第五百六話 嵐の前に③
というわけで無事アルジャンさんのところへ到着し、工房へと足を踏み入れた。
「アルジャンさん居ますか?」
「こんにちは!」
「はい、いらっしゃい。って、ラースさんじゃないですか! えっと、親方ですよね、こちらに……」
お弟子さんが出迎えてくれ、俺達は工房の奥へと案内され、そこで一番大きな竈の傍で眠るアルジャンさんと、真っ赤な剣身をした大剣が立てかけられていた。
「これが……ロザの爪で作った大剣、か?」
「磨き抜かれて、まるで宝石みたいだわ」
「親方、起きてください。ラースさんが来ましたよ」
「ん? お、おお……ふあ……」
ルシエールが感動したように呟くと、お弟子さんに起こされたアルジャンさんが俺達を見て目をパチパチさせてから一気に体を起こす。
「うおお!? ラ、ラースか! よく来たな、すまねえこんな醜態で」
「俺は構わないよ。それよりこれ……」
「ああ! 正直、現時点での最高傑作と言っていいほどの出来だ」
「これは凄いわね、リューゼには勿体ないからデダイト君に持ってもらったら?」
「ダ、ダメだよお姉ちゃん……ロザさんがリューゼ君にって渡した素材なんだから……」
「お、ルシエラにルシエールの姉妹か! 久しぶりだな、でかくなった!」
「ちょ、ちょっと止めてよ!?」
「えへへ、お久しぶりです」
ルシエラの無茶な申告をルシエールが窘めていると、アルジャンさんが姉妹に気づき頭を撫で、ルシエラが慌てて逃げた。
<ふむ、もう少しルシエールのようにおしとやかになれないものか? 嫁に行けんぞ>
「うるさいわよサージュ! ロザといい仲になったからって調子に乗らないでよね」
<ロザと!? い、いや、我には心当たりが……>
「なんだ、兄ちゃん? 初めて見るな、ルシエラの恋人か?」
<違う!>
「ああ、こいつはサージュ。最初にドラゴンの素材をくれたのはこいつなんだよ」
「ド、ドラゴンだって? どう見ても人間じゃないか」
<ふむ、少しだけ見せてやろう>
そう言ってミニサイズに変身すると、アルジャンさんはごくりと喉を鳴らし、サージュを見つめていた。
「すげえな……ラース達は一体どうなっちまうのかねえ……」
「今から国を救うのよお? 初めまして、アタシはヘレナで、ラースの学院時代からの友人よ」
「ミ、ミルフィです!」
「おう、よろしくな! お嬢さん達はずいぶんキレイにしているな、ルシエラも見習えよ」
「もう! うるさい!」
その様子に苦笑しているとリリスが剣に近づき小さく呟く。
『ふうん、スルトの炎剣みたいね』
「スルトって……北欧神話のか?」
『そうそう、私達とは違うけど神秘的なって意味では近い感じね』
「神秘的……」
『なによマキナ! この美貌にケチをつけるって言うの!?』
「だんだんバスレー先生に似てきたなあ……で、スルトってなんなの?」
「ああ……」
俺は記憶にある向こうの物語とリリスの補足で伝える。
「ふうん、神様と神様が戦うんだ」
「まあ、作り話だからなんとも言えないけど、面白いよ」
「スルトってやつが持つ剣が炎の剣なのね」
「そういうこと」
「色々知っているわねラースは。昔から頭が良かったのは納得だけど」
マキナが笑顔で俺にそう言うと、ウルカが顎に手を当てて考え込んでいることに気づきミルフィが声をかける。
「ウルカさんどうしたんですか?」
「え? ああ、神様のことでね。僕達のスキルって神様からもらうよね。こういう困った事態にはなにもしてくれないのかなって」
「そういえばレガーロが昔、神様は居なくなったって言ってたよ」
「「え!?」」
あっさり言い放つ俺に、その場に居た全員が固まる。あ、これ言って良かったっけ……?
