


ディーラーのおばあちゃんはニコニコしながら答えた


「ゆっくり見ていってね」

「はい!」


勢いよく返事をして作品を見る


(どうしよう…どれも可愛い!)


少しレトロ差を感じさせるデザインだが色使いは今の時代にあったものだ。センスを感じる。

里美はウキウキした


「えっと、これください」

「はい、一万円ね。ありがとう」

「えっ、安い……」


里美は驚いた

ここまで質がよく、デザインも良ければもっと値段がしてもいいはず……。実際五万くらいするディーラー服もある。


「趣味だからね、これくらいでいいのよ」

「えっ」


一瞬心を読まれたのかと思った


「でももっととってもいいと思います」

「あら嬉しい。高いって文句言う人いるのに」


そう言っておばあちゃんは笑った


「昔からお洋服作っていてね……。人間用だったけど、定年で仕事を辞めてから孫がハマっている人形の服を作り始めたの」


おばあちゃんは語りだした


「最初は上手く行かなかったけどだんだんなれてきてね。上手に作れるようになって……」

「孫の勧めでこうやってイベントに参加してみたのよ?そしたら誉めて貰えることが多くて……そしたらどんどんハマっちゃったりしてね」

「今ではかけ替えのない趣味のひとつになったの」


里美は黙って聞いていた


「貴女はどんな風にこのドール趣味にハマったの?」

「えっ?」


急に振られてどぎまぎしてしまう


「私は……たまたまネットで見たドールが可愛いくて……それで……」


そう、たまたまネットで見た綺麗なドールにハマった、欲しくて仕方なくなった


「そして仕事を頑張ってお金貯めて……、買えてからはそこから……」

「そう、素敵な話ね」


おばあちゃんは微笑んだ


「素敵な……話……」


里美はそこのテーブルから離れた



里美は部屋にいた

パソコンの前に座って考え込んでいた


「初めての……ドール……素敵な話……」


里美はパソコンを開きブログを打った


「これで何か変わる訳じゃないけど今の気持ちに間違いないし……」


タイトルに素敵な出会いと打つ


「……。」


里美は今の気持ちを打った

昨日のブログ炎上でへこんだこと、イベントに行ったこと、おばあちゃんディーラーにあったこと、最初のドールのことを思い出したこと


「……。」


打ち終わりブログをアップする、そしてすぐにパソコンの電源を切る


「今は見れないかな……」


でも確かに何かが変わった、そんな気がした


「ミズハ、可愛いけど……」


そう言って幸運にも当てたワンオフドールを見る


「ワンオフだから……レアだからって訳じゃないよね」


里美は微笑む


「おやすみ、ミズハ」


里美はベッドへと行った



「……。」

「どうしたんや?ミズハ?」


隣に立っている褐色肌のマリンが聞いてきた


「えっ、いや……なんか里美吹っ切れた?」

「そうなんか?よかったやん。辛気臭い顔されるよりいいやろ?」

「……そうだな」


里美、元気になったかな?

今日のお出かけで何かいい出会いがあったのだろう。よかった。

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