第百十四話 Aクラスの実力
[決まったぁ! Eクラスのミディちゃんの重い一撃! よくやったわ、後でなでなでしてあげる!]
「先生うるさい」
[ひい!? と、とにかくEクラスの勝利でした!]
――と、バスレー先生の解説通りEクラスが俺達の相手になった。
結果として五人とも戦う羽目になるので戦い方を抑えなければ手の内がバレてしまう。なので全員動きがぎこちないなという印象だ。ガース君以外はスキルを使わず、打ち合いがメインとなる場面が多かったかな。最終結果は3-2でEクラスが勝った、というところである。
[それでは十分のインターバルの後、AクラスとEクラスの戦いがはじまりますよ♪]
[負けんじゃないわよー!]
すでに公平性などないバスレー先生の応援が響き渡る。見るとEクラスの子が顔を赤くして俯いていた。
「……バスレー先生……」
「進行役、変えて欲しいなあ……」
「そっちは大変だねえ」
俺が苦笑しながら言うと、五人目として戦っていた男子生徒、クロシェが口を開く。
「うん。いい先生なんだけど、お調子者なのが困るよ。授業中もあんな調子だからね。それより、次は君たちとだ、よろしく頼むよ」
「おう! 疲れていても手加減はしねぇからな、運が悪かったと思ってくれ」
「ま、気楽にやるさ。さて、時間みたいだよ」
Eクラスの男子が飲み物を置いて立ち上がる。ちょうどティグレ先生が集まるよう手を振っているところだった。
「……それじゃ、行こうか」
「ラース、景気づけしてくれよ」
俺が立ち上がるとリューゼが歯を見せて笑いながらそんなことを言う。
「なんで俺?」
俺が首を傾げて尋ねると、マキナとクーデリカが口を揃える。
「もちろんラース君がこの中で一番強いからよ!」
「うんうん、お願いラース君」
「お願いラース君♪」
「「気持ち悪い!」」
ジャックがふたりに殴られてオチがつき、俺は苦笑しながらみんなの前に行き円陣を組み手を差し出す。意図に気づいたリューゼ達も俺の手に手を重ねていき笑う。
「それじゃあ……俺達は強い! 勝つぞー!」
「「「「おおー!」」」」
気合十分!
俺達は白線の内側に入り挨拶をすると、最初の選手を残して外に出る。
[さあ、奇しくもこの実況席にいる美人先生ふたりのクラスの激突だあ! 最初はAクラスからリューゼ君、Eクラスからはカナール君の戦い!]
[リューゼ君は頑張り屋さんだから落ち着けば大丈夫ねぇ]
[うぬぬ……全幅の信頼……! カナール君、目にもの見せてやりなさいー! ふぎゃ!?]
今度は学院長先生に叱られている……あの人本当に懲りないな……そんな様子はさておき、リューゼが不敵に笑いながら木剣の感触を確かめる。
「うし、いつでもいいぜー!」
「楽しそうだね、リューゼ君」
「もちろんだ、練習の成果を先生に見せられるし、母ちゃんにいいところを見せられるからな!」
そう言って観客席に目を向けるリューゼ。お、初めてみたけどあれがお母さんか。厳しそうな感じの人だ。ブラオとなぜ結婚したのか、というくらいの気の強さを感じる。
「僕も両親と彼女が見ているからね、無様な姿は見せられないんだ、悪いけど勝たせてもらうよ」
「な!? お前彼女がいんのかよ!」
「始め!」
リューゼがショックを受けているところにティグレ先生が開始の合図をかけた! 即座に前進するのはカナール。武器はリューゼと同じ剣だ。
横薙ぎに襲い来る木剣に、反応が一瞬遅れたリューゼが慌てて自分の剣を使ってガードをする。踏ん張ったリューゼは力任せにカナールを追い返すと、憤慨しながら反撃を開始する。
「同い年で彼女持ちとは許せねえ!」
「ええ!? そこなの! ……負けないよ!」
[リューゼ君の魂の叫びがカナール君を襲うぅぅぅ! あたしも欲しいっ!]
[激昂しているようだけど、リューゼ君、足をすくわれないようにねぇ?]
「おりゃあ!」
「やるね……! 全然冷静じゃないか」
「チッ、俺の演技じゃ油断はしねぇか、ならよ!」
ベルナ先生の言葉とは裏腹にリューゼの動きは冷静そのもの。的確に武器を持っていない方へ回り込んで打ち込んでいく。ティグレ先生の教えを守っているな、うん。
「くっ……!」
「そろそろスキルを使ってくるか?」
「ふふ、残念だけど僕のスキルは戦闘向きじゃないんだよね」
「へえ、なら俺は遠慮なく使わせてもらうぜ! 【ファイアソード】!」
リューゼが叫ぶと木剣が燃え上がる。木だから燃えそうだけど、スキル使用者の剣はあくまでも『纏う』感じなので燃えないのだ。
「噂の魔法剣ってやつだね……!」
「食らえ!」
打ち合えば燃えるので、それは避けたいカナール。だが、見た目以上に威圧がある魔法剣はじりじりと追い詰めていく。
「せい!」
「今だ! 【硬化】」
「おおおおお!?」
[カナール君のスキル【硬化】が発動しました! 柔らかいものでも硬くすることができるスキルですが、勇敢に剣にそれをかけて返したぁぁぁ!]
