gene manipulation

神楽蜜柑

代償は命

『あなたの命と引き換えに怨み晴らします』


 僕は意を決して、その文字をクリックした。

 画面に現れた必要事項を埋めていく。名前、アドレス、怨みを晴らして欲しい相手の詳細、何故相手を恨んでいるのか? 等、全てを打ち込んで送信のボタンをクリックした。


 数分後にメールが届いた。


『この度はご利用ありがとうございます。貴方の怨みはごもっともです。ご依頼承ります。

 ご依頼終了まで約3日程掛かると思われますので、ご依頼達成次第ご連絡させて頂きます』


 そして3日経ったがメールは送られてこなかった。


「ふぅ、当たり前か……」


 よくよく考えてみれば、どの様に怨みを晴らすのか、どうして欲しいのか等の話しは無かった。オマケに、代償が命なんてあり得ない。

 もし、あの女に平手打ちをしてくれたとして、その変わりに僕が死ななければならないなんて、どう考えても釣り合いが取れない。


 


 そして、日付が変わる時間になり、そろそろ寝ようかと思った時に1通のメールが届いた。

 僕は慌ててメールを開封する。

 そこには1本の動画が同封されていた。あの女ギロチン拘束され、よってたかって男どもに犯されていた。


 僕は食い入る様にその動画を見ていた。何処かのビルの屋上みたいだった。画面の左隅に見慣れた景色が映った。

 僕は部屋着のまま部屋を飛び出し、このマンションの屋上へと向かった。普段なら鍵が掛かっていて立ち入ることの出来ない屋上へと続く扉。

 ゆっくりと手を伸ばしノブを右に回して扉を押した。扉は僕が押した分だけ開いていく。


「ようこそいらっしゃいました、ご依頼主様。ご依頼主様の怨みはこれで晴れたでしょうか?」


 ギロチン拘束されたあの女は白目を剥き、口は大きく開かれ犬みたいに舌を出して涎を垂らしていた。

 

 その隣には僕に話し掛けてきた絶世の美女が佇んでいた。


「この女は既に私達の手によって奴隷と化しています。訴えられるなどと言った行動は一切ございません。

 もしご依頼主様がこれで怨みを晴らせたのであればお約束通り、私達にお命を預けて頂ければ幸いなのですが……」


 この女には僕の親が残した遺産の殆どを食い潰され、結婚した後に住む筈だったマンションの名義も知らない間に、この女になっていた。

 その上で、この女は僕に別れ話を持ち掛けて来た。


 そう、僕は結婚詐欺にあっていたのだ。


「奴隷か……。もし僕が貴女方に命を預けたとしたら、この女はどうするのですか?」

「それはご依頼主様次第でございます。私共と致しましては、ご依頼主様には此方の薬を飲んで頂きたいのです。決して毒薬ではございません。

 この薬は私も飲んでいます。でも私はこうして此処に立っています。ただ死ぬかもしなれい薬だとお考えください。

 ご依頼主様がこの薬を飲んで生き残っていたなら、この奴隷は譲渡する事も可能でございます。その代わり、ご依頼主様が生き残った場合、私共の組織に加入して貰います。申し訳ございませんが、これは決定事項です」


『あなたの命と引き換えに怨み晴らします』


 この言葉をクリックした時に僕は決心していた筈だ。今更考える事でもないだろう。


「わかりました。その薬は飲みます。その薬を飲んで僕が死んだら、その女は好きにしてください。

 その変わり、僕が生き残ったら譲渡という事でお願いします」

「ご依頼主様の条件、承諾させて頂きます。それではこの奴隷は一旦撤収させて貰います。

 明日の朝9時にお迎えに参りますのでご用意お願い致します」 


 

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