第18話 オニオンフラワーのピリ辛炒め

 アイラはもう少し寝かせておくことにして、”土魔法”の練習をしてみる。

練習方法は、魔力で土を動かすことなんだけど、利点はあまり音がしないことだ。

だってほら、うるさくしてアイラを起こしてしまうのは申し訳ないし。

”土魔法”の練習は昨日の寝る前にも少しやったけど、缶の中に入った砂鉄を下から磁石で動かすのとよく似ていて地味に楽しい。

こう、童心に帰るっていうのかな?

そんな感じ。




 一時間もするとアイラも起きてきたので、お喋りをしながらご飯を作る。

私が料理をしている間に、アイラは穴の拡張工事。地味にじわじわと、居住空間が広がっていく。本当は立って移動できる程度の高さも欲しいけど、今は広さの方が最優先。この狭い穴の中に二人でいると、やっぱり窮屈なんだよね。


「お夕飯のご予定は?」

「んー……。今回は、おにぎり握る予定」


 そう言いながら、荷物の中からふりかけを取り出す。

足りない塩分はコレで補えばいいし、塩味続きなところに変化もつく。とは言え、これじゃあちょっと味気がないからもう一品欲しいところだ。

ただ、限りあるタンパク源のジャーキー類やスルメは節約したい。

現地食材を優先して使うとなると――炒めもの一択かな。


「後は、アイラが午前中に拾ってきてくれたコレを使ってオニオンフラワーのピリ辛炒め!」


 宣言しつつ、取り出したるは真っ赤なリンゴ――っぽい実。

その名は、ポットベリーだ。


「あー、果物だと思ったら調味料だったってやつよね」

「うん。でも、これ一つで、三役こなせる素敵な子です」


 なんと、このホットベリー。

果皮はトウガラシ、果汁は酢、種はコショウの代わりになるという素敵植物だ。

普通にリンゴでも嬉しかったけど、調味料のバリエーションが増えたのが私としてはとても嬉しい。今日は、果皮を炒めものに使うのです。


 朝のうちに作っていたまな板と包丁モドキを用意して、まずはホットベリーの皮むきから――利便性を考えて足をつけたまな板は悪くないけど、包丁の使い勝手はイマイチ。”錬金術”の『融合』を使って、形だけ整えているからかな?

とにかく切れない。まあ、刃がついてないから当然といえば当然か……

仕方がないので、諦めてホットベリーは実を縦に割ったところで、思わぬ中身に手が止まる。


「見た目はリンゴなのに、中はミカンみたいなのね」

「私もびっくり」


 ちなみに、丸のままだと手で皮を剥くには皮が硬すぎるので半分に割る必要はあったんだけど。縦に割れば皮をベリベリと剥がせるだなんて思わなかった。

しかも、実は房になってるし!

見た目がリンゴにそっくりなだけに、違和感があるね。

とりあえず使わない分は、後で使うために小さな土鍋に放り込んでおこう。


 次は、お米を炊く準備。

おにぎりって、普段よりもいっぱいご飯を食べてしまいがちだし、思い切って四号炊いてしまおう。

雪原草は籾摺が終わってないからまだ食べられない。それでも、手元にそれなりの量があるから気が大きくなっているのです。


 お米を炊き始めたら、オニオンフラワーをオイルウッドを削り入れた中華鍋でしんなりするまで炒める。

やっぱりヘラ・・があると、料理がしやすい。

欲を言えば、青土製じゃなくて木製だともっといいんだけど。現状は、手に入るものでやっていくしかないし仕方ないか。

最後に用意しておいたホットベリーの皮と塩を適量振り入れれば、『オニオンフラワーのピリ辛炒め』の出来上がり。

真っ白なオニオンフラワーに、ホットベリーの赤が差し色になってていい感じ。

アイラが頑張って集めてきてくれたから、量だけはたっぷりあるのが素晴らしい。

少しして炊きあがったご飯でおにぎりを握ったら、お夕飯の準備が完了。

そわそわしながらこっちを気にしているアイラが戻ってきたら、二人揃って――


「「いっただっきまーす!」」


 うん、美味し。

炒めたオニオンフラワーの甘みを、ホットベリーのピリッと来る刺激が飽きさせない。おにぎりと交互に、いくらでも食べられちゃいそうだ。


「まずいわ……」

「アイラ、辛いの駄目だった?」

「違くて、運動量の割に食べすぎてる気がヒシヒシと……」


 ……雪原草を刈り取ってきたり、穴の拡張工事をしたりしてるのに?

私としてはアレも、十分な運動だと思うんだけどなぁ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る