第二百八十七話 真実はいつも残酷で


 「可愛かったなあ子ベアちゃん。ラースがテイマーの資格を持ってたら連れて帰られてたかな?」

 「もれなく親も付いてくるからそれは難しいんじゃないかな? それにイルミネートの町に帰ったらテイマーの施設行きになっちゃうから可哀想だよ」

 「そっかあ……」

 「まあ、その時はノルマ君に頼んでもっと大きな家を買えばいいんじゃないですかね?」

 「簡単に言わないでよ先生……」

 「私もお金を出して新しい家……!」


 マキナが目を輝かせたので俺はやんわりと窘め、屋敷を目指して駆け足で大通りを抜けていく。人通りも少ないのですぐに丘の上にある屋敷まで到着した。


 「すみません、領主殿にお話があるので通してもらえますか?」

 「申し訳ありません、本日は所用で誰も通すなと言われておりまして……」

 「責任はわたしが取ります。大臣が来たと言えば無下に追い返すこともできないでしょう。このまま強制執行で突撃しても構いませんが?」

 「あ、はあ……」


 きっぱりと言い切るバスレー先生を頼もしく思いながら、門番ふたりは困惑しながら顔を見合わせてどうするかという雰囲気を醸し出している。実際、領主の仕事が忙しいのは分かるけど、こちらとしては非常事態なので、バスレー先生は無茶を言っているわけではない。


 ――だけど、時は俺達が思うより早く進んでいたらしい。門番が渋々、門を開けようとしたところで、窓ガラスの割れる音と爆発音が屋敷から聞こえてきたからだ!


 「今のは!? ……俺が行く、みんなは後から来てくれ!」

 「頼みますよ! ではマキナちゃん、構うこたあありません! やっておしまい!」

 「ええ!? わかりました! ……やああああ!」


 俺がレビテーションで門を乗り越えて高速移動をすると同時に、マキナの雄たけびが聞こえてきた。とりあえずあっちは任せて俺は音が聞こえた方に飛ぶと、二階の窓のひとつから煙が上がっているのが見えた。


 「あそこか……!」


 一気に飛び上がり部屋の中へ入ると、ダメな方向で悪い予感が当たったという状況に出くわした。


 「ルクス!」

 「う、ぐ……ラ、ラースか……! 頼む……助けてくれ……」

 「ぐぐ……」


 部屋の隅でザンビアを庇いながら血を流しているルクス。そしてザンビアも決して軽くない傷を負い、床に転がっていた。相対するのは今から断罪をすべきソニアと、クランの残党である三人だけ。もう行動を起こしているとは……! 逃げた奴等が報告をした? いや、それにしては三人しかいないので恐らく俺達の方が早かったはずだ。

 となると、ソニアがこの瞬間を狙って行動を起こしたってことか。バーディ達に俺達を始末させるつもりだったんだろうけど、返り討ちにあうことまでは想定していなかったのか。

  

 「ガスト領主の息子!? 戻ってくるなんて、アルバトロス達は何をしていたの!?」

 「ソニア様、大丈夫ですよ! どんな魔法を使ったのか知らないが、のこのことひとりで現れるとは馬鹿な坊ちゃんだ、死にな」

 

 「本性を現したな! <ファイアアロー>」

 「おっと、迂闊に近づけないか!」

 「少し大人しくしていろ、ルクス、大丈夫か?」


 俺はファイアアローで牽制しながらルクスに近づき、前に立つ。すると安堵したのかルクスはその場にへたり込んで息を吐いた。


 「た、助かった……僕も卒業してから鍛錬を怠ったことはないけど、こいつらは強い……お前でも厳しいかもしれない。他の人達は、まだか……はあ……はあ……」

 「喋らなくていい。<ヒーリング>」


 右手でファイアアロー、左手でヒーリングを使いルクスを癒す。

 ……実はヒンメルさんと一緒に訪問した帰り、馬車の前にルクスが現れ出会うことができていた。

 

 ルクスによるとナージャと共に屋敷を出たものの、ソニアが執拗に嫌がらせをしてくるため一度父親であるザンビアへ抗議をしに出向いた時にソニアがメダリオンを取り出して何かをしようとしていたため、それを奪って行方をくらましたとのこと。

 その後は連絡が取れる状態にして、ルクスは屋敷を監視していたのだけど、それは正解だったようだ。


 そんなことを考えていると、体が動くようなったルクスがザンビアを手元に引き寄せてくれたのでそのまま治療する。だけど――


 「左目が……」

 「ああ、ばっさり切られたみたいでまったく見えない……だけど痛みは消えた。助かる」

 

 俺のヒーリングでは失った目までは戻らないらしく、ルクスの左目は光を放っていなかった。くそ……回復魔法を使う機会が少ないから【超器用貧乏】で底上げができていないのか……

 自身の力不足を恨みながらクランの人間に魔法を撃ち続ける。こいつら、魔法をものともせず切り払い、少しずつ近づいてくる。


 「チッ、ソニア様こいつは厄介ですぜ、魔力量が尋常じゃない。これはじり貧になる」

 「仕方ないね、一旦下がりな!」

 「「ハッ!」」


 攻めてくるのを止めたので俺も魔法を止め、剣を抜いて半身で構える。このまま時間を稼げばバックからマキナ達が来るはずなので、こいつらが強かろうとマキナとファスさんには敵うまい。

 すると、よろよろと立ち上がりながらザンビアが俺を押しのけるように抑えて口を開く。


 「ソニアよ、どうしてしまったのだ? 誰かに唆されたか、操られているのか……」

 「私は正常ですよ? 最初から、ね? ああ、あんたと会ったのは城から戻ってくる途中に魔物に襲われた時だったっけねえ。懐かしいですわね」

 

 にこりと微笑むソニアにザンビアはさらに続ける。


 「何が言いたい……? だが、私を殺し、ガスト領の息子を殺せば国も黙ってはおらんぞ! それに今は大臣も審問官も来ている。何をしようとしているのか分からんが、馬鹿なことは止めろ!」

 「……あんたがさっさとバーニッシュに継承をすればこんな面倒なことにはならなかったのに……!」

 「何故だ……どうしてそこまでバーニッシュを……!」

 「それは当たり前でしょう? 権力を手に入れるには領主になるのが手っ取り早い。直接の息子で長男ならなおのこと」

 

 そう言って妖艶な笑みを浮かべるソニア。しかし、ルクスが次に放った一言で、場が凍り付いた。


 「長男、か。良くもほざいたな、ソニア……! バーニッシュは父さんとの子では無いと知ったうえでそう言うか? それとも、誰の子かも分からない子を育てたのか?」

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