8 悪の華
駅前に着くと、少し遅れて麻衣がやってきた
「あーいー!久しぶり!」
手を振る麻衣は流行りの服に身を包み、高校時代とは見違えるほど綺麗になっていた
途端、劣等感と羞恥心が私の中で花開く
キャバクラからそのまま向かった私の服は、何年か前に買ったくすんで色あせたダサい上着に、首のよれたTシャツとジーンズの野暮ったい格好だった
ダサい
ダサ過ぎる
消えてしまいたい衝動を抑え、会話する
「久しぶり…どうしたの?」
「実はね、じゃーん!愛にプレゼント!」
「え?」
渡されたのは綺麗にデコレーションされた色紙だった
HappyBirthday…
そういえば私、誕生日だった…
日々の忙しさに自分の誕生日をすっかり忘れていたのだ
「…ありがとう…嬉しい…」
色紙には写真やプリクラが貼ってあり、手紙のようになっていた
「愛、誕生日だからさ、サプライズ」
「ああ…」
満面の笑顔で満足気な麻衣を見て、罪悪感がふつふつ湧く
私は、中学を卒業してからあんたを追い越すことや、負かすことしか考えてこなかったのに…
なんでこんな…
胸をぎゅうっと絞ったみたいに、押し潰されそうな感情が湧いてくる
私の中にいつしか芽生えた悪の華がしぼんでいくような気がした
いっそ枯れてしまえば、私は毎日疲れなくて済むのに…
嫉妬とか、劣等感とか、妬みや憎しみの養分がなくなれば、華は枯れるのだろうか
「それだけ、今日渡したかったの!じゃね!」
「麻衣…」
そういいかけて、手を振る麻衣を見ると、背景に車のヘッドライトが見えた
「麻衣…!」
私は思わず麻衣に向かって駆け出した
スローモーションのようだった
私の声にきょとんとした表情の麻衣に、覆い被さるようにけのびした
後ろの車はもう目の前だ
守ることは出来ても避けるのは不可能だろう
ぶつかったな…
スローモーションのなかで冷静にそんなことを思っていた
ドン
鈍い音がした
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