カナールがスキルを発動すると、燃えるはずの木剣が燃えず、リューゼがびっくりして声を上げる。確かに戦闘に直接影響しないけど、燃えないところを見るとただ固くなるだけじゃないな? なかなか厄介なスキルだぞ。
「これで殴れば気絶するだろう! 覚悟!」
「こんの! びっくりさせやがって! だあぁぁぁりゃああ!」
「ええ!? 痺れてないの!?」
「ティグレ先生の一撃がどんだけおもてぇか知らねえだろ? フォークが持てなくなるんだぜ! 貰うぜ!」
[【硬化】をつかったにも関わらずカナール君の思惑通りにはいかなかったかー!]
「どっせぇぇぇい!」
「う、うわ!?」
リューゼが振り降ろした剣がカナールに襲い掛かり、木剣でガードする。今度はリューゼも硬化していることを理解しているので全力で振りぬいた!
「それまでだ! リューゼの勝ち!」
「へへ、無駄なケガはしなくていいってな」
「うう……いい案だと思ったのに……」
白線の外側に追いやられてカナールはガクリと膝をつく。戦闘向けじゃないスキルだと言っておきながらああいう使い方をするのは面白いと思う。実戦なら不意を突けるし、逃げる手段としても悪くないと思う。
[ここで試合終了ですねぇ。ふたりとも頑張りました!]
「ぐぬぬ……まだ四人もいますから次こそは……!]
実況席が盛り上がっている中、リューゼが帰ってきたので俺達はタッチをしていく。
「いい感じだったね。攻め筋が確実に相手を追い詰めていた」
「おう、こっちはティグレ先生が居るからな、拳骨は勘弁だぜ?」
「口の勝負なら負けないかな、俺……」
「実力で勝負しなさいよ……でも、いい戦いだったわね!」
マキナが締めて笑いあっていると、次の試合のためクーデリカが立つ。
「そ、それじゃあ行ってきますー」
「気を付けてな、クーデリカなら余裕だと思うけど頑張って」
「! うん!」
俺が肩に手を置いてそう言うと、満面の笑みで白線の内側に行くクーデリカ。それを見送っていると、後ろでリューゼとジャックがひそひそと話していた。
「勝ったな……」
「ああ、もう負ける要素がねえ……」
「なんだい?」
俺が聞くと、試合を見ろと顎で示すだけだった。そして――
[さあ、二試合目は我がクラスのクーデリカちゃんと……]
[Eクラスのヘブライ君ですね! さあ、汚名挽回、いっちょやっちゃってくださいよー!]
[汚名は返上するものですよ先輩♪]
[ふぐう!?]
――賑やかな紹介が終わり、クーデリカとヘブライが対峙する。クーデリカは斧、ヘブライ君は剣だ。リーチ的にはクーデリカが不利だけど、どうだろう? 彼女も小柄な体を活かして懐に入る技術は手に入れているけど、俺達以外の実戦は初めてだ。
「始め!」
ティグレ先生の合図で試合が始まると、ヘブライは剣と盾を構えてじりじりと間合いを図る。
「女の子相手ならチャンスだ【兎足】で翻弄――」
「ラース君にいいところ見せないとね! 【金剛力】」
「へ? へぶっ……!?」
それはあっという間だった。
【金剛力】を脚力に回し、一気に詰め寄ったクーデリカが、今度は腕にスキルを振り分けたのか、ドン、という鈍い音がヘブライの胸当てから響き、木の葉のように舞った。
[……き、決まったぁぁ!? 細腕から繰り出される悪魔の力! クーデリカちゃんが一撃で決めましたぁぁぁ! ……なにあれ、オーガか何かなの……?]
[クーちゃんに怒られますよぅ]
[うう……]
実況通り、ヘブライ……君は何の力も発揮できず白線の外側で目を回す。本物の斧なら真っ二つになっているであろう威力だ。観客席では一瞬静まり返るものの、すぐ歓声が上がった。
「ラースくん、勝ったよ!」
「あ、ああ、さ、流石だね!」
「? 握手してくれないの?」
「ちょ、ちょっと手が汚れているから後でね……」
「ちぇー」
握りつぶされるんじゃないかとひやっとしてしまい拒否してしまった……それにしてもクーデリカもスキルを操れるようになってきたなあ。強弱は難しいらしいけど。
――そして最後はスキルがバレているからという理由でマキナが出ていき、俺達Aクラスの勝利を決めた。マキナは聖騎士部もあるし、安定した強さがあるので心強い。
相変わらず魔法は苦手だけど、最近はベルナ先生の指導でファイアを出すくらいはできるようになっている。
[Aクラスストレート勝ちで次の戦いへコマを進めました! さあ、次で一年生の魔法無しの戦闘競技は終わりです。オーダーを変えていくのか? そのままで行くのか? ここが運命の分かれ道ぃ!]
[両クラスとも頑張って欲しいですねぇ]
さて、次の相手は……Cクラスみたいだ。ヘレナのダンスライバルと、サムウェル先生のクラスだ。今度は誰から行こうかな?
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