第四百九十九話 ラースとマキナ


 「マキナ……?」

 「すぅ……」


 俺は挨拶もそこそこに、寝泊りする家で寝ているマキナの様子を見に来ていた。ベルナ先生に聞く限り俺がドラゴニックブレイズを撃った時と同じ魔力不足に近いものらしい。

 魔力の使い方は下手だったけど、それは総量が少ないせいだと思っていた。けど、どうもマキナは『外に放出する』ことがそもそもあまり出来ていなかったのではないか?


 「はは、目を離せないなあ」

 

 俺は汗を拭きながら苦笑する。

 マキナの容姿は日本人のそれに近く、改めて見ても可愛いと思うし俺が恋人でいいのかと考えることもある。

 正直な話、俺と一緒に居なければこんなに苦労することは無かったかもな、とも。

 

 「……ごめんなマキナ」


 そう呟くと、マキナの瞼が開いて俺を見ながら口を開いた。


 「ん……私……? 夢? なんでラースが謝っているの?」

 「良かった、目が覚めたな。夢じゃないよ、ただいま」

 

 俺が笑いかけると、マキナは布団をはねのける勢いで上半身を起こして顔を赤くする。


 「あ、え? ほ、本物!? 夢じゃない……」

 「ははは、落ち着きなよ」

 「う、うん……すぅ……おかえりなさい!」


 深呼吸して俺に微笑みかけてくれ、俺はマキナの頭を撫でる。すると、マキナが不思議そうな顔で俺に言う。


 「でもなんで私に謝ってたの?」

 「あ、いや、マキナが倒れたって聞いて、もし俺と一緒に行動していなかったらこんなことにならなかったのかな、って」

 「ええー? あはは、考え過ぎよ! 私はラースが好きだから一緒に居るし、あちこち見回って本当に楽しいわ。師匠と会えて、セフィロにドラゴン、魔物と友達になったりして普通の人生じゃ絶対にあり得ないことよ?」

 「危ない目にあったりとか……」

 「ガストの町の悪魔騒動はラースのせいじゃないし、むしろここで修行ができるのはラースのおかげじゃない? もしラースが彼氏じゃなかったら、最初の襲撃で死んでたりするかもしれないし」

 「そ、そうか……?」


 言われてみれば、という気もする。福音の降臨はたまたま計画を潰していただけだからね。けど、アイーアツブスやサンディオラの件とか、一端を担っているとは思うけど……。

 それでも困惑する俺に、マキナはベッドに腰かけて俺の頬に両手を添えて目を見る。


 「……逆なのよ?」

 「逆?」

 「そう。ラースが居なかったらどれも手遅れになっていたってこと。オリオラ領は領主が交代していたかもしれないし、ルクスとお姉さんは死んでいた。ラディナとアッシュは離れ離れになっていたと思う。サンディオラは今頃悪魔……福音の降臨に占領されていたんじゃないかな?」

 「あ」


 そうかと俺は目を見開く。

 視点の違いと言えばいいだろうか? 俺の感覚だと『俺のせいで』となるけど、みんなの感覚だと『俺が解決した』ということになるのだ。


 「ね? ラースは自分のせいでこうなったって思わないで自分が解決したって思って欲しい」

 「……分かった」

 「うん……」


 俺が頷くと、マキナは目を瞑り、俺達は口づけを交わす。


 「えへへ……久しぶりにキスしちゃった……」

 「ま、さっきの話じゃないけど、俺達って忙しいからたまには」

 「そうね! さて、みんなは?」

 

 お互い顔を赤くしていたところでマキナがベッドから降りて背伸びをし、俺に聞いてきた。


 「もちろん修行中だよ。体調は平気?」

 「んー……うん、問題ないわ。でも、ご飯の途中で倒れちゃったからお腹空いたかも……」

 「あー、昨日のお昼ご飯くらいに倒れたって聞いているからそうだろうな」

 「……昨日!?」

 「ああ。じゃ、先になんか食べようか、俺が作る……よ!?」

 「あ……!?」


 驚くマキナの手を引いて外に出ようと思った瞬間、扉のところで俺達を見ている人影に気づいた。


 「いいなあマキナちゃん」

 「ねー」

 「ルシエールにクーデリカ……!? い、いつからそこに……」

 「え? 最初から!」


 ニヤニヤと笑ってそういう二人に意地悪さを感じつつ、咳ばらいをして尋ねる。


 「んん……ま、まあいいや。それよりここに居るってことは俺かマキナに用があるのかな?」

 「うん! 私、これから王都に戻ろうと思うんだけど、その前に採掘するときに石以外も色々持ってきたのをヨグス君に【鑑定】してもらったの。使い道が全然分からないんだけど、ラース君ならなにか考えるかもって」

 「へえ、どんなものがあるんだろ? ちょっと楽しみだな。それじゃマキナのご飯を用意してから見せてもらうよ」

 「うん!」

 「行こう、マキナちゃん!」

 「あ、ちょっと! もう、ふふ」


 クーデリカに引っ張られながら苦笑するマキナの後を追って、俺とルシエールも部屋を後にすると、焚火で料理に入る。 

 ……とは言っても起き抜けだし、丸一日なにも食べていないことを考えるといきなり肉みたいなものは胃がびっくりするんじゃないかと思い、マキナには卵がゆを作ってゆっくり食べさせる。


 「ん、美味しい~♪ 味付けはお塩だけ?」

 「だね。ネギも入っているし、悪くないな」

 「わたしも食べるー!」

 「私ももらっていいかな?」

 「もちろんだよ」


 二人にも卵がゆをよそい、俺も少し食べるかと思っているところで、近くでラプトールドラゴンを観察していたヨグスがこちらへ来るのが見えた。


 「やあマキナ、目が覚めたようだね」

 「あ、ヨグス! 久しぶりね、元気そうじゃない」

 「それはこっちのセリフだけどな……さて、ルシエールと一緒ということは話は聞いているな?」

 「ああ、珍しいものがあったって聞いているけど」


 俺がそう言っておかゆを口にすると、ヨグスはかごからそれらを取り出して並べていく。すべて鑑定済みらしいが、ヨグスは顎に手を当てて俺に言う。


 「この辺りは本当に見たことが無いし、鑑定しても用途が微妙なんだよな」

 「ふうん? ……これは……」


 そう言って出てきたひとつに、ゴムの木の枝があり、俺は自分でも【鑑定】しながらそれを手に取ると、ルシエールに尋ねる。


 「これ、この木が生えていたところは覚えているか、ルシエール?」

 「え? 覚えているよ! 山の中だけど、他より暑いところに生えていたからね。でも、切ったら変な汁が出てきたから枝だけ持ってきたの」


 変な汁……やっぱりゴムの木のようだ。

 なんか薬品を使わないとダメだった気がするけど、もしかしたら色々できるようになるんじゃないか?

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