第百二十一話 魔法戦闘競技開始


 「大丈夫かいノーラ?」

 「うん……がんばるー……」


 まだ眠いといった感じのノーラが目をこすり、ルシエーラの腕に抱き着いたまま俺の言葉に頷く。今回は上級生から順繰りに対戦が行われるのでしばらく時間はあるけど早いところ復帰して欲しいところだ。


 [さてさて、お昼も終わり魔法競技ですが今回のルールはどうなっていますか、ベルナ先生?」

 [はい、バスレー先生お答えします。トーナメント方式は魔法が無い時と変更がありません。白線から出ると負けも同じですが、もう一つ追加で衣服につけた手のひらサイズのワッペンに魔法が当たっても負けになりますよぅ。魔法は大怪我をしないものなら基本は問題ありません。ですが今度は直接攻撃ができないので手を出して相手に当たったら負けになりますよ♪ 運は味方に、魔力は敵に。頑張りましょうねぇ]

 [はい、ルール説明ありがとうございます! 皆さんいいですか? 手を出したら負けですからね! お、五年生のオーダーが決まったようです!]


 と、ベルナ先生のルール説明を聞いてなるほどと思う。魔法のみ、だけど殺傷能力が高くないものを選べってことだな。力を見せたいけど、古代魔法はまずいかなあ? それと手を出すと負け、という部分も意味深に二回繰り返していたから、ここにも裏があるような気がする。その時、わっと歓声が上がり、リューゼとヨグスが声をあげる。


 「すげぇ、流石五年生だ! ファイアランスって魔法を飛ばしてるぜ」

 「ストーンショットで足を狙って転ばしてからの追撃……あれは使える……。遠距離戦なら僕も頑張れそうだ、期待してくれ」

 

 ヨグスは午前で成果を上げられなかったので特に勝ちへ繋げられるような戦い方を学ぶ目線で見ているようだ。 


 「アタシ役に立てるかしら?」

 「ヘレナも魔法の腕は悪くないし、じっくり戦えばいけるんじゃないかしら?」

 「わ、わたしより上手いと思うよ」

 「一番最初だよね? ダンスのおかげで素早いし、ヘレナちゃんは十分戦えると思う。ノーラちゃん起きてー」


 若干不安そうなヘレナに、マキナとクーデリカが励ます。ルシエールもノーラを起こしながら笑いかけていた。

 そして五年、四年生が終わり、続いて三年生の試合。そこで兄さんとルシエラが登場する。


 「ルシエラが相手なら楽勝だな。振り向かないデダイトなんてやめて俺と付き合えよ」

 「お断りよ! それにそう言っていられるのも今の内。ギルド部で鍛えた私の力を見せてあげるわ!」

 「へっ、面白い! やれるものならやってみろってんだ!」


 恐ろしく物好きな男子生徒の突然の告白をものともせず、ルシエラはむしろ腰に手を当てて挑発する。ティグレ先生の開始の合図が始まったと同時にルシエラはスキルを使う。


 「【増幅】!」

 「魔法強化か、でも俺にだって【火の恩恵】があるんだ、ファイア系統ならお手の物だぜ<ファイアーボール>」

 「あの人いいスキルだね」


 俺はそう呟く。

 火の恩恵というスキルは割と授かる人が居る、かつ使い勝手のいいスキルで、学年に数人は持っている人がいるのだ。小さい火種を大きくすることもできるし、戦っている先輩のように火魔法の威力があがり、ひとつ上の魔法を使うことも可能という『尖っているけど便利』なスキルだ。

 俺達みたいにオンリーワンみたいなスキルと違って応用が利きやすいのがいいよね。とは言っても、俺以外のスキルは世界のどこかで持っている人がいないわけではなさそうだけど。


 [開始直後の攻防。先手は三年Cクラスのトッポ君ですが、公衆の面前で告白とは思い切った男ですね]

 [ええ。わたしとしては狙いは三つあると考えてますねぇ。『告白して動揺を誘う』『いいところのお嬢さんなのでキープ』『本気でみんなの前で告白し逃げられなくする』ですね]

 [なるほど。二つ目は最低ですね。あたしとしては三つ目を推したいところです]

 [そうですね!]


