第六十七話 ギルド部


 <ルィツァール国>


 ラース達に煮え湯を飲まされたグルドー達は自分達の学院へ戻ってきていた。設備も悪くないし、グルドーも元騎士団の副団長をしていたため技術は教えていたつもりだった。

 しかし、負けた。数字の上では勝てたともいえるが、譲ってもらったような勝ちは彼自身許せなかった。相手をぐうの音もでないくらい叩きのめすことを信条とするグルドーには。


 「くそ……嫌な報告になってしまうとは……」


 ルィツァール城内を歩きながらグルドーがひとり呟く。学院の出資は国が行っているので、イベントごとの結果は都度報告する義務がある。特に聖騎士部は未来の騎士育成も兼ねているので、成長ぶりは気になるのである。


 「国王様、グルドーにございます」

 「うむ、ご苦労。こちらへ来るがいい」


 扉が開けられグルドーが声を出すと国王が近くへ来るよう呼びかけ、それに応じる。


 「この度の試合はどうであった?」

 「は……思いのほか強く、引き分けに終わりました……」

 「ふむ、なかなかやるものだな。我が騎士の国の者と引き分けるとは。お前もなぜ『聖』騎士部と呼ばれているかは知っておろう?」

 「は……はるか昔、我が国の英雄が名乗っていた聖騎士……それにあやかり騎士を目指すもののスタートとして設立されたと……」


 国王はそれ聞いて満足気に頷き、続ける。


 「うむ。他の国と切磋琢磨するためにと、何代か前の国王が世界に広めたが、聖騎士が居た国は我がルィツァールだ。だから騎士での地位は我らが一番でなければならぬ。精進せよ?」

 「はは……!」

 

 穏やか口調だが、針が刺すような視線にグルドーは冷や汗を流す。

 現在の国王は『威厳を保つために勝つという想い』が強すぎるが故、いつしか礼節や弱者への守護、名誉と敬意を損ないつつあった。

 

 国王が話を続けようとしたとの時、若い女性の声が聞こえてきた。


 「お父様、それくらいでいいではありませんか。負けていないなら次勝てばよろしいかと。……それより例の件をどうされるおつもりですか? わたくしは嫌ですよ?」

 「おお、グレース……う、うむ、しかし戦に負けると『次』は――」

 「お父様、わたくしが悩んでいるのに、騎士のお話ですか?」

 「ふう……大丈夫だ、今考えておる、しばし――」


 国王と、娘である姫のグレースが会話を始め、ホッとした様子を見せるグルドー。しかしそこで、グルドーが大声をあげた。


 「そうか、あの顔! どこかで見た顔だと思ったが当然だ! 国王! 申し上げます、オブリヴィオン学院に――」



 ◆ ◇ ◆



 「はあ……」

 「ため息を吐くと幸せが逃げるらしいよ」

 「兄さんは見ているだけだからいいだろうけどさあ……」

 「オラはみんな一緒だから嬉しいよー♪」


 呑気に猫を抱っこして言うノーラだけど、目の前の光景は穏やかでいられない。ちなみにここはギルドで、ここにはAクラスのメンバーと兄さん、そしてベルナ先生がいる。

 何故か? それはもちろん、先日マキナが発した『ギルド部』のことに関係する。

 

 話の内容としては正直、面白そうだと言うのが本音で、マキナの構想はこうだ。


 基本は『顧問の先生とギルドで依頼を受けて、みんなで解決していく』というもので、顧問の先生が一緒なら心強いし、魔物討伐も安全になる。それに実戦で経験を積めるのは大きい。

 報酬は山分け方式で、余った分は貯金されて部費となる。それで備品を買ったりしたいのだとか。


 また、依頼を受けずに自主的にみんなでスキルを上げるため山に入ったり、魔物討伐をしたりするのも考えているとか。

 これはルシエールやヨグス、ジャック、ウルカが喜んでいた。普段あまり使わないスキルを持っている子達だね。

 俺としても領主にするためのお金稼ぎはもう考えなくていいので、みんなのスキルアップや自身の能力アップに時間を使うのはやぶさかではない。

 

 では何故俺がため息を吐くかというと――


 「第一回、ギルド部ミーティング! 部長から一言お願いします!」

 「なあ、言い出しっぺなんだからマキナが部長をやりなよ……」

 「ううん! やっぱりここはAクラス最強のラース君がいいわ! ささ、どうぞ」


 ということである。

 俺としては危ないところを助けるポジションくらいでいいんだけど、クラスメイトの意見一致で俺が部長になった。

 設立はティグレ先生の面白そうだの一言から、学院長へ話が行きすぐにオーケーが出たのだ。顧問はベルナ先生で、サブ顧問にティグレ先生である。いつもと逆なのは、ベルナ先生にも積極的に先生をして欲しい意味合いがありそうだ。


 「えー……というわけで、まさかこんなにすぐギルド部が設立されるとは思わなかったけど、できたからには全力でやろうと思う。メンバーは……ルシエール、本当にルシエラも来るの?」

 「うん。なんかごめんね……」

 「あ、いや、ルシエールを責めているわけじゃないんだ。兄さんもいるし、悪いってわけじゃないよ、うん」


 単純に俺が苦手なだけだからなあ……


 「なら今日はいないけど、ヘレナとルシエラを含めた十二人で頑張っていくよ! やりたいこととか面白そうな依頼があったらどんどん出していこう」

 「おう! ベルナ先生のおかげで少し”魔法剣”ができるようになったし、魔物討伐でもいいぜ!」

 「僕は森で霊術を使ってみたいかなあ。墓地行かない……?」

 「わ、わたし、そういうの苦手なの……」


 早速みんなが盛り上がりを見せ、様子を見ていたベルナ先生が微笑む。


 「みんな元気ねぇ。わたしも応援するから、色々できるようになりましょうね」

 「はーい!」


 そこへ俺達が囲っているテーブルじゃない場所から声が聞こえてくる。


 「ラース君のいくところに私ありだ。私も手伝うぞ!」

 「いや、ミズキさんはお仕事してくださいよ……」


 ギブソンさんに突っ込まれて俺達は笑っていた。ま、とりあえずやってみてダメそうだったらまた考えればいいよね?

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