隣合わせの負の連鎖
律斗
第1話
『今、なにしてる?』
『答えられない?』
『わかった。授業中だもんね』
連続で届くメッセージを横目で確認し、彰はスマホを裏返す。
その手はわずかに震えていた。高2にもなって情けない。
事の始まりは3日ほど前。
スマホでアプリゲームをしている最中、はじめてのメッセージが届いた。
『こんにちは』
最近、ほとんどのスマホユーザーが利用しているメッセージアプリだ。
メッセージが画面上にリアルタイムで表示される。
あいにくゲーム画面を開いていたため、受信したメッセージは画面上部に一行表示されるだけ。
急ぎでも無いだろうと、大して気にもとめず彰はゲームを続ける。
いつものようにネットで知り合った会ったこともない人たちと、協力バトルを開始し、数分。
『今、なにしてる?』
『暇?』
1つ、2つと、またメッセージが画面上部に表示された。
「……誰だよ」
『今日は雨が酷かったね』
『午前中は晴れてたのに』
確かに、今日は午後からすごい雨だった。同じ地域の人か。
少し警戒心が解けた彰は、協力バトルを終えると、メッセージ画面を開く。
メッセージの横に表示された送信者のアイコンは、小さすぎてなにが映っているのかよくわからない。
確認しようとホーム画面に飛んでみる。
「…………っ」
思わず、彰は息を呑み顔をしかめた。
そこに映し出されていたのは彰自身の姿。まるで隠し撮りでもされたみたいに少し引いた状態で、上半身が切り抜かれている。丁寧に白黒加工までされていた。
いつだれが撮った写真かなんて、検討もつかない。
仮に友人だったとして、自分の写真をアイコンにするだろうか。
気味が悪い。
彰はメッセージ画面を最小化し、スマホを伏せる。
ただ、人違いではないということだけは理解した。
『おはよう』
『そろそろ学校行く支度しないと、間に合わないよ』
『たまに遅刻ギリギリだもんね』
起き抜けにたまっていたメッセージを確認する。
嫌がらせだろうか。
だが高校での彰は、とりわけ派手な行動は慎んでいた。波風立てず、地味に過ごして来たつもりだ。
「誰だよ……ったく」
イライラした気持ちを無理やり押し殺し、学校へと向かう。
「おはよ、彰」
「……はよ」
「なんだよ、朝から不機嫌じゃん」
クラスメートであり彰の友人でもある啓介は、彰とは対照的に、すがすがしい表情をしていた。
「啓介って、スマホ持ってたっけ」
「いや。まだガラケーだけど。なに。また俺のことからかう気?」
以前、なかなかスマホに買い替えない啓介をからかった記憶が蘇る。
もしかして……その考えは打ち消された。
「昨日から、気味悪いメッセージくんだよ」
「それと、俺がスマホじゃないこととなにか関係あんの?」
「いや……まあ、お前かなぁって」
「疑ってたわけ? っつーか、どんなメッセージ?」
彰は、アプリのメッセージ画面を啓介に向ける。
「……なに。彼女? ノロケかよ」
「違ぇし」
啓介にからかわれ急に照れくさくなった彰は、スマホを引っ込める。
確かに、彼女が彼氏に送るメッセージなら妥当なものだろう。
アイコンを、彼氏にすることだってあるのかもしれない。
けれどそんな相手がいないことは、彰自身が一番良く知っていた。
「相手、誰かわかんねぇんだよな」
「IDとか載ってねぇの」
「ああ、そうだった」
そんな単純なことも見落としていた彰は、ホーム画面で相手のIDを確認する。そこには『rinko』とローマ字で書かれていた。
「りんこ……って名前みたい」
「やっぱ、女じゃねぇか」
その名に心当りはない。
「アイコン俺とか、気持ち悪いし」
「返信してみたら?」
「なに返すんだよ」
「なんだっていいだろ」
そんな言い合いをしているうちにも、予鈴のチャイムが鳴り響く。彰と啓介は、それぞれ離れた席へとついた。
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