第四百三十三話 出会う者たち
とりあえずライブはまた今度ということでヘレナ達と別れた。劇場のオーナーであるクライノートさんの協力も得られそうなので不可抗力とはいえ良かった。
とりあえず一通りガストの町の住人をこちらに連れてきたら、ライブ鑑賞ができればと思う。
そして自宅へ戻った俺たちは、なぜか割烹着のような服を着たバスレー先生に出迎えられ、先生が作ったご飯を食べながら会話に花を咲かせていた。
「うん、美味いよバスレー先生」
「ふふん、当然です! 一人暮らしが長かったですからねえ……」
「寂しいな、おい」
リューゼが呆れた顔でそういうと、ベルナ先生が追い打ちをかける。
「早く結婚しないとですねぇ」
「言いおったなこやつ……! えーえー、ベルナさんはいいですよねえ、ルツィアールのお姫様でどこぞの英雄と結婚して可愛い娘さんを授かりやがりましたしー!! 羨ましい!!」
「なら早くヒンメルさんと結婚すればいいのに……」
「いえ、これでも結構忙しいのでまだですかね」
「なんだそれ!?」
悔しそうな表情から一変してあっさり言い放つバスレー先生についにリューゼが突っ込む。そこでルシエラがフォークにニンジンのバター焼きを刺しながら口を開く。
「えー、でも相手がいるならいいじゃない。私なんて、全然よ?」
「でも、お姉ちゃんモテるよね? 結構お店で声をかけられるの知ってるよ」
「そう? でもなーんか違うのよねえ。クーデリカもそう思うでしょ?」
「うんうん。ラース君やデダイトさんを見ているせいか、なんかねー」
ルシエラとクーデリカが頷きあい、何か言おうと思ったけど止めた。下手に刺激するとつまらないことになりそうだからだ。とりあえず話題を変えようと俺はリューゼに話しかけた。
「そういやリューゼ、訓練をするって言ってたけど俺はガストの町と王都を往復することになるからしばらく付き合えないぞ?」
「ありゃ、そうなのか? ならマキナとファスさんに鍛えてもらうわ。いいかな?」
「ワシは構わんぞ。格闘家とは違うが体の使い方くらいは参考になるじゃろう」
「じゃあわたしもー!」
「クーデリカと一緒なら私も嬉しいわね。ルシエール達は……さすがにやらないわよね」
マキナがルシエールを見ると困った顔で頷いていた。学院時代ならまだしも、別に戦いを生業としているわけじゃないのでそれも止む無しだ。
「ごめんね。マキナちゃん達みたいな戦い方は私にはできないから足手まといになると思うの」
「ルシエールは魔法の方が得意だったしね」
「あー、それもそうね……」
残念がるマキナに、ベルナ先生がティリアちゃんの口をハンカチで拭きながらルシエールへ言う。
「それじゃあルシエールちゃんはわたしと一緒にティリアちゃんたちに魔法を教えてもらおうかしらぁ? ナルちゃんはどうする?」
「リューゼに付き合おうと思っています。私のスキルは戦闘で役に立ちますから」
ナルは戦闘、ウルカはガストの町で【霊術】を駆使しスケルトンを用意するらしい。前の戦いでゴブリンの集団が町を襲い、数に対抗する手段を考えていたそうだ。申し訳ないけど協力してもらうとのこと。
「ルシエラは何をするのさ?」
「んー、秘密! 魔物の園にでも行こうかしら?」
「あ、そしたら僕一緒に行く!」
「トリム君はアイナ達と魔法のお勉強だよ? アッシュ達がいるからいいよね」
「ちぇー。シュー、あそぼう」
「うおふ」
「はは、ニーナが見たらびっくりするだろなあ」
「だよねー。でもシュナイダーもラディナもおとなしいからいいよー」
残念がるトリムだけど、魔法の訓練は嫌ではないようで渋々アイナに従い、部屋に招き入れていたシュナイダーに抱き着いていた。兄さんとノーラはその様子をニーナに見せたいと微笑む。
そんな感じで方針が決まり、食事を終えた俺たちは次の日に備えてサクッと休むことにした。アイナ達子供はいつもと違うベッドだからか興奮し、遅くまでリビングでアッシュやシュナイダーと遊んでいたようだ。
◆ ◇ ◆
そして翌朝
「それじゃ、ファスさん、ベルナ先生留守番を頼むよ」
「うむ、ワシのことなら心配するな。バスレーも城へ向かったからしばらくは茶でも飲みながら待つとしよう」
