第二百五十一話 予想外な話


 「お前がミニトレントだって!? 全然木じゃないじゃないか。それにここはどこなんだ? なんか背景が灰色だし」

 

 いろいろ衝撃的な話だったので俺は声を荒げ、一気に状況確認まで口にする。思考ははっきりしているけど、間違いなくここは自宅のリビングではない。

 するとにこにこしながら俺を見ていたミニトレントだという男の子が口を開いた。


 「ここは夢の中なのかな? ずっとおにいちゃんのカバンからざわざわするものを感じていて、おにいちゃんが寝たかなって思った瞬間、ここに立っていたんだ。そしたらすぐに寝ているおにいちゃんの姿が現れたんだよ」


 ここはミニトレントにも良く分からないらしく、だから俺を起こしたんだと笑いながら言う。とりあえず本当かどうか分からないがミニトレントと意思疎通ができるのはありがたいので話を聞いてみることにする。

 

 「ざわざわするものってなんだろうな?」

 「うーん、今は感じないからわかんないや! ここから出たらカバンを見てほしいかな」

 「そうだな。……で、お前がミニトレントだとして、どうしてチェルと一緒にいたんだ? それに魔物なのにチェルを守ってたりもしてたし」

 「とう!」

 「うわ!」

 「えへへー、おにいちゃんの魔力って優しいから近くがいいや」


 ミニトレントはそう言って俺の膝の上にぴょんと飛び乗り下から見上げるように笑う。なんかアイナみたいなやつだなと思っていると、ミニトレントは少し頬を膨らませて話を続ける。


 「僕たちトレントって魔物って思われているみたいだけど、どちらかと言えば精霊に近いんだよ! 迷った人間を森の出口に案内したり、野宿をしている人を魔物から守ったりするんだ」


 ふふんとどや顔で鼻を鳴らすミニトレント。これは教科書にも載っておらず、先生にも聞いたことが無いのでもしかしたら大発見なのでは? 

 いや、でもオリオラ領では襲ってきたし……そんなことを考えていると、少し声のトーンを落としてミニトレントが言う。


 「……でも、僕たちに似たようなクリフォトっていう邪悪な魔物の木がいるからそれも仕方ないんだよね。あいつらは人を迷わせたり、畑を枯らしたりする最悪なやつなんだ! 気を付けないと人間の死体でも養分にするからね!」

 「え!? し、それは本当なのか? だとしたらオリオラ領で倒したのはまさかそっちか?」

 

 だけど、話はそう簡単ではないらしい。


 「ううん……オリオラってところがどこかは分からないけど、僕の住んでいた森が何年か前から様子がおかしくなったんだ……そしたらトレント達もクリフォトみたいになっちゃって、村を襲う個体や森を荒らすトレントが増えていったんだよ」

 「狂ったトレントか。俺が潰したあの沼が原因なら、多分お前もオリオラ領近くの森から来たんだな」

 「そうかも……それで僕、怖くなって森から逃げ出したんだ。他の森ならおかしくならないかもって」


 オリオラ領からここまではかなり距離がある。あの小さい体でここまで来たのならかなり根性のあるやつだ。


 「でもこの町の森に居たんだよな?」

 「うん! お水が欲しかったから匂いを辿ったらここについたの。水が無いと僕は干からびちゃうからね! ここまで意外とお水がなかったから枯れちゃうかと思ったよ。そしたらチェルちゃんに話しかけられたってわけ」


 明るい口調でにこーっと笑うミニトレント。結構衝撃な内容が飛び出し、俺は色々考えることができた。それを実行するにはこいつの協力が必要なので俺は聞いてみる。


 「落ち着いたら森へ帰るのか?」

 「え? うーん、おにいちゃんとおねえちゃん優しいし、お庭も広いからおにいちゃんが良ければ僕ここに居たいな。チェルちゃんも遊びに来るみたいだし」

 「そうか。ならひとつお願いを聞いてくれないか?」

 「うんいいよ!」

 「少しは考えろって。もしお前がここに残ってくれるなら、まだ起きているトレント騒動、そういう裏があるならトレントと出会ったときに説得してくれないか? クリフォトってやつと区別してトレントを助けられるかもしれないし」


 俺がそういうと、ミニトレントは顔を輝かせて俺のお腹に頭を預けて言う。


 「えへへ、やっぱりおにいちゃんは優しいね! うん、僕お手伝いするよ!」

 

 弟がいたらこんな感じなのだろうかと思いながらなんとなくミニトレントの頭を撫でると、くすぐったそうに顔をくしゃりとする。


 「えっとね、クリフォトとトレントは難しいけど見分けはつくんだ。トレントは幹が薄い茶色なんだけど、クリフォトは黒っぽい茶色。葉っぱもクリフォトの方が濃い色をしているかな」

 「へえ、そうなんだ」

 「えへへ、僕役に立てるかなあ」

 

 そんなことを言って笑うミニトレントに俺は苦笑しもう一度頭を撫でてやる。ふいにアイナは元気かなと

頭をよぎる。


 「それじゃ、俺からマキナ達には話しておく。これからよろしくな」

 「わーい! ありがとう! ていまーって言うのも僕頑張るよ!」

 「ああ、そういやそんなのもあったなあ。明日から早速行ってみるか」

 

 ……とりあえずトレントとクリフォトという違いは学術的にも相当価値がある話だ。バスレー先生に話しておいた方がいいかな?


 「おや、なんか視界が……」

 「目が覚めるのかな? 僕は喋れないから寂しいけど、よろしくねラースおにいちゃん! カバンの中、見せて――」

 「ん……」

 「あ、そうだ、僕になまえをつけて欲しいな! そしたら――」


 俺はだんだん瞼が重くなり、意識が遠ざかっていく。ミニトレントがまだ何か喋っているけど、全部を聞くことが出来ず、再び眠りに落ちるのだった――

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