第五百七十三話 悪魔が語る真実②
「レガーロ……お前、どうしてそんなことを……」
賢二が両親を殺害したと告白し不敵な笑みを浮かべたレガーロ。俺は困惑した頭のまま尋ねると、彼女は肩を震わせながら口を開く。
『イッシッシあの時、言ったじゃありませんか。家族がどうなったのかを知りたいですか、とね』
「あの時……初めて会った日か……」
『ええ。別に聞きたくないと言っていたので引っ込めましたが、実はそういう事情があったんですねえ。その後は警察に追われる身となり自殺……三門 賢二さんの人生はなんと英雄が亡くなってたった二年で終了。まさかこの世界に居るとは思いませんでしたが『ラース』に関わらなければよしとしていたんですよ』
「うるさいぞクソ女! こいつが死んだせいで、俺が矢面に立たされて、ガタガタ言われる羽目になった! 悪いのは勝手に死んだ兄貴だろうが!」
それこそ勝手なことを言うやつだと俺は深呼吸してからため息を吐く。終わったことだ、こいつを捕まえて終わりにするだけだと思っていると、レガーロの顔から笑みが消え――
『まだそんなことを言いますかあなたは!!』
「……!?」
――俺も驚くほどの怒声を賢二に浴びせていた。
『他人のせいにするところは母親にそっくりですね。あなたが受けていたストレス、それは英雄がずっと抱えていたものなんですよ。他人に評価されない、頑張っているのにできていない、もっとやれと。彼が居なくなったのであれば両親を支えるのは子であるあなたの役目でしょう』
「知るか……! 俺は俺のために生きていたかったんだ! ガタガタ言われる筋合いはねえ! 保険金だけで生きていけるはずだったのに、クソ親が全部使った……なんで俺が苦労しないといけねえんだ!?」
口を開けば自分は悪くないと叫ぶ賢二。
その言葉を受けるレガーロの顔はどんどん険しくなっていき、首を振りながら続ける。
『ふう……馬鹿につける薬はないと言いますが……本当にその通りですねえ。両親は『そういうことをする』と兄である英雄を見て知っていたと思いますがね? それとも、自分は甘やかされているからそんな目には合わないと? クズ以下の考え方。まあ、あの両親の子なら仕方ありませんか』
「なんだと……! 知ったかぶりをしやがって、てめぇはなんなんだ!」
『アタシ? アタシですか? ……そうですねえ、三門一家を恨む者だと思っていただければ。いえ、自分自身も、ですが』
「レガーロ、お前は一体何者なんだ……? どうして俺に『超器用貧乏』のスキルを与えてくれたのか、本当の理由は別にあるんじゃないのか?」
賢二ではないがレガーロの正体は気になる。口ぶりでは俺達一家に対する恨みがある……だが、俺には有益なスキルを与え、賢二には怒声。
この違いはなんだ? そう考えながらレガーロを見ていると、不意に寂し気な顔で俺を見てから話し始めた。
『……昔、仲の良い夫婦がおりました。子供を授かり、幸せの真っ只中で誰もが羨むような家庭を築いていたのです。しかし、そんな夫婦を悲劇が襲いました。まだ一歳だった子供を乗せて里帰りをする途中に、事故に合ったのです』
「……!」
「どうした、賢二?」
青い顔をして言葉を詰まらせる賢二。
しかし構わずレガーロは続ける。
一体なんの話だ……? ウチの両親が事故にあったという話は聞いたことがない。誰の話を――
『両親は即死。しかし、幸い子供は無事でした。里帰り中ということもあり、親戚の中で誰が引き取るかの話になりました。そして保険金に目がくらんだ三門家が……その子供である『二神 英雄』を引き取った』
「……!?」
静かに微笑むレガーロが、俺を見る。
「三門……英雄……俺の前世の名前……まさか……まさか……」
『そう。あなたの本当だった名前は『二神 英雄』。三門家は親戚の家だったのですよ』
「そ、そんな……もしかしてそれで俺をあんな扱いに……?」
『ええ。三門家の母親はあなたの本当の母親の妹で、姉にコンプレックスを持っていたので、保険金と姉の子供を虐げる機会を得たとほくそ笑んでいたようですねえ。それからはラースさんの覚えている通り。搾取子として扱い続けた、というわけです』
そうか……今更だけど、俺はあいつらの本当の子じゃなかったんだな。
コンプレックスのある姉の子を虐待、か。
いや、その事実が分かっただけでも……俺は肩の荷が下りた気がする。本当の意味で、俺はあの家からの呪縛から解かれたのかもしれない。
「な、なにを言ってんだ? ……知らねえな」
「しらばっくれても無駄だな。それで俺は法事みたいな集まりには呼ばなかったってことか。くだらないプライドのために」
「くだらないだと……! お前みたいな能無しが――」
「能無しはお前だ、賢二。金が無くなり、自分で稼げなかった時点で俺より出来ていないってことだよな? どの口が俺を無能だと罵るのか!」
「ぐ……! クソが……今更そんなことをバラしやがって……! なんの権利があってそんなことを言う……!!」
賢二が地面を殴りつけながらファイヤーボールをレガーロを狙う。しかし、レガーロは指で簡単に弾き、壁が爆発を起こす。
『なんの権利、ですか? ……そりゃあ、アタシが言わなくて誰が言うのかという話ですねえ……まだ、気づきませんか?』
「気づく?」
『フフ……アタシがどうしてラースさんに肩入れをするのか……親族しか知らないことを知っているのか……少し考えれば分かるでしょう?』
そういって指をパチンと鳴らしたレガーロ。
スーツ姿の悪魔の姿は歪み、形を崩していく……歪む姿に目をこすってこらしてみると、次にその場に現れたのはセミロングの髪の先を結び、向こうの世界のブラウスとフレアスカートを履いた女性だった。
そして、彼女の口から事実が飛び出す。
『初めまして、かしら? 私の名は『二神
「え!?」
「なんだと……!?」
「か、母さん……!?」
『ええ、ようやくこの日が来たわね』
困惑すをよそに、母さんとなったレガーロ……でいいのか? が、頬に手を当てて柔和に微笑んでいた。
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