「ごめんなさい師匠、私も一度お父さんたちのところに戻らないと」
「気にするな、ご両親によろしくな」
「子供たちはわたしが見ておくわぁ。ティグレにも伝えておいてもらえるかしらぁ」
「うん。ただ、ティグレ先生は相当な戦力になるからもしかしたら残るって言うかもだけど」
俺がそういうとベルナ先生が『そうかもねぇ』と笑う。そこへ先に出たリューゼが声をあげた。
「おーい、そろそろ行こうぜ! 親父達にも準備させないといけない――」
しかしリューゼが喋り終わらないうちに横やりが入る。それは――
「おや、リューゼ君ですか? 立派になりましたね。僕が脅した時とはまるで別人じゃないですか。それとブライオン商会の姉妹ですね」
「て、てめぇは……!?」
「あの時のお医者さん!!」
「あ、あんた……」
――それはレッツェルだった。
リースやイルミ、そしてお目付け役のヒンメルさんと数人の騎士と共に挨拶をする。驚くリューゼとルシエール達。そういえば生きているとは言ったけど、兄さんたち以外に一時的に仲間になっていることは言ってなかった……止めようとしたが、リューゼはレッツェルの胸倉を掴み激高した。
「何が立派になっただ! てめぇのおかげで俺も親父は死にかけたんだぞ? ルシエール達だって一歩間違えていればここに居なかったかもしれないのに!」
「そうよ! とりあえず一発殴らせなさいよ!」
「お、お姉ちゃん近づくのはやめたほうがいいよ。何されるかわからないし……」
「はっはっは、嫌われたものですね。まあ、生きていて良かったですね」
その瞬間、リューゼに殴られてレッツェルが吹き飛んでいく。あいつ、本当に空気を読まないな!?
「先生!? 何してくれてんのかしらね、この腰抜け!」
「イルミだっけか! てめぇも殴られたいか!」
「私達を捕まえたやつね! そいつは私の獲物よ!」
ルシエラがイルミに掴みかかり、いがみ合いが始まった。話していなかった俺が悪いので、間に割って入り喧嘩を止める。
「待ってくれリューゼにルシエラ。こいつらは今、俺達に協力をしてくれているんだ。ガストの町が危機に陥っていることを教えてくれたのはレッツェルだし、そのおかげでガストの町の住人を転移魔法陣でこっちへ連れてくることを提案できた。……正直、三人の気持ちはわかるけど、まだこいつの力は必要だ、我慢してくれ……」
「……くそ! ラースの言うことだからここは下がるけど、俺はお前を許しちゃいねぇからな! 行こうぜ二人とも。ナル、行くぞ」
「え、ええ……」
「ごめんねラース君、先に転移魔法陣に行くわ」
「ったく、ジョイフル気分にケチがついたわね」
去っていく四人を見送り、俺はレッツェルを立たせると、厳しい顔で告げる。
「お前、もう少し言い方ってものがあるだろうが。わざわざリューゼやルシエール達がいるところに来なくてもいいだろうに」
「ま、これからの戦いで必ず僕もでしゃばることになりますから、知っておいてもらった方がいいんですよ。僕が急に現れたことで動揺を生むより、不信感があっても最初からいるものと認識してもらった方が戦いはスムーズにいきます」
「……はあ……何考えてるのかさっぱりわからないよ俺には」
「今更でしょう。今からガストの町ですか?」
レッツェルは気にした様子もなく俺に尋ねてくる。
「ああ、向こうで色々とやることがあるからな。お前達は?」
「ボク達はお城へ連行さ。福音の降臨について、話しておきたいこともあるしな」
「リース」
リースがポケットに手を突っ込んだまま俺の横に立っていうと、マキナに持ち上げられて引き離された。ふたりが睨みあっていると、ヒンメルさんがいつもの笑顔で声をかけてきた。
「と、いうわけだよラース君。大変だろうけど、陛下も手は考えている。できることをやっていこう」
「そうですね。それじゃ、リューゼを追わないといけないので俺達も行きます。何かあったら、家にファスさんがいるので伝えておいてもらえると」
「ああ、もちろんだ。気をつけて」
騎士たちに囲まれたレッツェル達が去っていくのを見送り、俺達はリューゼを追って転移魔法陣へと向かった――
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