リュー7歳:仲間と目指す発展!編

行儀見習いの従兄弟と金のなる木

 アトラントの体感ではこれから暑さが和らいで実りの季節を迎える秋の気配の漂う頃合い、俺は7歳を迎えた。


 その少し後、だいぶ前から話が出ていた俺専属の侍従がカトゥーゼ家へとやってきた。

 侍従という役割ではあるが、商家に嫁いだ父の妹の息子、つまりは従兄弟であり、貴族邸宅で行儀見習いをする目的が大きい。


 名前はソルア・カドマ。

 明るい茶色のふわふわの髪を肩上で緩く束ねて腰まで垂らし、地味な茶色の瞳、垂れ目で二重の柔和な顔立ちの、華美でなく品の良い衣服を身にまとった12歳の少年である。


 貴族のキラキラした美形とは少し違い、表情に人好きする愛嬌があり、おっとりとした顔つきなのに表情豊かに見える。

 しかしよく見ているとその実は、人に疑念や不快感を抱かせる顔は一切見せていない気がする。

 屋敷にきたその日から、距離を感じさせない気軽さで屋敷中の使用人と昔からの知り合いであるかのように談笑し、まだ使用人としてはかなり年若いのに、物怖じも気後れもせず、教えられたことについて素直に礼をいい実行している。


 なにやら計算高さを感じるんだが……気のせいかな…。



 手のかからない男爵令息である俺は、基本的に自分のことは自分でしている。

 メイドが起こしに来る前に自分で起きて着替え、走り込みや剣の稽古なんかを終えたら勝手にシャワーを浴びて着替えている。


 メイドに起こされる朝寝坊を何度かしたことがあるが、かしずかれる文化のない平凡な元日本人には、刺激的すぎる経験だ。

 顔見知りとはいえ、年頃の女の子やお姉さんに起こされるんだぞ?

 寝汚くなかったかとか、イビキや歯ぎしりしてなかったかとか、スケベな夢見てにやけてなかったかとか、口元にヨダレ垂れてないかとか、色々、色々、気になりすぎるだろ!

 もうちょっと成長したら、いつか大惨事は免れないだろ!貴族の皆はどうしてるんだよ。


 恐怖した俺はスヌーズ付のアラームの魔法を開発した。意地と根性と追いたてる不安感でやり遂げた。

 この世界にも時計はあるんだけど、何も持たずに魔法で時間が確認できたり、アラームがなるまで時間を気にせずに何かに没頭できるのはすごく便利だ。



 それはさておき、午後からの活動も、俺は自分でスケジュール管理して行っている。

 もちろん、使用人の仕事を取るつもりはないから、部屋の掃除なんかは当たり前のようにしてもらっている。

 整理整頓してないとすぐに物をなくすから、散らかしてはないけどな。


 その他で使用人の世話を受けるのは、お茶や食事の給仕だとか、お茶会とかに出かける時の準備、欲しい日用品を用意して貰ったり、友達との約束の連絡や調整だったり。

 自分で行動できない分、頼っているところもあるけど、専属が必要なほどの仕事量ではない気がする。

 現に今までは屋敷の執事がやってくれていたし。

 ソルアはそんな俺の侍従となったのである。



「リューくん、何か用意するものはある?」

「うん、紙を綴じる紐を数組と補充のインクが欲しい。どっちも執事のダリーが予備を購入して保存してくれてるから備品庫にあるよ」

 尋ねるソルアに俺は教える。侍従としてそういうのは知っておかないといけないだろうから。


「そうなんだ。明日のスケジュールはわかる?」

「スケジュールはカレンダーに書き込んでるから、それ確認して。週間とか月間の予定は隣の予定表な」

 壁に貼ったカレンダーと予定表を示す。見えるところに貼っとかないと、確認が面倒になるんだよな。


「それじゃあ、お茶でも淹れようか?」

「もうすぐ友達が来てお茶会だから、マグナが用意するしいいよ。あ、その本はマグナが読みかけて置きっぱなしだから、片付けたら怒られるぞ?」

 せめてもと、片付いた部屋の中でソファー周りに乱雑に置かれた本へと手を伸ばしたソルアを制止すると、ソルアは手を止めてから眉を下げ、困ったように笑った。

 その笑顔は隠しているようだが、少し引きつっている。


「えっと、リューくん、私は何をしたらいいんだろう?」


 うん、だよな。ただ黙ってついてくるだけのお仕事になっちゃうよな。

 普通の侍従って何をするんだろう?侍従もどきのクロノは一緒に遊んでるだけだしなー。


 考えるほどに苦笑して、俺はソルアに提案した。

「別に何もしなくてもいいんだけど、とりあえず一緒にお茶会しようか。友達に紹介するよ。これから先も顔を合わせるだろうから」



 そうしてソルアを紹介し、一緒に参加したお茶会で、俺はソルアをよく知ることになった。

 ソルアは人心掌握が得意で頭がよく腹黒い、まさしく商人の息子である。

 損得勘定は誰よりも得意で、流行りや流通には目敏く、商魂たくましい。

 最初は大人しく俺とユーリ、ハル、マグナ、そしてクロノの話を聞いていたのだが、内容が領土開発にさしかかると嬉々と語らった。


「皆様、とても優れた情報網をお持ちなんですね。それだけでなく、膨大な知識も。貴族の子女でなかったならば、商人としても立身できますよ。立身どころか、大商会を立てられそうだ。私はこの会合に出席できて、すごく幸運です」


 おっとりとした顔で柔らかく笑うソルアの頭の中では、金のなる木が繁っているようである。漏れこぼれるうさんくささでいっぱいだ。


「街道整備は物流のためには重要です。この一帯の領地に土地が余っているのなら、いっそ領地の境目なんて小さなことは置いておき、王都まで一直線に立派な街道を敷くこともできます。

 今すでに物流の足りないこの地には商機がありますし、それだけではなく土地と流通があれば、街は発展し、人が集まれば需要はさらに向上します。

 この国を変えるような商いのチャンスなんて、夢のようではないですか」


 あくまで無邪気な穏やかな声で語られる、邪気だらけの金勘定。

 だけど、これだ。今まで具体性に欠けていた領地の発展のためには、かなり心強い。


 俺はまた頼もしい味方を獲得したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る