第七十九話 ドラゴンの力
ドシュ……! バキバキバキ……
「うぎゃあああ!?」
「よ、鎧ごと!? げぼあ……!」
<どうした、そんなものか?>
「ぐ……! まだだ! イツアート、同時に仕掛けるぞ! 【
「は、はい!」
ドラゴンの巣はすり鉢状になっている場所で、5、6メートルはあろうドラゴンが自由に動き回ることができるほどの広さがあった。黒い鱗に紫色や白の皮膚が所々に見られる体躯をしていた。
ヴェイグは副団長のイツアートに指示を出し、ドラゴンの懐に潜り込むと、かなりの速さをもって同じ場所を連撃する。イツアートも足元をと、脛にあたる部分を切り裂こうとするが――
<何度やっても同じことだ。我の体を貫くことはできんぞ!>
ギィィィン!
「これでも通らないのか……!?」
「ぐがっ!?」
剣がインパクトする瞬間、うっすらと魔法陣のようなものが浮かび上がり弾かれた。直後、ドラゴンの剛腕が薙ぎ払うようにヴェイグを吹き飛ばし、イツアートを蹴り飛ばす。ベルナの回復魔法で立ち上がる騎士たちが声をあげた。
「た、隊長!? このおおお」
「隊長と姫様をお守りするのだ!」
「し、しかし、どうやって……隊長でも勝てないものを……!?」
「怯むな!」
<愚か者共めが……その女を置いて逃げれば命だけは助けてやると宣言したのにな。我の言葉を無視した報いを受けよ>
ブォォォォ……
「ぐあああっ!?」
「熱い……焼ける……!?」
「みなさん!? <ヒーリング>……はあ……はあ……このままじゃ……魔力が……もたない……」
黒いブレスが騎士団に襲い掛かり、黒い炎に包まれのたうち回る。ベルナが駆けてヒーリングをかけるも、立ち上がるものが居なくなりベルナひとりになってしまう。ドラゴンはベルナの前に立ちにやりと笑う。
<くっく……これで残るはお前ひとり……む、お前は……!?>
「な、なによぅ! <ハイドロ――>きゃあ!?」
ベルナが魔法を使おうとしたところで、その腕に掴まれてしまう。目の前にドラゴンの大きな顔が入り、ベルナは背筋が震える。覚悟を決めて目を瞑るとドラゴンは歓喜の声を上げて笑いだした。
<お前、レイナではないか! はっはっは! そうか戻ってきてくれたのか! はっはっは!>
「レイナ……?」
聞き覚えのない名前にベルナがキョトンとしていると、ドラゴンは口を開く。
<我が封印されてからそれほど時が経っていなかったのか? 我を封印したのはやはりお前がここに来るのが気に入らん人間どもの仕業だったか>
「えっと……何を言っているのかわかりませんが……人違いだと思いますよぅ? わたしは――」
ベルナが名前を口にしようとしたとき、それは起きた。
ガギィィィィン!
<ぬ! まだ仲間がいたか!>
「う、嘘……」
突然の攻撃に怒るドラゴン。それとは対照的にベルナは目を大きく見開き一言呟く。
そこには――
「てめぇ! ベルナを離しやがれてんだ! ああん!」
「ティグレ先生!」
全身に白銀の鎧をまとい、右手に大剣、左手に槍を持ったティグレがドラゴンの足元に突撃していたからだ。何度も何度も魔法障壁に返されながらも打ち付け続けるティグレ。
「おらあああああああ!」
<う、おお!? 馬鹿な! 障壁ごと我を押しこむだと!?>
ズゥゥゥゥン……
「きゃあああああ!?」
ドラゴンはティグレの猛攻に押され、横倒しになった。瞬間、取りこぼされたベルナが宙を舞う。
「いよっと! ケガはねぇか?」
「は、はい……って、どうしてあなたがここにいるんですかぁ!」
「話は後だ、野生のドラゴンの上に野郎、古代竜だ……こりゃ俺でも勝てるかどうか、だな」
「古代竜……!? ど、どうしてこんなところに……」
ベルナの言葉に立ちあがったドラゴンがギロリとティグレを睨みながら口を開く。
<貴様はテイガー! ……またレイナを我から奪うつもりか! なにが必ずレイナと戻ってくると約束するなどとほざいてくれたな……貴様を信じた我は人間どもに騙され、訳もわからず封印されたのだぞ!>
「てめぇの事情なんざ知らねえよ! 誰だテイガーってのは? とりあえずこいつはガキどもが待ってるんでな。返してもらうぜ!」
<一度ならず二度も邪魔をするとは……! 今度こそ食い殺してくれる!>
「こっちだ! ベルナ、逃げろ! ルツィアールの城にはラース達が来ている!」
「ええ!? わ、分かったわ!」
ドラゴンの剛腕が振り下ろされるのを見越してベルナを一旦手の届かない岩の隙間に隠すと、ティグレは巣の中央へと走り出す。
「させねぇよ!」
ガキン!
<小癪な! カァァァァァ!>
「闇炎のブレス!? 聞いたことはあったが見るのは初めてだぜ……! せいやぁあ!」
パァアン!
<障壁を破る!? テイガー、貴様それほどの力がありながら!>
「知るかって言ってんだろうが! うおお!?」
<馬鹿め! 我が反撃せんとでも思ったか!>
ぐしゃりとティグレを叩き潰すように踏みつけるドラゴン。終わったかと鼻を鳴らした直後、踏みつけた足がぐぐぐ、と浮き上がる。
<ぬうう……しぶとい……!>
「伊達に【戦鬼】ってあだ名がついているわけじゃあねえんだよ!」
<チッ!>
このままではまた転ばされると悟ったドラゴンは尻尾を振り、足の裏にいるティグレを狙う。
「あぶねえ! さすがに賢いじゃねぇか……」
<……他にもドラゴンと戦ったことがあるのか? 戦いなれているな……あの貧弱だったテイガーが……>
「動きが止まった? なら一気に行くぜ!」
パパパパパ! ティグレが攻撃を再開し、魔法障壁を打ち崩していく。剣と槍はそれぞれ刃こぼれもせず破っていき、やがて皮膚を切り裂いた。
<うぬ!? テイガーァァァァ!!>
「はあ……はあ……浅いか!? ぐほ!?」
尻尾で巻き上げられたティグレがドラゴンの目の前に浮き、そこへ繰り出されたドラゴンの拳がアッパーのように突き刺さり、さらに上へとカチあがった。
「やべぇ!? この高さで叩きつけられたら俺でも痛ぇぞ!」
<その前に食い殺してくれる!>
「ティグレ先生!!」
ぐわっとドラゴンの口が開き、落ちてくるティグレを噛み砕こうと待ち構える。ティグレが冷や汗をかき、槍を下に向けるかなどと考えたその瞬間だった。
ガチン!
<なに!?>
ふわっとティグレの体が浮き、牙は空振りした。ティグレはそのまま着地し、なぜ助かったのかをすぐに理解した。
「今度は俺が間一髪間に合ったね」
「……はあ、なんで来たんだラース。あぶねぇっつっただろうが。……でも助かったぜ、ありがとよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます