第四百八十四話 イケメン竜のサージュ?


 <あー、落ち着いた>

 「くおーん……」

 「よく分からないけど、サージュのお父さんなのー?」

 <そうだよ、人間のお嬢ちゃん。ん? 君は随分ドラゴンの匂いが濃いね>


 ロイヤルドラゴンは人化し、アッシュを抱っこして撫でまわしながら一息つくと、近づいて来たアイナを引き寄せて匂いを嗅ぐ。

 

 <む、ずるいぞ。……アイナは我とずっと居たから匂いが移ったのかもしれんな>

 <なるほど。いや、これはそう単純なものじゃないかな? それにこれはバーンドラゴン……ま、これは後からでもいいか。さて、息子君――>

 <サージュだ。我が幼少の頃、とある姫につけて貰った名前だ>


 サージュはロイヤルドラゴンにそう言うと、フッと笑い話を続ける。


 <そうか、ごめんよサージュ。それで、ここへ来た理由を聞かせてくれるかい? 人化の方法はここまでの流れで聞いているけど、それだけじゃないんだろう?>

 <実は――>


 と、サージュは自分たちの置かれた状況をなるべく詳しく説明を始め、ドラゴン達は揃って静かにそれを聞いていた。すべてを話し終えた後、ロイヤルドラゴンは口を開く。


 <……異世界の悪魔。そんなものが居るなんてね、それにはその子の力が必要と>

 「うん。ボクは神様のところに居た樹で、対抗する力を持っているんだ。人間達みんなで倒せなくはないんだけど、ちょっと強いくらいの人じゃ太刀打ちできないから犠牲が多くなるんだ。だから、あえてボクが居ないと倒せないと言って手を出さないように誘導した」

 

 セフィロが力強く言い放つと、ストームドラゴンが不思議な顔でセフィロへ言う。


 <でもそれだと、悪魔とやらと戦うのは君たちだけになるんじゃないのかい? 損な役回りをわざわざ引き受けたんだ?>

 「ま、それについては因縁ってやつがある人間が集まっているから仕方ねえ。国からのバックアップはあるから孤立無援で戦うわけじゃねえさ」

 <それにしたって矢面に戦うのには変わらないと思うがな。これだから、人間は……>

 

 フリーズドラゴンが渋い顔で呟くと、ジャックが後ろ頭に手を組んでから言う。


 「やっぱ、人間と会ったことがあるんだな?」

 <まあ、な。ロイヤルドラゴンほどではないが、私とて千年近く生きているドラゴンだ。酒を酌み交わしたこともある。悪いやつばかりではない、と頭では分かっているが同種を道具のように扱う者たちを見ていて、仲の良かった人間でもいつか裏切られるのではと疑心暗鬼になるというものだ>

 「気持ちはわかるけどな。リューゼあたりなんかは共感してくれそうだし」

 <さておき、事情は分かったよ。息子のお願いを無下に断るわけにもいかないし、その悪魔とやらが勝った場合、私たちの生活も脅かされる可能性があるしね>

 「くおーん♪」


 そう言ってロイヤルドラゴンがにこやかに笑うと、サージュを含めその場に居た全員が微笑んで頷いた。


 それからすぐに修行が始まり、サージュはロイヤルドラゴンに教えを乞い、ティグレやジャックは各ドラゴンとの戦いや戦術に励む。

 

 「くおーん!」

 <フッフ、まだまだじゃな。ほれ、爪はこう使うのじゃ>

 「くおん」


 <ジャックのスキルは他にも使えそうなのですが。ほら、わらわの手を握りなさい>

 「いや、遠慮しておく……」

 <なんでですの!? わらわの【泡撃飛沫】をお試しになりなさい!>

 「ええー……なんでこんなにぐいぐい来るのこのドラゴン……」


 <あなたは剣士としての力は相当なものです。その若さでドラゴン状態の僕たちとまともにやり合えるのは凄いことなんですよ?>

 「それだけじゃダメなんだ。必殺技……そうだな、ラースがよく口にしていた必殺技ってやつが必要なのかもしれねえ」

 <必ず殺す技……物騒だがそれくらいのモノが必要なのかもしれないな。例の木の実とやら、お前は食うのか?>

 「これでも、先生をやってるんでね、子供達に任せっぱなしにするわけにゃいかねえんだ。娘も居るしな」


 ティグレはそう言いアイナと一対一の戦いをするティリアに目をやる。


 「<ファイアアロー>!」

 「<アクアバレット>!」


 「はは、あいつら友達同士なのに本気でやり合うからなあ。さて、俺もやるかねえ」


 ◆ ◇ ◆


 ――そしてダンジョンへ入ってから七日。食料が尽きそうになったころ、サージュに変化が起きた。


 <こうか……?>

 <そう、古い鱗を脱ぎ捨てることからやらないとね。私との修行で、全体的に強くなったけど、脱皮することで飛躍的に強くなれるし、人化しやすくなる>

 「あ、サージュの体にヒビ!! 大丈夫なのー?」

 <大丈夫だよ、これからサージュはもっと強くなる。……本当にこの時に来てくれたのは奇跡だ>

 「……?」


 ロイヤルドラゴンが寂し気に笑いながらアイナを撫でるのをティグレは見逃さなかった。しかしそれよりもサージュのことだとそちらに目を向けると、完全に古い鱗が剥がれ、黒に近い緑色をした艶やかな鱗が姿を現した。


 <おお……! この解放感!>

 <脱皮をするには魔力を減らし、身体を酷使し限界を迎えた時に脱皮が出来るんだ。そしてその状態なら人化ができるはずだよ、思い描いてごらん>

 <ふむ……こうか?>


 サージュが目を瞑ってロイヤルドラゴンに言われたようにイメージを思い描く。ラースやデダイトみたいな感じだといいのか、などと色々考えている内に身体がみるみるうちに縮んでいく。


 すると――


 <おお、小さくなった! 人間の二本足だ! どうだアイナ。……アイナ?>


 手足が人間となり、歓喜の声をあげるが全員が喜んでくれない、特にアイナも黙っていることが気になりそちらに顔を向けると、アイナが頬を膨らました後、噴き出した。


 「ぷっ……あはははははは! サ、サージュ……あ、頭だけドラゴンだよ! あはははは! しかも裸だし! あはははははは!」

 「ちょ、ちょっと怖いよサージュ……」

 <なんだと!?>

 「ほら、鏡だ。……く、くく……ち、近づくとこらえきれねえ……うはははは!」

 <お、おお……>


 鏡を見てがっくりと項垂れるドラゴン頭のサージュに、ロイヤルドラゴンが肩に手を置いて優しく言う。


 <まあ最初はそんなものだよ。誰でもすぐに上手くできることはないからね? あ、そうそう、服は鱗を服にするイメージでやるといい。僕たちも人間のを真似して作り出しているんだよ>

 <む、むう……やってみるか……>


 サージュは再挑戦して失敗を繰り返す中、ティグレ達も修行をさらに進めていき、そしてサージュが人化に成功した三日後、地上へと戻ることになった。

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