第三百三十七話 魔物とアイドル


 「見てお母さん、赤ちゃんかなあ? とっても可愛いよー」

 「あれは魔物ね。でも、やっぱり赤ちゃんは可愛いわねえ。……横の大きいクマがお母さんかしら……」

 

 「でけえ……!? おお、珍しいな、テイマーか?」

 「みてぇだな。ほら、あのクマを抱っこした男、あいつ首からギルドカードを下げている」

 「ヴァイキングウルフもいるな……あの数をテイムしてんのか? 化け物……」


 「わ、あの子猫を抱いている子、可愛いわね。アイドル志望かしら?」

 「ってアイドルのヘレナさんよあれ!? ミルフィちゃんも居るから多分そうよ! あれは美人になるわね」


 ――と、住宅街から町に繰り出すと注目を浴びていた。

 さっきもヘレナが居たとはいえ、やはり俺達に混ざると「居るはずがない」となるのかバレなかったけど、四つん這いで歩いても大きいラディナや親の雪虎は目を引くようだ。


 「……注目されているわね。やっぱり、この二頭は目立つからかな」

 「そうだねー。でも、慣れたらあんまり怖くないと思うんだよー。チェルちゃんはラディナを怖がっていないからねー」


 マキナの言葉にノーラが返し、俺は頷く。

 ちなみに怖がらせないよう、ラディナの口には革で作ったお手製のマスクをつけ、シュナイダーにはリードをつけている。最初は嫌がっていたけど、散歩に行けると言い聞かせてつけた。

 口元を隠すだけでデッドリーベアの凶悪さはかなり軽減されている。


 「魔物って怖いけど味方にいると頼もしいわねえ。ヴァイキングウルフが番犬だったらアタシみたいな人は安心よねえ」

 「うおふ!」

 「ちょっと大きい犬みたいですもんね」

 「ひゅーん……」


 役に立つと言われて元気を出したが、ミルフィに犬と言われて尻尾を下げるシュナイダー。お前は群れのボスだったんじゃないのか? それくらいで落ち込んでどうする。

 みんながその様子を見て笑っていると、通りから見知った顔が現れ、俺達に気づいて声をかけてきた。


 「お、ラースじゃねえか。……話には聞いていたがデッドリーベアを飼っているのか……。ヴァイキングウルフもでけえし」

 「久しぶりロイ。そうなんだ、こいつらは攻撃しないでくれよ?」

 「まともやりあったらかなり厳しいし、お前を怒らせてもとんでもない目に合いそうだからやらねえって。というかその飛んでいるのはなんだ……?」


 声をかけてきたのは、久しぶりに顔を見たロイだった。最近ギルドに足を運ぶ回数が少ない為ひさしぶりだな。

 色々と事情を知っているロイの口ぶりだが、アイナの横を飛んでいるサージュを見て目を細めて俺に聞いてきた。


 <ふむ、この町の冒険者のようだな。我はサージュという。種族は古代竜だ、よろしく頼む>

 「ああ、こりゃどうもご丁寧に……って古代竜!?」

 「ド、ドラゴンまでテイムしているかい?」


 サージュがぺこりと頭を下げて挨拶をすると、ロイとドウンが飛び上がって驚いていた。


 「ああ、サージュはテイムした魔物じゃないんだ。こいつらもそうだけど、友達だよ。だから俺の家じゃなくて実家で暮らしている。あ、こっちが俺の兄のデダイトで、妹のアイナ。兄さんの嫁で俺と同じ学院に通っていたノーラだ」


 「いつもラースがお世話になっています」

 「こんにちはー!」

 「アイナだよ!」

 

