第五百三十四話 多人数すぎるので……


 「そんじゃ次は俺達の番だな!」

 「うん。あんまりお役に立てないかもしれないけど頑張るね」

 「でもガチの商人ってルシエールだけなんだよな……ルシエラも居ると良かったんだけどなあ。戦力は多分十分すぎる……」

 <わたくしが全員守って差し上げますわ♪>


 ベリアース行きの提案が終了すると、リューゼがエバーライド組についての話をすると言って手を上げると、ルシエールとジャックがそれぞれ口を開いた。

 正直なところ旅の行商人を装うなら本物の商人であるルシエールが適任なのは間違いないし、ルシエラも居れば確実だっただろうけど、残念ながらルシエラは俺の依頼で就業することになってしまったのだ。


 まあファスさんにベルナ先生、それにティグレ先生がいるので荒事は心配していないけど、と思ったところで国王様が顎に手を当てて片方の眉を下げて言う。


 「ふむ、行商人としては少々多いんじゃないか? どちらかと言えば旅芸人クラスの人数だと思うのだが……。同じようなことをしているレオール殿は多くても三、四人程度ではないか」

 「うーん……」


 確かにメンバーを考えると行商人の数じゃないか……? というかドラゴン三人が増えたせいで一気に大所帯になったせいだろうけど。

 少し考えているとレッツェルが手を上げ、国王様が頷くと提案を口にしだす。


 「僕としても固まっているのは良しと思えません。なのでここは二つに分かれてみてはいかがでしょう? 商会の娘と同行する者は行商人、それ以外は旅芸人でもパーティを組んだ冒険者でもいいと思います」

 「まとまっておいた方が良くないか?」

 「みんなが心配なのは分かりますが、敵地の場合はそうとは限りません。そうですね……メリットは簡単に考えても二つ。例えば行商人の一行が先に町へ入り、知り合いではない体で冒険者組が一日ずらして後に続く。そうすれば情報収集や防衛が少し分散するので、どちらかのメンバーが強襲されても、もう一つのパーティがフォローできるといったことも可能かと」


 なるほど、確かにそれなら『そ知らぬふり』をすれば誰にも分からないし、合流したければギルドや酒場で『意気投合』すれば不自然な感じにはならないか。調査をするなら、二パーティは合理的であると言える。


 「うん、確かにいいかもしれない。引率になるファスさんやベルナ先生の意見は?」

 「わたしもいいと思うわぁ。冒険者にファスさん、行商人にわたしが入れば大人を両方に、ドラゴンさんも二手に分かれれば戦力も充実しますよぉ」

 <行商人にはジャックが行くと聞いておりますし、わたしはそっちに回りますわ。後はヴィンシュかジレ……で良かったですわよね? どちらか一人来てもらえればいいかと>

 <じゃあ僕がいいかな? ジレは戦い好きだろ?>

 <そうしよう。道中、リューゼ達と戦闘訓練でもするか>

 「望むところだぜ! というかいつの間に名前を……」

 『私も行きたかったなー』

 「リリス、泣くんじゃありません……わたしも行けないんですから……」

 『泣いてるのバスレーじゃない!?』


 とりあえず二パーティで行くことに問題は無さそう、というより乗り気なので止める必要もない。メンバーはバランスを考えて組み立てていき――


 行商人パーティは、ベルナ先生、ティリアちゃん、ルシエール、ヨグス、ジャック、シャルル、ヴィンシュ七人で、これがギリギリの線かと決定した。ヴィンシュとベルナ先生が夫婦設定、ルシエールとヨグス、ジャックとシャルルというやや偽カップルもあるが、変なのにつけ狙われないためにそうした方がいいだろうとベルナ先生が提案した。


 「ぐぬ……」

 <ははは、奥さんはちゃんと守るから安心して欲しいね>

 「そうじゃないよヴィンシュがイケメンで負けた気がするのが悔しいだけなんだ」

 「うるせぇぞラース!」

 「ほら。ティグレ先生、顔が怖いからティリアちゃんに嫌われるよ?」

 「だ、大丈夫だ。ティリアはパパが好きだもんな」

 「うん!」


 さすがにベルナ先生の娘でもあるな……あの顔を見て泣かないとは。ノーラなんて最初の笑顔で半べそをかいていたというのに。

 

