第四百八十八話 旧友とワイバーン君


 ――俺達がキャンプや夕飯を用意している間、冒険者や騎士さんハウゼンさん達と合流した日の夜は、少しだけ豪華な宴会となった。

 

 「いよう、ラース! 久しぶりだな」

 「ベルクライスかい? 無精ひげが似合うようになったなあ」

 「うるさいよ!?」

 「最初の対抗戦で、クーデリカちゃんを挑発してボロクソにされたのが懐かしいですねえ」

 「バ、バスレー先生!? ……思い出させるなよ……」


 と、【強身】のスキルを持つベルクライスが串焼きを片手にこっちに来たり、


 「やあラース君! 久しぶりだな」

 「よ、ウルカ。お前とは何度か顔を合わせているから久しぶりって感じはしないけど」

 「ミズキさんにイーファ!」

 「フフフ、旅立ってから寂しかったがまさかここで会えるとは。……元気そうだな、ラース君。マキナ君も息災か?」

 「ありがとうミズキさん。ま、色々合って、こんなことになっちゃったんだけどさ」


 俺の肩に手を置いて優しく微笑むミズキさんに笑い返し、すぐにガストの町に目を向ける。

 黒い靄のはずなのに、夜の闇でもくっきりと見えるそれは異様な雰囲気を醸し出してた。


 「だいたいの話は副団長から聞いている。エバーライド王国の人間はともかく、福音の降臨とやらに人では無い者が混ざっているとは……」

 『まあ、人ではないのは間違いないわね。頭が三つあったりするし』

 「……お前は?」

 『福音の降臨が十神者、アイーアツブス……またの名を悪魔リリスよ。私なんかは人に近いけど、他は結構やべーのが多いわ』

 「ラース君、こいつは信用できるのか?」

 「うーん、微妙かな?」

 『微妙!? なんでよ、あんたのしもべよしもべ。命令次第でエッチなこともし放題なのに!?』

 

 すると、ミズキさんが目を細めてから俺に尋ねてくる。


 「……マキナ君はこいつと会っているのか?」

 「え? ああ、少しだけど顔合わせしているよ。今は修行に行っているからここには居ないけど」

 「く……ラース君と一緒に旅……私は諦めたのに、ポッと出の人間ですらないやつに負けただと……」

 「ミ、ミズキさん?」

 「リリスと言ったな? 私と勝負して私が勝ったらそのポジションをよこせ……!!」

 『え!? ちょ、意味わかんないんですけどー!? あああああ追ってくるぅぅう!? なんで私ばっかり……!』

 「待て……!!」


 目の座ったミズキさんがリリスを追い回し始めると、ウルカと談笑していたイーファが俺に話しかけてきた。

 

 「まあ、姐さんはいつもあんな感じだ。色々思うところもあるし、あのリリスってのには悪いが、放置させてもらおうかね」

 「どういうことだ?」

 「ま、気にすんなってことだ。特にお前はな? それより、どんな旅をしてたのか聞かせてくれよ、リューゼ達も気づいたら居なくなってたしよ?」

 「もちろんいいよ」


 俺とウルカは割と行動を共にしていたということを皮切りに、各領地やルクスのこと、王都の幽霊騒ぎにサンディオラでの攻防といった足跡をイーファに話すと、酒を飲みながら驚いたり、笑ったりと忙しい応答をしてくれる。

 そして、ベルクライス、イーファの他には元学院の同級生は来ていないらしく、王都で待機状態なのだそうだ。


 「ギルドの冒険者全員で来なかったのは?」

 「こっちは食料事情とかも考えると全員は厳しいから、希望者と実戦経験が多い人が選ばれたんだよ。本当ならリューゼやナル、クーデリカあたりはこっちだったんだぞ?」

 「そういうことか……今、修行中だから今後に期待ってことで頼むよ」

 「ま、さっきの感じだと町には手出しできそうにないから少し駐留したら一旦引き上げるだろうけどな。おっと、そろそろあっちに行ってくるわ」


 ネミーゴとかはもう完全に肉屋だから駆り出せないんだなどと笑いながら、リリスを木に吊るそうと励むミズキさんの下へと向かった。


 「……バスレー先生が吊るす側に」

 「珍しく立ち位置が強いな。さて、片付けをしてから寝る準備でもするか」

 「そうだね。……レッツェルさん達は、ちゃんと居るね」

 「バスレー先生、いや、中にいるレガーロがあいつらを監視しているらしいから逃げようにも無理みたいなんだ。だからヒンメルさんを連れてこなかったらしい」


 俺がハンモックの準備をしているレッツェル達を見ながらウルカに言うと、呆れたように笑っていた。


 すると、木の上から飛来してくる影を見て、俺は身構えた。


 「なんだ……!」

 「アルジ、オレだ」

 

 目の前に降りてきたのはワイバーンだった。みんなが驚くから木の上で待機してもらっていたけど、闇夜に紛れて降りて来たらしい。


 「どうした? 敵か?」

 「マモノはダイジョウブだ。ソロソロ、ナをモラエナイだろうカ?」

 「あ!? ……ごめん、すっかり忘れていた……」

 「イイ。イマ、からデモオソクない」

 

 そういえば到着したらつけるって言ったんだった……魔物との戦いと、ハウゼンさん達にあった喜びで忘れていた……


 「名前……そうだな〝アングリフ〟なんてどうだ?」

 「アングリフ……イイ、トテモきにイッタ!」

 「かっこいいね」


 強襲の意味を持つ名前なので、ワイバーンには最適かなと思ってつけたが案外しっくりくる。歓喜の声を上げると、夜の森から鳥がびっくりして羽ばたいていく。


 「デハ、カンシにモドル」

 「よろしくな」

 「頼もしいけど、寝なくて大丈夫かな?」

 「屋根で寝かせておいてもいいんじゃないか? さて、仮眠を取ろう」


 満足気に舞い上がり、空を一度旋回してから近くの樹に駐留するのを見届けて、寝床作成に戻る俺とウルカ。


 ――その後、魔物との小競り合いが幾度かあり、交代で見張りと戦闘を請け負う。

 やがて夜が明けると、陽も出ない内から俺達は出発の準備を始める。


 「ふあ……ラース、もう行くのか?」

 「おはようハウゼンさん。うん、この後はルツィアールでヨグスを探して、オーファ国でアルジャンさんのところへ行くから悠長にしてもいられない。サージュも居ないしね」

 「そうか……お前達なら大丈夫とは思うが、気を付けてな」

 「また会おう、ラース君」

 「そっちも気を付けて!」


 ハウゼンさんやミズキさん、イーファやベルクライスに挨拶をして俺達は再び出発する。

 町を迂回してルツィアールへの街道に乗るころには明るくなるだろう。

 

 「先にルツィアールでいいんですか?」

 「ああ、ヨグスがすぐに見つかるとも限らないから、先にギルドとグレースさんにヨグスの捜索をしてもらって、帰りにもう一回寄ってみるってところかな」

 「それなら無駄は省けますね。ちょっとだけ遠回りになりますが、どうせオーファ国までの同線上にありますし」

 「テイサツ、スルカ?」

 「アングリフは広い草原に出たら周囲の警戒を頼む。それまで休んでてくれ」

 「リョウカイ」

 「あ、名前つけてあげたんですね」

 「約束だったからね。それじゃ、気合を入れて進もうか」


 俺達は一路、ルツィアールを目指す――

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