悪戯
1 悪戯
目を開けると、真っ白な天井が広がった
どこかで嗅いだことのある独特な匂いが漂っている
「…病院…?」
すると右側の方で扉が開く音がした
看護師さんが入ってくる
「お目覚めですか?気分はいかがですか?」
起き上がろうとして額に鈍い痛みが走る
「った…」
「あ、急に起きたら患部が痛みますから、ゆっくり起き上がって下さいね」
私は言われた通りゆっくり起き上がって患部に触れた
額には包帯が巻いてある
腕には点滴のチューブが刺してある
ああ…私…麻衣を守って、交通事故に遭ったんだ
生きてた…
だんだん自分の置かれた立場を理解してきた
「事故のことは覚えてますか?」
優しく看護師さんが聞いてくる
「なんとなく…」
「頭を打っただけで、詳しく検査しましたが、幸い、脳に異常は見られませんでしたよ、今日はゆっくりお休みになられて下さい」
「はい…お世話になります…」
看護師さんは静かに病室を出て行った
私は患部が気になって、横に備え付けてあった鏡を覗き込む
そこには整った顔で鏡を見つめる麻衣の姿があった
…あれ?私…
そういえば麻衣は!?
私は刺してあった点滴も忘れて、さっき出て行った看護師を追って外に出た
「看護師さんっ!!麻衣さんは無事なんですか!?」
小さくなった看護師さんはきょとんとしながら言う
「…麻衣さんはあなたでしょう…?」
…どういうこと?
点滴を刺されていた腕から血が滲んできていた
紛れもない、私は生きている証拠だ
私は病室に戻り、もう一度さっきの鏡を覗きこんだ
やっぱりそこには麻衣がいた
どんな動きをしても、私と同じ動きをする
「痛い…!」
額に痛みが走る
その場に私は倒れた
次に目を覚ますと見慣れない白衣のおじさんがいた
多分お医者さんだ
「勝手に動いたりしたらだめですよ、今日は安静に」
医者の諭す言葉に耳を貸さず、私は食い気味に聞いた
「麻衣は!?」
「気が動転してるのかな…?麻衣はあなたでしょう、愛さんなら別室で安静になさってますよ、無事です」
医者はニコリと、はたからでもわかる作り笑顔を見せた
「違います!私は愛です!」
「後ろの名前を見てください、あなたは麻衣さんですよ…」
医者は苦笑するとそばにいた看護師に多分薬の名前を何個か言っていた
それは私がちょっときいたことある名前の薬だった
「…私を頭がおかしいと思ったんですか?」
医者は私に向き合うとまた諭すように言った
「違うよ、心を落ち着かせる薬だ、麻衣さんは事故のショックでちょっと気が動転してるんだよ、今日は休んでなさい」
何を言っても無駄だ…
私は諦めて医者に適当に従った
「…愛さんの病室は?」
「今日は安静に、明日点滴が外れますから」
先ほどの看護師が今度は面倒くさそうに対応した
横に写る鏡には相変わらず、麻衣が写っている
…私は本当に頭がいかれたのだろうか…?
よくわからなくなり、考えることを止めて眠りに就いた
瞼の裏でチカチカ、事故の情景が流れる
私は車にぶつかってから記憶がない
だからいつからこんな変な状態になってしまったかわからない
右側の扉が開く音がした
目を開けるとそこには「私」が、点滴のチューブを刺しながら立っていた
「…愛なの?」
愛、いや愛の姿をした麻衣が私に聞いてきた
「麻衣…!」
麻衣が駆け寄ってくる
さっきの言い方からして、麻衣にも同じ現象が起こっている…!
「ねえ愛、私変なの、看護師さんやお医者さんに言っても信じてもらえなかった、でも愛なら信じてくれるよね?」
前置きで確認するように聞いてきたので、私は自分に言い聞かすように応えた
「大丈夫、麻衣の頭はおかしくない、私もね、多分、麻衣と同じ現象が起こってる…私たちは、中身が入れ替わってしまったんだと思う…」
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