 「そんじゃ残りが冒険者ってことか」

 「だな」

 「僕は冒険者でも良かったけど……ウルカ、変わらないか?」

 「オオグレさんが居るから僕の方が荒事には強いと思う。悪魔とも戦っているからね」

 「なにげに強いよねー、ウルカ君」

 「クーデリカの【金剛力】には勝てないけどね」


 冒険者パーティは……ファスさん、リューゼ、ウルカ、ナル、ジレ、そしてセフィロの六人。オオグレさんも居るので戦力に不足を感じることは無いかな?


 「オッケー、ティグレ先生も陰から見守ってくれるなら心強いぜ」

 「無茶をするなよ? あくまで俺達は調査だ。できればエバーライドを先に奪還しておきたい、そうすればベリアースを挟み撃ちにできる足掛かりになる」

 「分かってるよ、先生。それじゃ早速出発の準備をしねえとな!」


 リューゼが手のひらに拳を打ち付けて不敵に笑うが、そこでルシエールが小さく手を上げて言う。


 「あ、でも待って。私の見つけた石で装備を作って貰っているんだけど完成までもうちょっとかかるの。その後でもいいかな?」

 「それでいいよ、俺達で終わらせられれば一番いいから、先に行くけどね」

 「美味しいところを持っていくなよな」

 「ことが早く済めばそれだけいいだろう? ……人が多く死ぬ戦争はごめんだよ」

 「……そうだな、すまねえ……」

 

 リューゼが俺の言わんとしていることの気づき、謝って来た。

 出来るだけ被害を最小限にして教主アポスを倒す。それでこの一連の事件は幕を閉じるはず。


 「では、後はエバーライドの兵を募らねばならんな。それは私がやろう、お前達は入念な準備をしておくのだぞ」

 「はい、ありがとうございます!」


 俺達は挨拶をした後、日程の調整を行った。

 俺達ベリアース潜入組の出発は二日後に決まり、ガストの町に転移魔法陣で移動後に馬車で国境付近まで移動後、徒歩でベリアースを目指す。

 兵士のみんなは到着二日前に断食してもらうという過酷なものだが、ベリアースを討てると聞いて意外と集まっていたりする。

 ルシエールは本当に売りに出せるような品物をソリオさん経由で集め、商売もするらしく商魂たくましいと俺達は苦笑し、リューゼ達はさらに修行を積む様子。

 

 城から出てみんな解散し、俺達はひとまず自宅へと戻る。話し合いは結構な時間行われ、すでに昼近くになっている。


 「後はレオールさんだけね」

 「だなあ、俺達の出発を遅らせるわけにはいかないし、ルシエールに任せることになりそうだね。セフィロもリューゼ達を頼むよ」

 「ボクはお兄ちゃんと一緒に行きたかったよー」

 「あたしと一緒だからいいじゃないか」

 「ファスおばあちゃんは好きだけど、やっぱりラースお兄ちゃんがいいもん」

 「こいつめ」


 ファスさんがセフィロを抱っこして肩車し、俺はセフィロに目を向けて話す。


 「悪いな、悪魔達はお前と対になっているから、味方になっていない悪魔が気づいてアポスに報告されると厄介だからな」

 「むー。……気を付けてね、ラースお兄ちゃん、マキナおねえちゃん」

 「ああ。……って、あれは」


 家に近づくと、見覚えのある人物が立っていた。


 「やあラース君! 僕に話があるんだって?」

 「レオールさん!」


 噂をすればなんとやら、レオールさんんが尋ねて来ていた。さらに――


 「あ、おかえりぃ♪」

 「ラース兄ちゃん、セフィロ!!」

 「なにぃ!?」


 何故かヘレナとアイナがひょこっと顔を出してきた――

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