第二百三十七話 いきなり大改造
「ふう……やっと帰り着いた」
「そろそろ夕飯の買い物もしないといけないわね、それにしても大荷物になったわね。生活用品はわかるけど、木の板と丸太はどうするのかしら?」
「なんとなくだけど予想はつくけど……まあ、好きにしてもらおう」
出かけたのは朝早かったが、すでに時刻は十五時を回っていた。というのも、ファスさんの荷物まとめはすぐに終わったものの、いくつか丸太と木の板を作ると言い出しそれをやっていたからだ。
マキナが板を、俺が丸太を数本抱えて歩いて帰路についたため、時間を消耗したというわけ。とりあえず庭に荷物を置き、馬を撫でているファスさんに声をかける。
「ファスさん、俺達買い物に行くけどどうする? 家の鍵は開けておくから、家にいてもらっても構わないけど」
「ふむ、ワシもちと行くところがあるから、でぇとでもしてくると良いぞ。庭は好きに使うぞ。これなら厩舎を建てても余裕があるな」
実際、ウチの庭は結構広い。馬二頭を飼うならとキッチンなどの内装と共に選び抜いた結果だ。
「馬が窮屈にならないようにしてくれればいいよ」
「ほいきた。ではまた後でな。夕食は期待しておるぞー」
デートをしてこいと再度笑いながら言い、俺達は照れながら自宅を後にする。マキナと並んで歩いていると不意に口を開く。
「何かごめんね。まさか師匠が家に来ると思わなかったから」
「ん、別にいいよ? すでにバスレー先生が居るし、一人増えてもそんなに変わらないと思う」
「そういってくれると助かるわ。でも、持ってきた木材はどうするのかしら?」
「テントを張るのに強化するのかもね。庭で修行するだろうから、あんまり派手なことはしないと思うけど」
ジョニーとモーラの馬二頭の厩舎も考えないといけないからあまり改造されても困るけど……そんなことを考えながら商店街に到着し、八百屋に立ち寄る。
「うん、悪くない野菜だ」
「おじさん、これをください!」
「おう、嬉しいことを言ってくれるな。だが、これでも不作なんだ、トレントが蔓延していた時に採れたやつだからな。まあ、どっかの冒険者が解決してくれたみたいだからもっといいもんを用意できるぜ」
「期待しておくよ」
トレントのせいで土地が痩せたらしかったけど、それでもこの野菜は悪くない。果物もまあまあだ。
「まあ父さんの野菜が一番だけど」
「ふふ、家庭菜園にしては規模が大きいもんね」
「メイドさんには触らせないからなあ。俺とアイナとサージュ以外は興味もなさそうだったけど」
「分けてもらったけどキャベツは甘くて美味しかったわ」
野菜を確保した俺達は、今日は魚料理にしようとその足で魚屋へ向かう。魚屋と言えばジャックだが、元気にしているだろうか。
そんな仲のいい友人を思い出しながら魚屋を覗くが、八百屋の時と違い――
「うーん、あまり……」
「種類がないわね……」
「いやあ、悪いな。ちょっと最近漁獲が悪くて大物が回ってこないんだよ」
湖で獲れる魚はそれなりにあるけど、いわゆる海魚は小さいものばかり。アジやキスといった魚ばかりだ。
「焼き魚にしたいからサンマを四匹もらおうかしら」
「あいよ! トレントはなんとかなったらしいし、海も何とかしてくれないかねえ」
魚屋のおじさんはそうぼやきながら魚を包んでくれ、その場を後にする。
「お魚は残念だったわね。海かあ、何が起こったんだろう」
「まあ、国も分かっているだろうからその内解決するんじゃないか? 今のところはこれで我慢しよう」
そういえばバスレー先生は農林『水産』大臣だったか。トレントの件も国王様から言われていたみたいだし、漁獲が減っているのも無視できないような気がする。
◆ ◇ ◆
「さって、今日のお勤め終わりっと」
「やれやれ……昨日は酷い目にあったが、今日はちゃんと最後まで居たな……てか、ほんと仕事は早い……」
「いやあ、すみません! 昨日はラース君とマキナちゃんが面白そうなことをするって話だったのでついて行っちゃいました!」
「ついて行っちゃいました! じゃねぇよ! くそ、ヒンメルのやつも俺のことを話さなかったみたいだし、お前ら兄妹は……。まあそれはいいが、それよりお前、大臣に復帰したんだ、どこで誰が狙ってくるかわからないんだからあんまり出歩くなよ?」
「狙われますかねえ? 顔は知られてないと思いますが」
「単純にお前は目立ちすぎるのが問題だがな。それじゃ、また明日な」
「ええ」
バスレーは執務室にかけてあった上着を羽織り、デスクの後ろにある金庫に手を伸ばす。
「
「お帰りですか? お気をつけて」
バスレーは軽い足取りで城を出る。ちょうどラース達が買い物をしている時間で、家にはバスレーはまだ知らないファスが居る。
「見えてきました我が家! ……兄ちゃんとラース君には悪いですが、今は……」
フッとアンニュイな表情を見せながら鉄柵の扉を開く。
「今は楽しませてもらいましょう♪ たっだいまー!」
「ひひーん」
「おや、ジョニー。出迎えとは殊勝ですね! ラース君達は……な、なにぃ!? ちょっと見ない間に立派な厩舎ができて、さらにちょっとこじゃれた小屋ができているですってぇぇぇぇ!?」
「おう、うるせえ女だな……ってお前、バスレーか!?」
「あ、大工のダイハチ! ウチの庭で何してるんですか! これ、あんたが?」
白い鉢巻を巻いた男に詰め寄ると、ダイハチが後ずさりながらバスレーへ言う。
「おう、何か婆ちゃんに頼まれてな。急ぎで作ってくれって言うからちょっと急いだ」
「婆ちゃん? この家には若いカップルとわたししか住んでいませんけど?」
「はあ? いや、間違いなく婆ちゃんがこの家に連れてきたんだが……」
ダイハチがそういった直後、小屋の扉が開き中からファスが笑顔で話し始める。
「うむ、いい家じゃ! 報酬以上の出来じゃ!」
「ええ!? ファスさん!!? わ!?」
バスレーが驚くが、ダイハチはニヤッと笑いバスレーを押しのけて話す。
「あたりめぇよ! 俺の【構築効率】ならこれくらい朝飯前ってんだ! いい金になったし、またなんかあったら頼むぜ! てかバスレーはここに住んでるのか? いつ帰ってきたんだ?」
「ああ、話すと長くなるんですが、おととい帰ってきてここに住んでます」
「みじけえな!?」
「ま、そういうことなんでよろしくお願いします。農林水産大臣に復帰しましたから気になることがあればどうぞ」
「ふーん。ま、お前が居りゃ楽しくなるだろうな。んじゃ、最後の仕上げをするか」
そういってダイハチは小屋と厩舎に手をつけはじめる。そこでバスレーはファスへ声をかけた。
「あの……もしかしてマキナちゃん関連で?」
「うむ。今日から世話になるぞ。なあに、家はこうして外に作ったから通常の生活に支障はなかろう!」
「(うーん、大丈夫でしょうか……雷撃のファスが町にいることが知れたら……面白くなるにきまってますが……)」
そんなことを胸中でバスレーが考えていると、ラースとマキナが帰ってきた。
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