第三百八十六話 吹っ切れたマキナ


 「もうめちゃくちゃね!」

 「敵も味方も関係ないという感じみたいですからねえ。えい」

 「グギャ!?」


 マキナと背中合わせになっていたバスレーが襲い掛かってくる兵士を昏倒させる。しかし黒いもやに憑かれた兵士はすぐに立ち上がり迫ってくる。


 「ふん、もやを何とかせねばならんということか? っと……」

 「師匠、足をやられているから無理をしないでくださいね!」

 「分かっておる、しかし任せろとは言ったものの、これは長く居るわけにはいかんな。マキナ、アフマンド王は居るか?」

 「ここには居ませんね。たぁ!」

 

 マキナが周囲を見ながらファスへ返事をすると、まだ操られていない兵士が声を上げた。


 「あ、あんた、レフレクシオンの城で見かけた人だな! なんでこんなところに居るんだ!」

 「え? あ、アフマンド王の護衛で来ていた人? 危ない!」

 「くそ、しつこいな!? そうだ、覚えていてくれたか! ……なんか良くわからんが黒いもやにやられたやつは敵味方関係なく襲ってくる、さらにこのでけえ木まで相手にしていたらもたん。それにダルヴァを追って陛下が城に戻った。だから意識のあるやつらを連れて城まで後退するつもりだ。あんたたちは馬車があるし、外に向かって逃げてくれ」


 兵士が別の兵士を押し返しながらそう言うと、マキナが返す。

 

 「でも、残っている人の方が少ないし、私達も一緒に行きます。こっちには頼もしい味方も居ますから!」

 「ぐるぉぉぉん!」

 「グルルル……!」

 「くおーん!」

 「うおおお!」


 「おお、魔物か! ちっこいのも頑張ってるな……最後の人……大臣、じゃないか……? ま、まあいい、あんた達は強いみたいだし、一緒だと助かる。城も入り口を閉じれば簡単には入ってこれないだろうし」

 「承知したぞ、オルノブ馬車ごと城に突っ込め! すぐにワシらも追う」

 「つぁ! 了解しました!」

 「ぶるる!」

 「シャァァァ!」

 「グルォォォン!」


 馬を守るため剣でクリフォトの枝を捌いていたオルノブが叫び、即座に御者台に飛び乗り発車させる。さらに馬に襲い掛かってきたクリフォトをラディナが体で止め、馬車は一直線に城へと駆け出した。


 「やっぱすげえなデッドリーベアは……。よし、意識のあるやつは城へ迎え、しんがりは俺が務める!」

 「よ、よし、ぐあ!?」

 「せい! おい、立てるか?」

 「あ、ああ……すまん……」


 こうなったら敵も味方も関係ないと、まだ動ける兵は傷ついた人間を抱えて城を目指す。じりじりと追いかけてくる兵士とクリフォトをマキナとファス、戦える人間で後退しながら追い払う。


 「【カイザーナックル】こっちは‟雷牙”! ふう……倒れない相手と戦うのは疲れますね……」

 「ふん、このくらいでだらしないぞい。そりゃああ! ……うっ……」

 「師匠!?」

 

 マキナの言葉に苦笑しながら、クリフォトを殴ろうとしたファスがバランスを崩して膝をつく。マキナが駆け寄ろうとした瞬間、両脇から兵士とクリフォトに攻撃される。


 「この……! ああ!?」


 マキナが迎撃に入るが、もう一体、ファスの下へと向かっているクリフォトにまで手が回らず、困惑の声を上げた。間に合うか、と焦るマキナの前で、上空から降って来た魔法で二体のクリフォトが灰になる。


 ◆ ◇ ◆


 「……! ありがとうラース!」


 私は師匠を抱えてその場を飛びのきながら上空を見ると、ラースが手をこちらに向けているのが見えた。私は口元に笑みを浮かべながらバスレー先生に師匠を預けながら言う。


 「先生、師匠を城へ! 私も頑張らなくっちゃ!」

 「無理をしないでくださいよ! アッシュ君、行きますよ!」

 「ま、待て、マキナひとりでは……」

 「くおーん!」

 「大丈夫、師匠が離れたらすぐラディナと逃げますから!」


 バスレー先生が兵士の足を引っ掻いていたアッシュを呼ぶと、とてとてとバスレーについていく。相変わらず可愛いけど、最近何かと張り切っているわよねあの子。

 

 それはともかく、バスレー先生達を見送りラディナとシュナイダーが私の近くに集まってくれ一緒に戦うが、数の多さに押され気味になってくる。


 「……これ以上は無理、か。ラディナ、目の前のクリフォト全部を吹き飛ばすから、その後私を背中に乗せて離脱するわよ」

 「ぐる」

 「わふ……!」


 さて、正面に固まるように動いた甲斐があったわね! 師匠の技、今なら撃てる気がする!


 「はああああああ! ‟雷塵拳”!」


 私はカイザーナックルと同時に夜中の修行で見せてもらった雷塵拳を放つ。ライトニングを拳に集中させて攻撃する技で、雷牙よりも範囲が広い。

 人間相手に直撃すれば触れた部分は黒焦げになり、麻痺も避けられない。

 だけどカイザーナックルを掛け合わせるととんでもないことになった。


 「グギャァァァァァ!?」

 「グォォォォ!?」

 「ひえ!?」


 クリフォトの体に穴が空くまではカイザーナックルでも出来たけど、そのまま内部で雷が爆発し内部からクリフォトを破壊したのだ! これには放った私もびっくりし、その様子を見ていたクリフォトが足踏みをする。セフィロと一緒で感情があるのかしら……?


 「ともかく、行くわよラディナ、シュナイダー!」

 「ぐるおおお!」

 「わおーん!」


 私は踵を返したラディナに飛び乗ると、城に向けて一気に走り出す。疲弊はしていたものの、ラディナの背で私は拳を見ながら呟く。


 「……できた。うん、ちゃんと強くなってる、私!」


 ラースは転移魔法も覚えてどんどん強くなる。それに焦って弟子入りを決意した、ということもそして私はチラリと空に居るアイーアツブスを見る。


 「【不安定】のおかげでたまっていたものが全部出たのも良かったのかしら、ね? っと、邪魔よ!」


 目の前に回り込んできたクリフォトを吹き飛ばし、道を開けると、手を振って呼ぶバスレー先生が見えた。


 「へいへい! マキナちゃんこっちですよ! おっとさせませんよ【致命傷】!」

 「流石!」


 どこからともなくダガーを取り出し、バスレー先生がクリフォトに投げつけると、移動に使っている根っこのような場所に突き刺さり大きく転倒し、追従していたクリフォトもバタバタと倒れた。

 そのまま滑り込むように城へ入ると、残りは私達だけだったようで、重い扉が即座に閉じられる。


 「ふう……これでラース達がアイーアツブスを何とかしてくれるのを待つだけかしら」

 「いや、そうもいかんようじゃぞ」

 

 師匠が奥に目を向けて口を開く。

 

 そこには――

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