第五百三十六話 レオール参戦


 「……また恐ろしいことを考えているね、成人してからますます無茶をするようになったんじゃないかい?」

 「突っかかってくる奴らがおかしいんだよ、一国の王とか悪魔だとか。ま、これが終われば流石に平和に暮らせると思うけどね。そんなわけで行商人を装っているメンバーにノウハウを少し教えて欲しいんだ」


 俺は旅の最初から続いている福音の降臨との確執を説明し、敵地に乗り込むことを伝えると、難しい顔をして先ほどのような言葉が返ってきた。

 俺としても危険な場所だしあまり関わりたい連中でもないけど、色々な人が絡み合っているのでそうもいかないが現状だ。


 「僕としては優秀な商売相手が危険なところへ行くのは難色を示すかな。国の方針なら仕方ないけどね。さて、それじゃあラース君の依頼についての回答だけど協力は惜しまないよ。ルシエールちゃんの家もウチのお得意様だから、帰ってこれなくなっても困るしね」

 「ありがとうレオールさん!」

 「ただ、ひとつ条件がある。それを聞いてくれるかな?」


 俺が歓喜の声を上げると、珍しく不敵な笑みを浮かべて手で制してきたので続きを待つと、レオールさんはとんでもないことを口にする。


 「その旅、僕も一緒に同行させてもらいたい。エバーライドとベリアースの二つが正常な状態に戻れば貿易も正常化するだろう? その時、僕も活躍しておけば恩が売れて、商売しやすくなると思うんだ」

 「ええっと……さっきラースが話した通りかなり危険ですよ……?」


 マキナが冷や汗を出しながらそういうと、レオールさんは笑いながら返してくる。


 「ははは、ありがとうマキナちゃん。だけどこれでも僕は結構あちこちに顔を出していて、荒事にも巻き込まれることもしばしばある。それに戦いメインじゃなければ僕の【交渉力ネゴシエーション】は役に立つと思うけど?」

 「レオールさんってそういえば商会のトップなのにウロウロしてますよね。出身はどこでしたっけ?」

 「僕はサンディオラからさらに向こうの国‟ノースライド”で、店自体はあるけど、倉庫としてしか使っていないから基本は旅業者って感じだね」


 何故か嬉しそうに語るレオールさんに目が丸くなる俺達に、さらに驚愕なことを言いだす。


 「実を言うと僕は元々冒険者になりたかったんだ。子供のころは英雄ってやつに憧れたものさ。だけど授かったスキルは戦闘には向かないものだったからこういう冒険をやってみたかったんだよ」

 「なにかあった時に責任が……」

 「僕はもう三十だ、自分の責任は自分で取るよ。どうだろうか?」


 まさかそんなことを言いだすとは思わず、俺はマキナ達と顔を見合わせると、ファスさんが口を開く。


 「……まあ、いいんじゃね? いつもフラフラしている行商人なら怪しまれることもないだろうし、カモフラージュするには完璧だ。リーダーってことにしておけばかども立たない」

 「俺としても助かるけど、あくまでも他国の人だから国王様に聞いてみないとね」

 「なら僕が自ら謁見をさせてもらうとしよう。人数が多いし、家の倉庫にある大きめの荷台を取りに行きたいけど手伝ってもらえるかな?」

 「それはサージュ達に頼めばすぐだと思うよ」


 俺がそういうとレオールさんが満足げに頷く。まずは許可を、と思ったところでヘレナが立ち上がった。


 「あ! アタシ用事を思い出したわぁ」

 「あれ、そうなの? もう私達は出かけないから食事をしてもらおうと思ってたんだけど」

 「んー、それは魅力的だけどお、急ぎの用事なのよ♪ それじゃあねえ。ノーラもまたね」

 「うんー! 今度劇場に行くねー」


 そそくさとヘレナは俺達にウインクをして帰宅した。

 正直なところ、レオールさんが行けて私が……みたいなことを言いださなかったのは幸いだったと胸をなでおろす。


 「残念だけど、ノーラも行かないしパティもどこに居るか分からないからAクラス全員は揃わないしね」

 「そこが問題じゃないけど……まあ、諦めてくれたなら俺としては助かる。それじゃレオールさん、俺は行かなくていい?」

 「そうだね。恐らく許可が出ないということはないはずだから、家に帰る手はずを頼むよ」

 

 レオールさんもヘレナの後を追うように家を後にした。


 「なんか……段々規模が大きくなってきたわね……」

 「仕方ないと思うぜ、いわば戦争の前哨戦みたいなもんだしな。あたし達は失敗するわけにはいかねえってこった。ま、それでもドラゴンに大賢者、悪魔に戦鬼が居るし、ほぼ負けはないと思うけど」

 「大賢者?」


 他は分かるけど、そのフレーズに該当する人間が居なかったのでファスさんに聞き返すと、俺の鼻先に指を置いて口元に笑みを浮かべてから言う。


 「そりゃお前のことだよラース。魔力、知識、応用力、人格……は、ちょっと優しすぎるからなんともだけど、あたしが会ったどの人間よりも格段に上だ。国王も言っていたけど、賢者ってのは間違いねえ」

 「いや、前世の知識とかを使っているからあまり褒められても困るんだけど」

 「それでも、だ。知識はあっても使えなきゃ意味がねえ。だけどお前はバスレーを魅了したハンバーグを始め色々と作っている」

 「うん、多分衣装が最初だと思うけど、バスレーがしつこいからあっちの方がインパクト強いよね」

 「あんまり話題に出すと出てくるからその辺にしておきましょう」

 「お化けみたいー」


 ノーラが苦笑する中、ファスさんが締めくくる。


 「ま、そういうことだから、ラースとマキナは心配してない。任せたぜ、大賢者様!」

 「達人のファスさんに言われるとこそばゆいけど……大丈夫、ちゃんとアポスを倒してくるよ」

 

 俺の言葉に頷くマキナ達。

 これで下準備は整ったので、まずは俺達がベリアースへと向かう日程を決めなくては。



 ◆ ◇ ◆



 「まさか大胆な計画があったとはね。販路拡大のためには協力せざるを得ない。埃をかぶっていたアレを使う機会ができたよ」

 「ほ、本当に行くんですかい大旦那様……そりゃああっし達もついて来いと言われれば行きますけど」

 「ああ。だけど、公じゃなくて陰からついてきてくれないか? 伏兵は多い方がいい。あえてラース君達に教えないでおいてね」

 「はあ……国から国へ移動するだけで飽き足らず、いよいよ命を売り買いするんですかい……ま、俺達は旦那の言うことをきくだけですけど」

 「悪いね、もちろんギャラは弾むよ……っと、これはこれは……」


 謁見のため大通りを歩いていたレオールと用心棒として雇っている男達の前に、帽子を目深に被った人影が立ちはだかる。

 そしておおよそ意外な人物が帽子のつばを上げてウインクしながら口を開く。

 

 「はぁい、レオールさん。アタシも謁見したいんだけど、連れて行ってくれないかしらぁ?」

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