第百十五話 まずは圧倒的勝利から


 「さて、それじゃ今度は俺が最初でいいかな?」

 「お、じゃあ次は俺な! 多分あいつが来るだろうしな」

 「? 誰だい?」

 「ま、お楽しみってやつだ!」

 「だったらもう一回わたしが行きますー♪」


 オーダーを変えられるので、俺は一番最初に出たいと宣言する俺。続いてジャック、クーデリカが手を上げた。


 「俺は最後のやつにも出るしいいぜ! ストレートを取ってさっさと勝ちにしようぜ」

 「私もいいわ。ラース君頑張ってね!」

 「もちろん。他クラスの子と戦うのは初めてだし、わくわくするね」


 どんなスキルを持っているか特に。覚えられたりするものは少なそうだけど、意表を突いた戦い方をしてくるのはこの先何かあった時の練習になっていい。


 「それじゃ頑張ってくるかな!」


 少し伸びをして剣を手に持ち白線の内側へ歩いていく。背後ではみんなが声援を送ってくれていた。俺と相手が対峙すると、実況席から相変わらずのバスレー先生が喋りだす。


 [さあ、休憩も終わりAクラスは連戦の模様! 最初は――]

 [ラース君ですね! 領主の次男で努力家の男の子です]

 [は!? そういえば一年生に居るって言ってた! お兄さんは彼女が居るらしいから玉の輿に乗るならラース君……! バスレー先生をよろしく……!]

 [うふふ、歳の差を考えましょうね]


 割と辛辣なことを言うなと苦笑しながらベルナ先生の方へ目を向けると……あ、あれ? ミズキさんが鬼の形相でバスレー先生に近づいていく。


 [な、なんですかあなたは!? 立ち入り禁――あががががが!?]

 

 あああ、ミズキさんのアイアンクローがきれいに決まりバスレー先生が悲鳴をあげる。すぐに学院長先生とハウゼンさんが駆け付け、何か叫んでいるミズキさんが引き剥がされてどこかへ消えた。


 「一体なんだったんだ……」

 「あの先生マジで懲りねぇのな……」

 「体張りすぎだろ……いや、ミズキさんのことは知らねえと思うし、俺達もいるとは思わなかったけどよ……」


 流石にもう三回目。

 そろそろ別の人に変えるか、ベルナ先生だけの方がいいんじゃないだろうか?

 まさかの乱入者により場外が騒然とする中、リューゼとジャックがごくりと唾を飲み汗を拭う。このふたりがこういうのであればよほどのことだ。


 「尊敬しているけどミズキさんも危ないです……」


 さらにクーデリカが謎の呟きを発するが今はそれどころじゃないと対戦相手と向き合う。Cクラスの彼も呆然としていたが、ため息を吐き武器である大剣を構える。


 「俺はホープだ、よろしくなラース君」

 「知ってるんだ?」

 「まあね。ハズレスキルの【器用貧乏】って話は同年代なら知ってると思う。……だけど、国王様が来ているときに呼びだしを受けたのも知っているから、油断はしないぜ?」

 「……」


 なるほど、調査済みってわけか。だけど俺がどれくらいやれるかや、スキルの正体までは知らないはずだ。俺は笑って半身で剣を構える。


 「始め!」


 ティグレ先生の合図で俺はタン、と一歩を踏む。少し高揚しているのが自分でもわかり、体が軽い。俺は力の限り垂直に振り下ろす。


 「はあああ!」

 「!!!?」

 

 ブン、という風切り音が鳴り躱されたのだと気づく。その瞬間、地面が切り裂かれるのが見えた。構わず踏み込み今度は横薙ぎに振るう。今度はガードされたか、大剣は盾にもなるけどやるね!


 「ぐ……!? なんて重さだ、それに速い! だけど!」

 「まだまだ!」


 俺の木剣を受け止めすぐさま反撃に転じてくるホープに、すぐに対応して大剣をカチあげる。ティグレ先生に比べれば全然遅いし、同じ子供なら兄さんの方が強い。

 

 「右……左……か!? そこだ!」

 「見えているよ。スキルを使った方がいいんじゃないかな?」


 [避ける避ける! 大剣の振りは決して遅くないがラース君、紙一重で避けまくるっ! 身体能力が高いんでしょうかベルナ先生?]

