第五百三十八話 今までとは違う旅へ


 「それじゃ、次に会うのはエバーライドかベリアースか……どっちにしても油断だけはするなよ」

 「はい、師匠!」

 「もちろんそのつもりだよ。ファスさんやリューゼ達も気を付けて」


 ガストの町の外で俺達ベリアース行きのメンバーを見送ろうとファスさんを始め時間のある人たちが集まってくれた。

 仕事や準備があるルシエールやベルナ先生などは来れていないけど、打ち合わせはすでに終わっているので問題ないと思う。


 「お前なら余裕だろうから心配はしてねえぜ! 向こうで会おうな」

 「ああ。装備品が新しくなったからって無茶するなよ?」

 「へっ、無茶してもいいように訓練しながら行くって」


 リューゼは笑いながら俺の肩を叩いてそんなことを言う。

 まあ、随伴するメンバーもおかしな強さなので、相当訓練には向いていると思うけどさ。そんなことを考えていると、バスレー先生が声を上げる。


 「私の教え子たちですからね、余裕ですよ! 作り置きも幾つか用意してもらったので、気持ちよく送り出せますよ! 早く帰ってきてくださいね!」

 「もう言ってることがめちゃくちゃだよ!? 城のコックさんに作ってもらえばいいじゃないか」

 「あー、あー、聞こえませんー。ソレニワタシ、モウダイジンジャアリマセンカラ?」

 「……!」

 「落ち着けラース、出発前にケチが付く」


 謎の踊りを披露しているバスレー先生にイラっとして摑まえようとしたがリューゼに止められると、次いでヒンメルさんから声がかかる。


 「ははは、酷い言われようだねバスレーちゃん。まあ今回はことがことだけに留守番だけど、必要なら遠慮くなく呼んでおくれよ? 僕はまだフリーに動けるからね」

 「ありがとうございます。そういえば、バスレー先生の本当のお兄さんや、悪魔に体を乗っ取られていた彼らは……?」

 「うん、容体は回復しているけど……これ以上は言えないかな。出発前に憂いがあるのは良くない。彼らのためにも、早くエバーライドの解放を進めよう」

 「わたしもいざって時は行きますけどね?」


 バスレー先生がウインクしてそんなことを言うけど、レガーロが憑いているのでベリアースへは絶対ダメである。そこでマキナがバスレー先生の手を取って元気よく返事をする。


 「今回は任せてよ先生!」

 「そりゃあマキナちゃんやラース君のことだから大丈夫とは思いますけど、わたしも行きたかったですよー。……直接ベリアースの国王に食らわせるためにねえ?」

 「出てます、悪魔が出てますよ先生」


 バスレー先生の扱いはマキナが上手いのでやんわり窘めているのを横目に話を続ける。なんだかんだで結構一緒に旅をしているからバスレー先生やファスさんが居ないのは本当に久しぶりだな。


 「お兄ちゃん、頑張ってね! ボクも後から追いつくからね!」

 「ああ、お前も心配はしていないけど誘拐されたりするなよ?」


 セフィロともここで一旦お別れになるので、今回は本当にメンバーが違うと実感する。ファスさん、セフィロ、バスレー先生、ラディナにシュナイダーはいつも一緒だったしね。

 

 代わりと言ってはなんだけど――


 <ではそろそろ行くか?>

 <そうだな、いつもは自分で飛ぶが人間のように馬車というのも面白いな>

 「ドラゴンか……ベリアースが一瞬で滅びそうだ……」

 「ま、あの国は一度滅びてもいいのかもしれませんがね?」


 サージュとロザ、ヒッツライトにアルバトロス、


 『人間の王などどうとでもなる。問題は教主だ、ヤツさえどうにかなればベリアースなどどうとでもなる』

 『兵隊の練度は割と並みだからねえ』


 そしてバチカンとエーイーリー、それと俺達の後ろに立つエバーライドの兵士達、


 「わたしがバスレー先生の分まで頑張ってくるからだいじょぶだって! ね、アッシュ?」

 「くおーん♪」

 

 そしてクーデリカとアッシュという、まったく未知な組み合わせで旅をする。これも冒険者ならではと思えば楽しみでもある。

 さて、今回は両親に兄さんやノーラもおらず、アイナが寝ている早朝を狙ってサージュがこちらへ来たので身内は居ない。そろそろ出発するとしよう。


 「おーい、待ってくれよ!」

 「あれ? オルデン王子? ライド王子も。最近ずっと一緒だけど、随分仲良くなったよね」

 「そ、それはいいよ。それより、労いの言葉を父上に代わって伝えに来たんだ。‟危険な旅になるが、心してかかって欲しい。最悪の場合は逃げることも考慮せよ。気を付けてな”だって」

 「ああ、とても嬉しいお言葉だ。ありがとうございますと伝えてくれるかな」


 オルデン王子が笑顔で頷くと、ライド王子も両手を胸の前で拳を作って力強く言う。


 「くれぐれも無茶はしないようにお願いしますね……!」

 「はい! ライド王子もオルデン王子と仲良くしてくださいね♪」

 「そ、それはもちろんですよ!」


 マキナの言葉に慌てた様子で顔を赤くして何度も頷き、隣に立っていたライムが微笑みながら俺達へと声をかけてくれた。


 「我々の国のことなのに申し訳ない。このお礼は必ず……体を張ってでも返しますのでっ!」

 「あ、大丈夫、間に合ってるから」

 「冷たいよう……」

 「はは、まあ上手く行けばってところだよ。それじゃ今度こそ行こうか。リューゼ、ファスさん、セフィロ、みんなに宜しく言っておいて!」

 「おう!」

 「すぐに追いかける……というか国境までならあたし達の方が速いかもしれないけどね」


 そう言って肩を竦めるファスさん達に見送られ、俺達はガストの町を後にする。

 途中までは馬車を使い、国境を越えてから徒歩での行軍へと変更し、訓練がてらベリアース王国へと向かう予定だ。


 「どれくらいかかるんだっけ?」

 「確か七日はかかるって話だ。だよな、アルバトロス」

 「ああ、そうだぜ。……ったく、驚きもしねえんだからなあ……」

 「後でバスレー先生から聞いていたからね、斥候として活かしたって。他の人達は?」

 「別の国で細々と暮らしているよ。悪かったな、お前の母ちゃんを操ったりしてよ」

 「くおーん」


 御者をしてくれているアルバトロスが首だけ振り返りアッシュに苦笑いで言うと、アッシュは両手を上げて勇ましく鳴いた。一応『許してやる』と言っているのかもしれない。


 「へいへい、ありがとうございますよっと。バチカルの旦那、策はあるんでしょうね?」

 「そうだな。俺もそこが知りたいところだ」

 『とりあえず残りの悪魔をどうするか、からだな。お前達二人はなるべく国王と教主が会うように動いてくれると助かる。人前ではあまり正体を現さないからな教主は』

 「分かった」

 「よーし、久しぶりにマキナちゃんと長く居るから、ラース君とのこといっぱい聞こうっと!」

 「ええ!? 別に面白いことは無いと思うけど――」


 ヒッツライトが短く肯定し、一瞬馬車が静かになるが、クーデリカがマキナと他愛ない話しを始めると、馬車内の空気が少し和らぎ、各々話し始める。


 ……人と竜と悪魔を乗せた馬車は、恐らく今までとは比べ物にならない最大級の敵の下へと向かうのだった――

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