18 悪女

よっちゃんだってずっと毎日来てくれてるけど、それがこれからも続くとは限らない


急に来なくなるかもしれないのだ


それに最近よっちゃんが煩い理由はもう一つあった


「寂しい…」



「今なにしてるの?仕事終わった?」



「ねぇ、麻衣はプラベで遊んでくれないの?」


「連絡遅かったね、誰と何してたの?」



よっちゃんからは毎日こんなメールが、バンバンストーカーのように入ってくる



ちょっと返信が遅くなっただけで、もういいと拗ねる


そして私はよっちゃんをあやすために時間を取る


エースには仕方ないって人もいるかもしれないけど、はっきり言って苦痛だ…


売り上げ制ではなくポイント時間制のここでは、費用対効果が悪い



私は由美さんみたいなイチャイチャ色営はしないし、出来ない



そんなわがままなよっちゃんを手懐けるのに苦戦していた



何度か切ろうと思った


実際切ってしまうのは簡単だ



けど、考えて思い止まる



私は今ある生活水準を失いたくない



そして、ゆきさんを抜くという目標まで遠退く



散々今まで貧乏でパッとしない生活で、ブスだバカだと貶されてきた人生から一転、キャバクラの華やかな世界で「麻衣」として羽ばたこうとしているのに、こんなんで負けるもんか



全部、食い尽くしてやるんだ



私は成り上がる



そう決めたのだから


にしてもストレスが溜まる…



私は普段仕事以外でお酒は飲まない


つーかなんなら嫌いだ



けど、その日私はいらいらした気持ちが納まらず、飲みに出かけることにした




田舎のさびれた駅前


昔の商店街は今やシャッター街だ



昼間閑散としているここらも、夜はネオン街へと変貌する



そんな一角の、とあるバーに立ち寄った



「いらっしゃい」


年齢不詳のガリガリなママが、声をかけてくれる


酒焼けして、しゃがれた声だった


カウンターの目立たない席に着席する



「ビール下さい」


従業員の手間をかけさせない、そしてメニューを見なくても大抵置いてあるお酒を頼んだ



苦いだけで、ちっともおいしくない生ビールが出てくる


私の舌はまだまだ子供だ


ママにもお酒をおごって、2人でグラスを合わせた




ふと周りを見渡すと、私と同じように隅の席でお酒をあおっている男がいた



顔は俯いて見えない



じっと凝視していると、こちらに顔を向けた男と視線が合った



歳は私より年上だろう


でも肌はきめ細やかで、綺麗


お酒は見たことない銘柄


私はつい店の癖で、知らない男にも愛想笑いを浮かべて会釈した




男はなんと、はにかんだような笑顔を返してきた


私はその反応にきょとんとしてると、男は何事もなかったようにそのまま手にしたグラスのお酒を一気に飲み干していた


遠くからでもわかる、シワ一つない綺麗なスーツ


品よく固められた髪の毛に乱れはない


店長とは大違いだ



私は何だか気分がよくなり、ビールをあおる


「ママ、もう一杯下さい」



苦手だった酒


最初はジュースしか飲めなかったのに


いつの間にか、平気で飲めるようになってた



どんどん戻れなくなる


深みにはまっていく



染まっていく

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