第百九十四話 今後の指針を


 ――討伐隊を組む。

 そう言ったヒューゲルさんの言葉に、コンラッドが笑みを浮かべ、手をパシッと合わせてから笑みを浮かべて言う。


 「おお、ようやく討伐隊が……! 成り行きとはいえ、戻って来た甲斐があったか……」

 「おし、これでギルドも重い腰を上げるだろうぜ!」


 ボロゾフがコンラッドの肩に手を置いて喜んでいると、ヒューゲルさんがボロゾフ達に向かって頭を下げる。 


「とりあえず連れて戻ってくれたお前達には礼を言わねばならんな。コンラッドがいるといないとではかなり違うだろう。では早速ギルドに頼み込むか」

 「これでトレントも一網打尽ですわね」

 「良かったわね、ママ!」


 冒険者たちとヒューゲル夫妻は明るい顔をしているが、問題はまだある。俺は割り込む形で手を上げた。


 「……だけど脅迫状の件はどうするんです? 相手が何をしてくるか分からないのに動くのは得策じゃないと思うけど」

 「相手が何かをする前にトレントを駆逐すればいいのではないか……?」

 

 ヒューゲルさんが顎に手を当てて言うと、俺の代わりにマキナが困惑し、手を振りながら答えた。


 「い、いや、それだと、途中で気づかれて邪魔されるかもしれないし、解決した後に犯人が逆上して屋敷を襲うかもしれませんよ!? 町も脅威にさらされてるみたいですし……」

 「そ、そうよね! パパ、やっぱり犯人を見つけてからの方がいいわ! 私もラースさんたちに教わって強くなれば手も出せないでしょうし」

 「それは断ったはずだよアンリエッタ」

 「あ、あはは……」

 「でも、そう言われてしまえば……困るわね……」

 

 どさくさに紛れて適当なことを言うアンリエッタを窘めると、ラクーテさんが困った顔をする。そこへバスレー先生が人差し指を立てて領主夫妻とアンリエッタに言う。


 「そうですねえ、領主様達は『基本動かない』方向でいいかと。脅迫状の件が片付くまで我関せずで。それにわたし達がここに入ったのを見られた可能性を考慮すると尚のことでしょう。ただ、人員は欲しいからギルドマスターにだけ話をもっていき、人数を集めましょう。それはコンラッドさん達にお願いしてもいいでしょうか?」


 すらすらと読み上げるかのように口を開くバスレー先生。コンラッドは顎に手を当てて思案した後、顔をあげて


 「確かにバスレーさんの言う通りだな。例え、脅迫のことを町の人間に話し、危ないことを伝えても理解をすぐ得られるのは難しいし、どこで話が漏れるかも分からない……領主様、今は我々にお任せを」

 「そ、そうか……ではお願いするとしよう。素人の私がどうこうするよりいいか……というか多分私には無理だろう……」


 困ったような安堵したような顔で首を振るヒューゲルさん。大胆なのか小心者なのかさっぱり分からない……するとコンラッドがボロゾフ達に顔を向けて立ち上がった。


 「ではボロゾフ、俺達はギルドへ向かおう。朝を少し過ぎた今なら他の冒険者も出払っているはずだ」

 「だな。それじゃ、姐さん……と、ラース様、俺達は一旦これで」


 俺がガスト領の息子だと知り、恐縮した様子で声をかけてくるボロゾフ。この人、顔は強面だし短気だけど根はいい人みたいだな。


 「はは、ラースでいいよ。俺もボロゾフって呼ぶし」

 「お、そうか? じゃあ、ラースこっちは頼むぜ、姐さんとマキナちゃんもな」


 四人はぞろぞろと屋敷を出ていくと、俺とマキナとバスレー先生が応接室に残される。一緒に出ていけばよかったかなと思った瞬間、バスレー先生が俺とマキナに問いかけてきた。


 「さて、ここからはわたし本来の仕事ですがその前に、ラース君現状は理解しましたね? この状況を見て、この後ラース君はどう動きますかね? コンラッドさん達を含めて」

 「え?」

 「急にどうしたんですか?」

 「さあさあさあ!」

 「ちょ、近い……」


 どう動く、か。

 まあ本来関わる必要がないからこのまま王都に行く、という手もあるけど、領主の父を持つ俺としては見過ごせない。となるとトレント退治をする必要があるけど、脅迫のことは懸念材料としてぶら下がっている……犯人を見つけることが必須だけど、それは今のところ難しいか。なら俺にできることは――


 「……バスレー先生の期待する答えか分からないけど『よそ者』である俺達が『勝手』にトレントを退治しに行くという案が出てくるかな? 旅の途中で邪魔だったから、とかそんな理由で。だから討伐隊とは別行動で倒していくのが良さそうだけど」


 そこへマキナも口を開く。


 「私は犯人捜しの護衛としてここに留まるのもアリかなと思うわ。領主繋がりでここに招待された、という手は使えないかしら?」

 「あ、確かにそれもいいな。で、バスレー先生はどうなの?」


 俺とマキナがバスレー先生に目を向けると、にやりと笑う。


 「ふたりともいいですよ。そう、ここはわたし達のフリーな立ち位置を利用すべきです。まあ監視されていたらとは思いますが、ラース君とマキナちゃんは大丈夫でしょう」

 「大丈夫?」

 「ええ、人が多いところ、特にギルドでわたしと一緒のところは見られていませんからね。ということでヒューゲル様、このふたりをここに残していいですかね?」

 「私は賛成! パパ、ラースって凄いのよ! 古代魔法を使えるんだから!」

 

 ヒューゲルさんは俺を見て眉を上げた後、頷いてくれる。となりのラクーテさんも微笑みながら言う。


 「なんだかアンリエッタが懐いているみたいですし、ローエン様のご子息なら歓迎しますわ」

 「やったー!」

 「ふふ、よろしくねアンリエッタちゃん」


 喜ぶアンリエッタに俺達が苦笑していると、バスレー先生が懐から手紙を取り出してヒューゲルさんへ差し出す。

 

 「これは……?」

 「とりあえず、先ほども言ったようにわたしはわたしの仕事を……読んでいただけますか?」

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