異世界転生、ただし乙女ゲームのモブ男です。
ちえ。
リュー5歳:計画初動編
はじまりは…
目の前に現れる炎の輪。水はシャボン玉みたいに空を漂い、軽やかで楽しげな音楽に合わせて緑の蔦が形を変えて延び、鮮やかな色の花が咲き乱れ、風が極彩色の花びらを散らす。
美しい踊子が天女のように空を飛んで舞い、地上で軽やかに剣を振るう切先の曲線美、極上のエンターテイメント。
銀の髪の少年が片手を空に突き上げると、溢れた光が高く晴天の中で花火のように弾け、キラキラと降ってくる。
―――魔法。
私の世界にはなかったもの。
小さな手を握りしめ、目を見開いて感嘆する。
周囲から聞こえる歓声やため息、広い広い農地しかない土地の、唯一のお屋敷、領主の館の前の有り余った広場は、夢のような景色に賑わい沸き立っている。
まだ5歳の領主の息子、しがない田舎男爵家の嫡男である私が、初めて見る魔法に夢中になるのは当然のことだろう。
―――でも何か、…何か、気になる。
目の前で煌めく光が、蝶になりひらめく。しばらく優雅に蔦と戯れた光の蝶は、小鳥へと姿を変えてやわらかな光を振り撒きながら空の彼方へ飛んでいく。
飛び去る空には、上に、下にと自由自在に高さを変えながら薄布をはためかせ踊る美女。
―――人が、空を飛ぶなんて。何もないところに、火や水や光が現れるなんて。
今、私の生きている世界にある魔法という奇跡!!
でも、いつから私は私なんて一人称になったんだろう?高校受験と就職面接以外では使ったことがなかったのに。
というか、5歳児は受験も就職もしないな。だいたい俺は家を継いでこの領地を統べなきゃなんだし。
ていうか、なんで5歳児?
ていうか、ここ明らかに日本じゃないし、俺明らかに日本人じゃないよね?
淡い金の髪、碧の瞳、目立つような何がある訳じゃないけど、そこそこ美人な母上に似てお人形のようと言われ、女の子と間違われる容姿。
……オーケー、オーケー、落ち着こう。ちゃんと覚えてるぞ。
俺の名前はウリューエルト。ウリューエルト・カトゥーゼ。このひなびた農耕地のアトラント地方を統べる弱小田舎男爵家の、今のところ一人息子。
でも、
就職内定決まってて、春からはそこそこの病院の薬剤師になる予定だったし。
あれ、なんだこれ。
だいたい、ウリューエルトってさ、ニコがやってた乙女ゲームで俺様なお貴族様に顎で使われて喜んでた情けないモブじゃね?
ニコが、ちょっと可愛いけど情けないよね、樹の方が男前だよって呆れてた。
―――ニコ?
そうだ、ニコ。俺の双子の妹で、………。
思い出した。
その瞬間、5歳児には耐えられない量の記憶が頭に流れ込んできて、俺は目を回した。
―――なんだよ、なんでだよ。
俺だって転生するなら、俺TUEEEEE!無双したかったよ!!!
なんて、頭痛と吐き気でぐらんぐらんの頭で恨み言を連ねながら。
光の中の少年が柔らかに慈愛の笑みを浮かべた。
『やっと会えたね、一樹』
意識を失う間際、頭の中に知っている声が聞こえた気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます