第5話 一目惚れと生産スキル

 こんにちは、トラウです。ついにやってきてしまいました。そう、お茶会の日です。面倒くさいことこの上ない。ここ2ヶ月はずーっとマナーの授業か、服を仕立てるか、会場の設営の手伝いだった。おかげでステータスもほぼ伸びていない。なんの利益も生まなかったわけだ。

 お茶会の開始まであと一刻だ。

 因みにこの世界は元の世界と同じく、1年365日、12ヶ月で1ヶ月約4週間から成り立っている。1日は十二刻。2時間で一刻だ。

 ということはあと2時間で地獄の始まりだと言うことだ。憂鬱だぁ。そして、時間は刻一刻と迫ってくる。あと四半刻、30分で開始だ。少しづつ人も集まってきている。同年代の子なので鑑定しても、ステータスは見れない。本来なら祝福が終わってない歳だしね。因みに一緒に来る親達は人にもよるが、ぼちぼちのステータスだ。辺境伯や、王都騎士団長なんかはレベルも高く、jobも戦闘向けなのでステータスが高い。

 そんなこんなであと数分でお茶会が開始という所で人が1組入ってきた。そちらに目をやると、とても綺麗な令嬢だ。艶やかな黒く長い髪に鼻筋がスっと通っていて、真っ白い肌に淡いピンクの唇、パッチリとした黒い目は全てを見通すかのよう。白と黒のツートンのドレスを身にまとっていて、彼女の美しさを引き立てている。。彼女から目が離せない。最初はこちらの世界では珍しい黒髪黒目に惹き付けられたのかと思ったが、彼女は僕の理想の女の子だった。やっぱり心は日本人なので黒髪黒目の方がタイプである。まさに一目惚れだ。

 え、やばい。どうすればいいのだろうか。僕は転生前も一切浮ついた話がないぐらい女性とは無縁だった。どうすればいいのか全く分からない。

 そんなこんなでアタフタしていると彼女と目が合った。すると、彼女はこちらに向けで微笑んできたのだ。いや、堕ちてしまいますやん。僕にどうしろと。

「おやぁ?トラウのお眼鏡にかなう女の子がいたのかな?」

 などと父上がはやし立ててくる。

「そうですね、一目惚れでしょうか。あちらに居る黒髪の女の子が気になります。」

「彼女は…ハルミヤ子爵家のご令嬢で、確か名前は…、サクラと言ったかな?」

 ん?ハルミヤにサクラ?春宮に桜…転移者の末裔なのだろうか。まさに日本風の名前である。確かに父上も黒髪黒目のイケメンだ。

「ハルミヤ子爵家というのは、勇者の末裔だったりするのですか?」

「おー、よくわかったな。勇者様は神様が別世界から送り込んでくれたようでな。黒髪というのが勇者の特徴と言われている。確かニホンとか言う国から来たそうだ。」

 やっぱりか。確かに神様は何度か送り込んだかのような口調ではあった気がする。

「それより、彼女にお近づきにならなくていいのか?」などと父上が言ってくるものの、何をしろと。

 何か贈り物でもすればいいのだろうか?贈り物って何を送ればいいんだ?アクセサリーとかだろうか。まだ、初めて話すときには重い気がするなぁ。スキルを使えばこの場にあるもので作る事は出来るだろう。

 例えば、錬金術を使えば、その辺の石ころを魔力によって変質させ、宝石のような輝きをもたせられる。錬成術ならば、様々な物質を変形させられる。アクセサリーを作ること自体は可能だろう。

 ただ、まだどれだけのものが作れるかは未知数である。まぁ、実際のところは全知の書庫と関連付けすることでなんでも作れるだろうが。

 ただ、重いのはNGだ。まだその時ではないだろう。そう結論づけることにする。とりあえず父上に何をすればいいか聞いてみる。

「それはわかるのですが、何をすればいいのかが分かりません。」

「おいおい、そんなんで恋愛結婚したいと言ってたのか。3歳ながら達観しているとは思っていたが、やっぱり子供らしいところもあるんだな。」

「仕方がないでしょう。精神年齢=恋愛経験とはならないのですよ。」

「まぁ、そうだな。それより、彼女は何かお困りのようだ。助けに行ってあげたらどうだ?」

 そう言われて彼女を見ると、1人ぼっちのようだ。その綺麗な顔と相まって少し浮いている。やっぱりこのお茶会のホスト側である以上僕が話かけに行くべきだろう。

「どうかしましたか?」

 意を決して話しかける。すると、

「いいえ、ただどうやって他の人に話しかければ良いのか分からず…。」

 との事。恥ずかしがり屋なのだろうか。可愛い。

「普通にしていればいいのですよ。貴女は自然体でいれば、可愛いですから。」

 などとクサイことを言ってしまった。こちらの世界に来て、少し自分に自信があるせいか、性格が変わったみたいだ。

「私の名前はトラウ・フォン・フラメルです。貴女のお名前は?」

「侯爵家のお方ですかッ!?しつれいしましたっ。わ、わたしのなまえはサクラ・ツー・ハルミヤです。」

 焦っていて小動物みたいで可愛い。撫でたい欲求に駆られるのは本能的なものだろう。あと、やっぱり同年代なのでまだ口調があどけない。多分僕がおかしいのだろう。

「ご丁寧にありがとうございます。美味しいお茶をご用意してあります。是非楽しんでいってください。」

「はいっ!」

 元気いっぱいと言った感じで可愛い。

 これで多少はお近づきになれただろうか。何とか10歳までに仲良くなりたいところだ。

 その後は、なるべく壁の花になれるよう、気配を消しているものの、結局見つかり、大勢の令嬢に話しかけられ続けましたとさ。次のお茶会までに、気配を断ち切る方法を模索することを決意した。そんなこんなで時間は流れ、お茶会ももう終わりだ。今日は彼女に会えただけで大きな収穫だろう。いつか彼女と結婚したいものだ。



 ♢

 お茶会の翌日、私は石ころと、銀の食器を持ってそれぞれとにらめっこしている。生産スキルの練習をするつもりなのだ。いつか贈り物をするときにも困らないようにだ。とりあえず石に魔力を込めて、錬金術を発動させてみる。すると、碧色の綺麗な宝石になった。鑑定してみると、


 魔宝石…錬金術によって作られた宝石。魔力によって変質させられているため、魔力との親和性が高く、付与術の媒体にしやすい。


 と書いてある。そういえば付与術も持っていたな。それも同時に練習しよう。次は銀の食器に錬成術を発動させてみる。なるべく美しい意匠のブレスレットをイメージする。出来上がったようだ。魔宝石を取り付けよう。そして付与術も使ってみる。想いを込めながら魔力を流し込むことでその想いに適した形に魔法が付与されるようだ。今回は護りたいという想いを込める。

 出来たら、出来上がったものを鑑定する。


 守護のブレスレット…作成者:トラウ・フォン・フラメル 品質:A

 このブレスレットを付けているものに危機が迫った時、内包された護りの力が発動するブレスレット。見た目はただの意匠の凝らされただけの銀のブレスレットだが、着いている宝石は魔石であり、膨大な魔力を付与されたことによって魔道具になっている。つけているだけで毒に対する耐性を得る。市場で高値で取引される。


 こんな結果になった。想像以上の性能で驚きである。まさに生産チートとかいうやつだろう。こんなものプレゼントしようとしてたのか?重いな。早まらなくてよかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る