しゃくり泣くと日本人

ジュン

第1話

「おはよう。マイケル」

「おはようございます」

「ところで、この前、歌舞伎のチケットあげたけど、観てきた?」

「はい、行ってきました」

「どうだった?」

「よかったです」

「よかったですって、もうちょっと具体的に」

「とにかく、圧倒的でしたね」

「そう」

「ただ、一つ気になったことが」

「なに?」

「なんで、やたら泣くんですか?」

「ああ。たしかに。男だけど、すぐ泣いちゃうわね」

「なんでなんですか?」

「よくわからないけど、日本人の国民性なのよ。きっと」

「あの、それは、日本人のビトクなんですか?」

「美徳なのかは、わからないけど、感情的な民族なのかもね」

「日本の文学を学んでいて思うのですが、感情表現が細かいですね。細かすぎてわからないことあります。欧米文学は、もっとストレートな表現します」

「そうね。言語それ自体の違いが決定的に影響してるんだと思うわ」

「どういうことですか?」

「たとえば、英語をとって考えればわかりやすいと思うけど、英語って、すごくロジカルよね。生成文法の流れを汲む言語だから、アンビギアスな表現には向かないと思うの。でも、感情って、アンビギアスなものじゃない?とりわけ人間の感情なんて」

「ふむ。その点、日本語は、アンビギアスな気持ちを表現するのに向いてると」

「ロジカルじゃないのよ、日本語って。たぶん、これは日本語には助詞って品詞があることと関係してると思うわ」

「なるほど」

マイケルは言った。

「どれほど、日本の文化を学んでも、僕にはわからないことだらけ。悲しいです……」

わたしは言った。

「悲しいなら、しゃくり泣きなさい!歌舞伎役者みたいに。そうしたら、日本人のこと、よくもわるくも、わかるんじゃないかしら」


終わり

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しゃくり泣くと日本人 ジュン @mizukubo

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