第五百三十三話 ベリアースまでの道のり
――会議室
今度作戦を展開するメンバーが全員揃い、顔を突き合わせての話し合いが始まろうとしていた。
広い会議室だけど、結構な人数が集まっているためすし詰め状態に近い感じになっている。
「それじゃラース達が先に出発するのか。お前達なら大丈夫とは思うけど、俺達が到着した時にはもう戦いが始まってるとかは無しだぜ?」
「流石にそこまで無茶はしないって。とりあず俺はレビテーションを使えるし、サージュとロザのどちらかに頼めばエバーライドとの往復もできるし問題は無いと思う」
『まあ、頼み事だけならバチカルか俺っちが橋渡しすればいい』
「僕も居ますからね」
エーイーリーとレッツェルの言葉にリューゼが肩を竦めて笑うと、次いで国王様が口を開く。
「ベリアース王国へ行く者はラースとマキナに、クーデリカ、サージュ、ロザだけでいいのだな?」
「はい。人数が多すぎると目が届かなくなる可能性が高いのと、信者候補としていくなら少人数の方が良いと思ったからです」
他にもアルバトロスやレッツェル、リース、ヒッツライトという裏で繋がっている人間もいるので、俺達は油断さえしなければ安全に近い。
「なるほどな。ではベリアース王国はラースに任せよう。エバーライドは?」
「エバーライドはファスさんとリューゼ、ウルカ、ジャック、ルシエール、ヨグス、ナル、ベルナ先生とティリアちゃんにセフィロとドラゴン三人、それと――」
「影で俺がついていきます」
「大丈夫か、ティグレ?」
学院長に問われるが、ティグレ先生は深く頷き、覚悟を持ってあたると口をつく。
本来、ベルナ先生は数に入っていなかったんだけどファスさん以外に歳をとった人が欲しいということと、警戒されにくい女性である先生になった。
「俺は表立って行動はしませんよ。それに戦争をしていたこともあるから土地勘もある俺はやはり行くべきでしょう」
「気負うなよ? 国を倒すのは個人だけでは成し遂げられん」
「分かってますって。俺には心強い弟子や生徒がいる。拾ってくれた学院長に顔向けできない真似をするつもりはないって」
そう言って照れくさそうに手をひらひらさせるティグレ先生を見て俺達は顔を綻ばせていた。昔から心配性で正義感の強い先生は変わらないなあと思う。
「僕も行きたいですけど……」
「ダメダメ、ライドはここで待機だよ」
「私も顔が知られていますし、行けないですよね……」
「ライムもダメだな、エバーライドを解放するまで王子や外の人達と待ってもらうしかないさ。なあに、賢者ラースがすぐに終わらせてくれるよ」
「プレッシャーをかけないでくれませんか……」
俺が抗議の声を上げると、オルデン王子はウインクしながら親指を立てて俺に笑いかける。それとなんだよ賢者って!
「まあ、唯一僕を殺せるかもしれないですし、いいんじゃないですか賢者。異世界の知識と力があり、それを活かしているのでその資格はあると思いますがね?」
「よしてくれ、俺はそんなガラじゃないよ。それより、ベリアース王国を制圧する時の話をしよう。聞いたところによるとベリアースの王は大した人物じゃないみたいだから、内側から崩せば降伏させることはできそうだ」
「ですねえ、問題は残りの悪魔と教主。ここさえ抑えておけばエバーライドを解放するのは難しくないと思いますね」
俺の考えに賛同してくれるバスレー先生に、ヒッツライトが続ける。
「その通り、自己顕示欲や物欲は強いが武力がそこまで強いわけでもないから、息子共々即座に拘束することは可能だろう。アポスもこの国へ侵攻する以外はあまり興味を示さないので、焚き付けて進軍するようにすればアポスも動くと思う。ガストの町を再侵攻でもいいかもしれん」
「なるほどな……だが、お前だけ残って全員死んだというのは些か不自然じゃないか?」
「それは――」
ヒッツライトが言葉を濁すと、ライド王子が意を決した顔で手を上げた。
「――それならエバーライドの兵士を数人連れて帰りましょう。それなら怪しまれないと思いますけど、どうでしょうか?」
「それはいいと思うが、帰ってくれるだろうか?」
「向こうにも家族を残している人が多いですし、説得すればいけるかと思います」
「分かった、それに関しては私が関与しにくい、ライドに任せよう」
ライド王子の力強い言葉に、国王様は任せるように判断したようだ。五千人近く居たから何人連れて帰るかもカギになるか?
<ふむ、そうなると飛んで運ぶのは難しいか?>
『いや、時間が惜しい。できれば月の無い夜にでも一気に国境付近まで行きたい』
<では我とロザ、ジレとヴィンシュで運ぶか。我は五十人程度なら一度に運べるぞ>
<僕もそれくらいだね>
『二百人か……撤退した生き残りを偽装するなら千五百は帰還したいが』
バチカルが珍しく呻くように呟くのを見て、俺は提案を口にする。
「千五百を往復で連れて行くのはちょっとサージュ達の負担があると思う。来た時と同じように徒歩で戻る方がいいんじゃないか? で、元気だと怪しいから道中訓練しながら帰るんだ」
『訓練ってお前……まあ、撤退してお肌つやつやってのもなあ』
「ま、いいんじゃないですかラース君の言う案で。ドラゴンの姿を見られるのも面倒ですし、アポスの勘が悪くないとも限りません。ちょっと時間はかかりますが、そこはバチカルとエーイーリーが上手いことアポスを言いくるめてくれればいいと思いますけどね」
『ふむ、仕方あるまい、それくらいはやるか』
バチカルはバスレー先生にそう返し、徒歩での移動が決まる。
「……では私から最後の確認だ。進軍に備えてこちらも兵を出す、アポスが動くようならラース達に任せる。兵だけがこちらに来るようなら国で対処する方向だ」
「お願いします。アポスの動向次第ですがアポスがベリアースを出るなら進軍中にケリをつけられればと考えています」
「分かった」
……これで万が一俺達になにかあってもカウンターはできる。
痛み分けになるかもしれないけど、ただやられるよりは絶対にいいしね。
アポスは歳を取っているみたいだから抑えること自体は難しく無さそうなので、やはり行動を起こす前に倒すのが望ましいだろうか?
「よし、それじゃ次は俺達エバーライドの方だな!」
リューゼが話はまとまったかとばかりに拳を突き合わせて口を開く。
こっちはこっちでルシエールやヨグスといった非戦闘員(結構強いけど)が居るので、しっかり打ち合わせをしなければならないと、話を続ける。
◆ ◇ ◆
いつも拙作を読んでいただきありがとうございます!
この度新作を投稿いたしました!
魔王軍No.2の俺は目障りな大魔王を倒すため勇者を利用することを決意する ~歴代最弱の女勇者を鍛えていたら人間達にSランク冒険者として賞賛を浴びることになった~
タイトルが長くて恐縮ですが、良かったら読んでいただけると嬉しいです!
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