 [ええ、彼は五歳のころから鍛えていますから力も体力も魔法も同年代ではなかなか並ぶ子は居ないかもしれませんね]

 [はい、末恐ろしい子供みたいです。領主の次男はハズレスキルというのはブラフだったのかー!]


 もう復活してるんだ……で、ハズレスキルのことを吹聴してくれるのはありがたい。少なくともこの町の人たちには払しょくするだけの力を発揮すればいいし!


 「は! それ!」

 「これでも押し返されるのか……ぜ、全然歯が立たない……!? スキル……!」

 「ホープ、スキルはまだ早い! そいつは姿勢が低いから頭か肩を狙え!」


 Cクラスの声援が飛び、ホープは振り返らず口をぐっと引き締める。そしてかがむ俺に前蹴りを繰り出してきた。


 「おっと……!」

 

 俺が避けると、蹴りだした足を地につけ、それを軸にして横に回り込む。体を入れ替えたホープは全力で大剣を振る。俺はそれを余裕で回避すると、立て続けに斬りこんでくる。


 「はっ! やああ!」

 「大剣は大型の魔物ならいいけど、俺みたいな相手はこの距離は不利だよ!」

 「くそ……! なら、使ってやるさ! 【農耕】!」

 「ん!」


 [ここでホープ君の【農耕】だ! どんな効果があるのでしょう、おっとラース君の体が?]


 戦闘系スキルじゃないのか!? まさか父さんと同じく農業に使うスキル持ちとは。ホープがスキルを使った途端、俺の足元が柔らかくなり一瞬もつれる。狙いはこれか、そして使いたがらなかったのも理由が分かった。一回使えばあとは警戒されてしまうからだ。


 「よし! 貰ったぁ!」

 「だけどこれくらいでやられてたらティグレ先生に申し訳が立たないんだよね!」

 

 無理やり木剣を振って大剣を弾く。割と全力を出したからホープは体ごと持っていかれてたたらを踏んだ。俺は柔らかくなった地面から抜け、決着をつけるため前に出る。彼も体勢を立て直し、迎撃に入ろうとしたので、俺はアレを試すことにした。


 「それ!」

 「左か! ……ごはあ!?」

 

 大剣で俺の剣をガードした直後、逆サイドから同じく俺の剣が右から飛んできて油断していたホープはくの字に曲がり膝から崩れ落ちた。一応、小手のあるところを狙ったけどダメージは深かったようで腕を抑えて呻いていた。

 

 「うう……」

 「続ける? 俺はどっちでもいいよ」

 「……はあ、まいった俺の負けだ」


 [降参です! Cクラスのホープ君が降参し決着ぅ! それにしても不思議な攻撃でしたね、あたしの目には確かに左からの攻撃を受けていたようですけど?]

 [あれはティグレ先生の得意技ですねぇ。片側を打ち付けた後、すぐに持ち替えて逆方向から攻撃してきます]

 [なるほど! なら、すぐに逆を防御すれば……?]

 [狙うのは足かもしれないし頭かもしれないんですよぉ? なかなか簡単にはいきません!]

 [おおう……]


 そんなベルナ先生の解説に満足し、俺はホープと握手をしてティグレ先生に声をかける。


 「へへ、どうだった?」


 するとティグレ先生が照れた笑いを浮かべ、頭を掻きながら俺に言う。

 

 「お前……いつの間に……いや、お前ならできるか。俺の技を使うとは嬉しいことしてくれるじゃねぇか!」

 「まだまだだけどね。でも、ティグレ先生のおかげで勝てたよ」

 「へっ、さっさと戻れってんだ。次がつかえるだろうが」


 と、俺を追い返すが、ティグレ先生の顔は凄く笑顔だったのが嬉しかった。先生の人生は無駄じゃないと知って欲しいからね。


 「っしゃ、んじゃ行ってくるぜぇ!」

 「任せたよ!」


 次はジャックだ。コラボレーションは難しいだろうけどどう戦うかな?

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