 「うおおお!? なに本気で分析してんだ! いつもみたい茶化せよバスレー先生!! ……チッ、それどころじゃねぇか」

 「<アクアバレット>」


 ルシエラは脚力に【増幅】をかけ、ファイアーボールを避けながら反撃をする。トッポという先輩もファイアとファイアーボールを上手く使って牽制する。

 ファイアとファイアボールの明確な違いはただの火か火球であること。火球の方がスピードと威力があるので攻撃にはもってこいだ。


 「しぶとい女だ……! 去年より動きがいいな」

 「お友達が増えたからよ! <アースブレード>」

 「んな!?」


 長い髪を揺らしながら迫るルシエラから距離を取ろうとしたところで、ルシエラのアースブレードがトッポ先輩の背後に現れ行動を阻んだ!


 「上手い!」

 「お姉ちゃんいけえ!」


 俺とルシエールの声援が聞こえたのか、一気に駆け出しトッポ先輩の近くへ行き手をかざす。


 「私の勝ちよ。告白するならもっと強くないとね? <アクアバレット>!」

 「うわああ!?」


 ルシエラが至近距離で魔法を放ち、生えていたアースブレードごと吹き飛ばされ地面に転がる。ワッペンが魔法の魔力で色が変わり、直後、ティグレ先生が手を上げて終了となった。


 「ふっふーん、どうよ。同時に二か所強化できるようになったんだから!」

 

 そう言ってこっちに向かってピースするルシエラにルシエールが笑顔で拍手をしていた。俺もサムズアップで答える。いつもあの調子ならいいんだけど。

 ……さっきの話からすると、レッツェルの時みたいに危ないことをするのも両親に構って欲しいからなのかなと思うけどどうなんだろうか。前世の俺に近い感情があるのかもしれないと、少し気になってしまう。


 [ルシエラちゃん、余裕の勝利でした! 結局告白の答えはありませんでした、諦めるな少年ー!]

 [うふふ]

 「やめろぉぉぉ!?」


 と、トッポ先輩が絶叫しながら戻っていく中、ルシエラと入れ替わりで今度は兄さんが白線の内側に立つ。

 

 「あ、デダイトさんだよ。ノーラちゃん起きてー」

 「ん、ん……デダイト君? ふあ……あ、ほんとだー! 頑張れー!」

 「ホント、お兄さんのこと好きなんだねえ」


 ウルカが呆れながら笑いそんなこと言う。ともあれノーラが目を覚ましたことは僥倖だ。


 [さあ、三年Aクラスからはデダイト君が登場です! ……そういえばギルド部ってなんですか?]

 [うふふ♪ わたしのクラスの子が作った部活ですよぅ。ギルドの依頼を受けたり、魔法や戦闘の訓練をしたりしますねぇ。デダイト君とルシエラちゃんも入っていますよ]

 [なんと、それでAクラスが強いのでしょうか!? お金も稼げていいですね! 何か奢ってくださいぃぃぃ!]


 ギルド部の名前が出てざわざわとする。『それってアリなの?』みたいな声もちらほら聞こえてくる。

 ダメだと明言されていないので、申請しにいくだけなら誰でもできるんだけど、この考えに至る子供はそう多くないだろう。四年とか五年生ならまだしも、魔物と戦うというのはなかなか怖いはず。

 聖騎士を目指すマキナならではという感じである。そうこうしているうちに兄さんの試合が開始される。


 「……去年とおととしは負けたけど今日こそは……!」

 「僕も油断はしないよ? 特に今年は弟と恋人が入学したからもっと負けられないんだよね」

 「言ってくれるぜ……! <ファイアボール>!」


 開始直後、すぐに火球を飛ばしてくる対戦相手。だけど兄さんは微動だにせず、手を前にかざす。


 「あ、終わったな」


 リューゼがにやりと笑った瞬間、兄さんの魔法が放たれた。


 「<ウインドブレス>!」

 「おお……!? お、押し返され――」


 風魔法がファイアボールを押し返し、そのまま相手を吹き飛ばす。あの人去年も兄さんと戦っていたけど、魔法の撃ち合いになると油断していたのかもしれない。ギルド部ができてから兄さんも訓練を再開したから実は結構な実力者なのだ。


 [一瞬、まさに一瞬の出来事でした! 彼が領主になればこのガスト領は安泰か!? 将来に期待が持てますね! 八歳差な姐さん女房として結婚してくれませんかね!?]

 [尿病?」

 [うわああああああん!]


 騒がしい実況席はおいといて、俺は兄さんに笑いかけると、兄さんも手を上げて微笑む。ノーラもぴょんと飛び跳ねてぶんぶん手を振っていた。


 さて、各学年が終わり、いよいよ俺達の番だ。上級生の戦い方は参考になったとヨグス、リューゼが満足気に頷いていた。

 でももう一つ、切り札が欲しいな。俺はとある考えを伝えるため、みんなを呼んで作戦会議を始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る