「スキルは五歳の時にやる儀式をすれば、付与されるようにはなっているみたいだけどね。リリスはなにか知らない?」
『……私達はこっちの世界に召喚されただけだし、この世界の事情は分からないわ。知っているならレガーロじゃない? あいつも悪魔だとか言っているけど、よく分からないやつよね……ハッ、き、聞かれてないわよね……』
「言わなきゃいいのに……」
レガーロか……俺に【超器用貧乏】を付与してくれ、手助けをしてくれるけど、あいつも謎といえばそうか。実は……というパターンもありそうだけど、バスレー先生が信頼しているあたり大丈夫だと思いたい。
「まあ、その神様? の剣に近い仕上がりだと思う。というか、バーンドラゴンの素材は相当苦労したからな……出来たのは二日前だ」
「アルジャンさんで、そんなにかかったんですか?」
「ああ、毎度面倒な素材を持ってくるなと舌打ちしたぜ? ははは! まあ、それは冗談だけだ。面白いことをさせてくれるお前達には感謝しているよ、ありがとうな。で、この大剣だが、見ての通り赤い。だけどただ赤いだけじゃないんだ」
「あ!?」
アルジャンさんが大剣に水をかけると湯気が立ち蒸発した。
「というわけで見ての通り剣は熱を帯びていてな、魔力を込めるとその温度は上昇する。試しにラース、持ってみろ」
「あ、ああ」
言われるままに大剣を手にし、魔力を込めると激しく赤熱してマキナ達が後ずさるほどの熱を持った。
「これに触れてみろ」
アルジャンさんが出した分厚い鉄の板に切っ先を乗せるとバターのように溶けた……
「うわ……!?」
「ヤバくない……!?」
「でも、これはとんでもなく強力な武器ですぞ。しかしここまで熱を帯びるとなると鞘も大変では?」
「その通りだ。だから、同じ素材を内側にして、熱に強い素材で巻いた後に革を被せているって感じだな。ほら、こいつだ」
「おっと。なるほど、これも結構な代物だ」
「ふう……怖かったかも」
俺は魔力を解いて鞘に入れると熱気が消えてルシエールがホッとした声を上げ、ルシエラが俺の横に立って大剣を見る。
「これなら、私でも戦えそうね? ねえアルジャンさん、もう素材は無いの?」
「一応、少しだけ残ったからダガーとショートソードを作ったぜ」
「あ、作ったんだ。うーん、もう少しロザが素材をくれないかしら」
「なにか案があるの?」
ルシエラが考えごとをしている中、ミルフィとウルカがダガーとショートソードを見て騒いでいた。
「これも凄いですよ! ウルカさんも武器変えた方がいいんじゃないですか?」
「僕も武器を新調した方がいいかな? オオグレさんがいるからサージュのダガーでもいいけど……」
「全員分行き渡ればいいんだけどね。どれ……」
と、俺がダガーを掴もうと思った瞬間、サッと横からひったくられる。
「あは♪ これ、いいわね。これならアタシでも使えそうだわあ」
「ダメだよヘレナ、これは戦う人に渡すんだから」
「えー、ルシエラは行かないんでしょう?」
「ダガーならナルが使えるしね。ヘレナもサージュのダガーがあるだろ?」
「ぶー」
不貞腐れながら俺にダガーを返し、ショートソードを持って不敵に笑っていた。嫌な予感しかしないが……そんなことを考えているとサージュとルシエール、それとマキナが寄ってくる。
<ラース、我の新しい爪と牙、それと鱗が使えるか聞いてみてくれ>
「向こうの職人さんが作った鎧も! こっちに来ることが出来なかったから、先に作って貰ったんだけど、大丈夫かな?」
「構わねえよ。……流石はレフレクシオン王都の鍛冶師だな、隙がねえ……が、甘いところもあるな……で、素材ってのはどれだ? どうして欲しい?」
「えっと、これを――」
俺はゴム素材を出してアルジャンさんに説明を始める。
アルジャンさんは『相変わらずだなあ』と苦笑しながら、ゴム素材とサージュの素材を手渡した。アルジャンさんも相変わらずいい人だよね……
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