第17話 マットレスって素晴らしい
お腹が空いて目が覚めると、ちょうどお昼の十二時だ。
今日も、お恥ずかしいことに腹時計は正確です。穴の隅に積み上がった雪原草の束に悲鳴を上げた後、アイラにお説教をしながらご飯の支度。
今回は手抜きで、ポークジャーキーとオニオンフラワーのおじやだ。
ちなみに、現在の魔力は89で体力は133。
なぜか、体力の上限が激増した。
魔力?
料理や暖房に使うせいで、なかなか上限まで回復しない。
いっそのこと、常時枯渇寸前に……は、無理だなぁ。多分、精神的に保たない。
試した場合、寝る寸前に使い切るのが一番効率的だったっていう結論になりそうだ。
「確か、増えるのって一割だったはずよねぇ……」
納得の行かない表情で呟きつつ、アイラはせっせと藁をまとめている。
隅に積んであった雪原草はすでに脱穀済み。
私が寝る前に作った青土の千歯扱きは、随分と活躍したらしい。
今はアイラが、残った茎を断熱材代わりに使おうと奮闘中。
いわゆる、麦わらのベッドを再現しようというつもりなんだろうけど、刈り入れ直後だと湿ってるんじゃ……?
寝心地が改善されるのは大歓迎なので、上手く機能してくれることを期待しつつ見守る方向です。
「いろいろ考えたんだけど、私の”大食い”スキルあたりが怪しいかなーと思ってるところ」
「”大食い”……『たくさん食べて、成長しよう』だっけ?」
「うん。この、成長って
ついでに体力の回復量もおかしいので、回復量も増加しているんじゃないかと言う疑いもある。もしもそうだったなら、このスキルって、むしろアイラに持ってて欲しかった気がしないでもない。
「”大食い”かぁ……ガッツリ詰め込むようにしたらスキル、生えてくるかな?」
「やめて!? ぷくぷくになったアイラも可愛いかもしれないけど、その前にお腹壊すから!」
真顔で呟くアイラに、思わず声を張り上げる。
「いや、本当にやめてね?」
「冗談よ」
「どう見ても本気の目だったよ!?」
「気のせいよ」
藁をまとめるアイラの隣で、私は穴の拡張工事をしつつ錬金に勤しむ。
とりあえず、パッと思いつく範囲で作りたいものは作り終わってるので拡張工事で出た土でブロックを作って穴の外に積む方針。
たくさん積めれば、外にお部屋ができるかも?
穴と一緒に妄想も膨らみます。
「ねぇ、レイちゃん」
「うん?」
「青土でブロックが作れるってことは、藁ブロックもいけるんじゃない?」
いそいそと穴の外にブロックを置いてきたところで、アイラからそんなお言葉が掛けられる。
「全然気付かなかった」
すっかり私の中では、錬金術の材料=青土に固定されてしまっていた。他の材料を使えるだろうってことは、完全に抜け落ちてたよ。
早速、藁をいれてぐーるぐるとやってみる。
用途的に考えて、作るとしたらマットだよね。寝るために使うんだからこの穴の形に合わせて、できればクルクル巻けるやつが便利かな?
そう思って作ったせいか、出来上がったのは歪な形をしたペラペラのゴザっぽいもの。気持ち、クッション性はある……気がする。
「なんか、藁の原型がないような……」
「ペラッペラだけど、お風呂の床に敷くマットに似てない?」
「あー、近いかも。だったら、何枚か重ねたらいいんじゃないかしら?」
「そうしてみよっか」
同じものを三枚ほど作ったところで、今日のところは材料切れ。
折角作ったし、テストを兼ねて二人でちょっぴりお昼寝タイム。
体力はまだまだあるけど魔力は回復しきってないから、その回復のために……と言うのが言い訳です。
「んー……寝心地はイマイチ、かなぁ」
「畳に直に寝てるって思えばこんなもんじゃない?」
畳に寝るという考えはなかったなと、改めて思う。畳のある部屋って、どちらかというとお茶を点てたり、華を活けたり。そんなことをする場所。私にとっては、気を引き締めるべき厳粛な場所であるというイメージが強くて、寛ぐ場所じゃない。
「うちには、和室がなかったからそう言う方向では馴染みがないけど、ちょっと草の香りがして悪くないね」
「新しい畳はもっと匂いがきついけど、割と好きだったなぁ……」
どう返せばいいのか思いつかなくって、代わりにアイラの頭を撫でる。彼女は何も言わずに身を擦り寄せて、ギュッと抱きついてきた。
――アイラ、寂しいんだな。
しばらくして、寝息を立てはじめたアイラを撫でながら改めて思う。
アイラのことを、きちんと守ってあげなくっちゃ。家族のことを思い出してこんな風に泣いてしまうときのためにも、せめて私だけはきちんと側にいよう。
――私でも、いいのかな?
寒さに目が覚めて、いつの間にか自分も寝てしまっていたのに気がついた。
寝心地に関しては改善の余地はあるけど、とりあえず、出来上がった四枚を敷けば断熱効果は問題なし。
現状でも意外と熟睡できたし、マットレスって、偉大だなぁ……
錬金物
青土のブロック 三十センチ角 一個
雪原草のブロック 三十x六十x十 四個
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます