~幕間 16~ 勢力二つ
<レフレクシオン城>
「そろそろラースとバスレーはガストへ着いた頃か」
「あれから六日……そうですな。しかし、まさかこのような事態になるとは思いませんでしたな」
玉座で肘をついて尋ねる国王アルバートに宰相のフリューゲルが困った顔で首を振りながら答える。その言葉に、アルバートはため息を一つ吐いて口を開く。
「……遅かれ早かれ、あやつが行動することはあったろう。もう五十になろうとしているのだ、私が死んでオルデンの代でことを起こすことも考えたが、私自身に復讐をせねば気が済まんだろうさ」
「復讐、ですか。性格に難があったがゆえに王位の権利をはく奪されたのを根に持っているというのであれば筋違いだと思いますが……」
「アポスは……‟ワイズ”のスキルは【天才】だった。それ故に慢心、傲慢を産む羽目になった可哀想な男だ」
アルバートは目を瞑って当時のことを思い浮かべ、どう転んでもワイズが王位を継ぐことは無理だったことを考える――
◆ ◇ ◆
「何故だ!? 俺はここに居る誰よりも戦いが強く、賢いのだぞ! なのに実の息子である俺を差し置いてアルバートを王位につけると言うのか!!」
「その態度が問題だと言っておるのが分からんかワイズよ? 確かにお前は賢い上に魔法も剣も強い。領地のことも良く知っている。だが、ワシが知らんとでも思っているのか? 外に出ては生活が苦しい者を虐げていることを」
「……知っていたのか。当然だろう? 父さんは能力が無いやつは俺達のような王族や貴族のために尽くして死ぬべきだとは思わないのか? 生きていても幸せになれないなら、せめて役に立ってから死んでもらいたいものだ」
レフレクシオン王国の先代国王、すなわちアルバートの叔父にあたる人物が、後にアポスと名乗る息子、ワイズの言葉を聞いて顔を顰める。
すると場に居合わせたアルバートが呆れながらワイズへ言う。
「それくらいにしておいたらどうだ? 俺達貴族は平民の税で生きていると言っても過言ではない。生活するだけで精一杯の者もいるが、それを何とかしてやるのが俺達の役目だ。そうすれば税も増えるし、国全体が豊かになっていくだろう。サンディオラのように奴隷を抱えていてはいつか人という財産が消えてしまうぞ」
「アルバート、お前は甘い。弱いやつは強いやつに搾取される。そういうものなんだよ」
「ワイズ、お前は昔からそうだったな。小さいころからなんでも知っていた。新しいこともいくつか生み出したが、傲慢な態度も昔から変わらない」
アルバートが嫌悪しながら口を開くと、ワイズはカッと目を見開いて襟を捻り、怒声を上げる。
「それのなにが悪い! 頭がいいやつが悪いやつを使う、当然の権利だろうが! 兄貴もそうやって――」
「兄貴? お前、悪いやつとつるんでいるんじゃないだろうな?」
「あ、いや、なんでもない……と、とにかく王位は俺だ、いいな!」
「ふう……我が子ながらどうして……十歳まではあんな子では無かったのだがな……」
「……」
――結局、先代王はワイズを次期国王にはつけず、アルバートが選ばれたと知った夜、ワイズは父を殺して姿をくらました。
◆ ◇ ◆
「あの頃はお互い若かったですな。先代という惜しい人物を失くしましたが、陛下のおかげでそれ以上の犠牲が出なかったのは幸いでした」
「ああ。それでもあいつをなんとかできなかったものかと、私……いや、俺は後悔しているよ」
「アーヴィング夫妻から報告があったように、ワイズはやはりラース殿と同じ別世界からの転生者、ということでしょうか?」
「……恐らくは。しかし、ラースほど色々なことをしなかったのはどうしてなのか理由が見つからない。それほどこの世界と変わらない世界から来たと見るべきだろうが……」
腑に落ちない、とアルバートが唸る。
「今はそれを考えても仕方ありません。ラース殿が置いていったこのメモと設計図、これを実現するための人材を集めませんと」
「そうだな。ラースか……初めて会った時から不思議な少年だと思っていたが、よもやワイズとの戦いにおいて鍵になるとは思わなかったな」
「ええ、懐かしい一件です。おっと、そうでした、十神者……いえ、悪魔に憑かれていた者達も回復に向かっているようです」
「そうか、話が出来る者がいれば聞こう。バスレーの兄も居るらしいからな――」
◆ ◇ ◆
<エバーライド城>
「……戻って来ない」
教主アポスはエバーライドの私室で一言、呟く。ベリアース王国に赴くことも多いが、基本的には王不在のエバーライドに居ることが多い。
今回に関しては、出兵をしているためなおのこと帰還を待ちわびていたが、誰一人として戻って来ないことを不審に感じ始めていた。
「十神者を三人投入しているのだ、負けるはずはないと思うが気になるな」
五千からなる兵士を連れていったので、死んだ者がいれば手間を食う上、占領したのであれば完全に掌握するまで蹂躙するよう言っているため遅くなること自体はいいが、報告者すら帰ってこないのが気になっていたのだ。
「様子見の援軍を送ってみるか。もしかすると手間取っているのかもしれないしな」
そう呟いてアポスは部屋から出ると、廊下を歩いている人物を見つけて声をかける。
「アルバトロスか、ちょうどいい。おい、少しいいか?」
「おっと、つまみ食いはしてねえ……って、教主サマ。どうしたんですかい?」
「なに、少しガストの町へ行ってくれないかと思ってな。十神者を寄こしたのにまだ戻って来ないのだ」
「あー……確かにそうですなあ。ええ、いいでしょう。このアルバトロス、命令を受けましょう! 帰って来た暁には……」
「ふん、女を用意しておいてやる」
「話が早い! よっ、教主サマ!」
「茶化すな。殺されたいか?」
アポスが魔力を膨らませると、アルバトロスは両手を前にして言う。
「滅相もありませんや! ……では、ひとり十神者を連れていきたいんですがよろしいか?」
「いいだろう。行きたい奴がいればな」
「ははー……」
そう言ってアルバトロスは踵を返し歩き出す。
――顔に笑みを浮かべて。
レフレクシオン国王のアルバートとエバーライドを手にした自ら教主アポスと名乗るワイズ。二つの勢力がぶつかる時、この戦いは終わることができるのだろうか――
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