 俺が紹介すると、ロイ達はぎくしゃくしながら三人と挨拶をする。そこで、ロイは後ろに控えているヘレナ達に目を向ける。


 「……ん? お、おい、ラース。そこに居るのはアイドルのヘレナちゃんじゃないのか……?」

 「そうだよ。やっぱりヘレナは名前が売れているなあ。ロイが知っているとは思わなかったけど」

 「え? その人いつも劇――」

 「わー! わー! お、俺達は今から急いで依頼を受けないといけないんだ! よし、ドウン早く行こうぜ! じゃあな!」

 「お、おい、ロイ引っ張るなよ……!?」

 「ああ、引き留めて悪かった。また今度」


 ロイは慌ててドウン達を引きずってこの場を後にした。何の依頼か分からないけど、兄さんたちは紹介したし、忙しいならまた今度ヘレナ達を紹介すればいいか。


 「どうしたのヘレナ? 随分おかしそうだけど」

 「い、いや、ちょっとねえ……ぷっ……くく……」

 「あはは……」

 「何か知っているのミルフィさん?」

 「これは守秘義務を発動かなあ……」


 ウルカの疑問に愛想笑いで答え、俺達は首を傾げる。テイマー施設に行く間、ヘレナはマキナの肩に手を置いて笑いをかみ殺し、ミルフィは複雑な表情をしていた。

 しばらくしてテイマー施設まで到着し中へ入ると、暇そうに新聞を読んでいるタンジさんが目に入り、俺は内側の扉をノックして声をかける。


 「こんにちはタンジさん。ちょっと見学したいんだけどいいかな?」

 「お? ラースじゃないか。ははは、見ての通り暇だからな、大歓迎だ! 見たことが無い顔ぶれもいるようだけど、ま、中に入ってくれ」

 「おじゃましまーす!」

 

 アイナが元気よく中に入り、そのまま広場まで出るとシュナイダーやラディナを自由にする。


 「よしよし、窮屈だったな。ここなら自由に走っていいぞ!」

 「うおふ!」

 「ぐるぅ」


 俺の言葉にシュナイダーが駆け出し、ラディナも匂いを嗅ぎながら広場をウロウロしはじめるとアイナが俺に子雪虎を渡してきた。


 「アッシュ達はまだ寝てるから、シューと遊んでくる!」

 「行ってきていいよ。ここなら広いし、追いかけっこもできるだろ」

 「うん! シュー、待てー!」

 「アタシ達の小さいころを思い出すわねえ♪」

 「あんたは日焼けが嫌だってあんまり外に出たがらなかったじゃない……」

 「ギルド部でも応援ばっかりだったもんね」


 呆れるマキナに苦笑していると、タンジさんが俺に話しかけてくる。


 「で、今日はどうしたんだ? 客を連れてくるのにウチほど合わない場所はないぞ?」

 「まあまあ、とりあえず紹介から――」


 タンジさんに兄さんたちを紹介し、アイドルのヘレナがいることに目を丸くする。そして最後にサージュを紹介すると、さらに目を見開いて口をパクパクさせて俺に向く。


 「……ラース、お前ドラゴンまで……十歳から一緒に暮らしているだと……? いや、もう何も言うまい。ラースがおかしいのは今に始まったことじゃない……」

 「何か失礼じゃない!?」

 「なあ、兄ちゃんもそう思うだろ?」

 「まあ、僕達家族でもびっくりすることが多いですね。古代魔法が使えるし、いつの間にかテイマーになってたりと予想がつきません」


 兄さんまでそんなことを言い、俺は顔をしかめて目を細める。身内が居るのは分が悪いと思い、さっさと話を切り替えることにした。


 「コホン! で、今日ここに来たのはこのサージュが魔物を集めているこの施設に興味があるらしいんだ。申し訳ないけど、魔物達の厩舎を見せて欲しいんだ」

 「別に構わないが……珍しいな」

 <我はずっと封印されていたからな。目覚めた後もアーヴィング家に世話になっていて、外の世界に出る機会があまりない。この時代の魔物というものを見てみたいのだ>

 「勉強熱心なドラゴンだねえ……」

 「オラのスキルは【動物愛護】だから、魔物達が言っていることも少し分かりますよー。聞いてみたいです!」

 「お嬢さんも珍しいスキルだな……よし、どうせ暇だしそういうことならお安い御用だ! 久しぶりにお前の旦那にも会えるぞ」

 「がるる……」


 タンジさんが親雪虎の背中を撫でると、何となく嫌そうな声をあげる。そういえばオスは見たことがないんだよな。今日は見れるかな?

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