第五十七話 当事者達


 「……よし!」

 「準備できた? 久しぶりの学院だけど、病み上がりだから無理しちゃだめだよ?」

 「わかってるよ兄さん、父さんと母さんは一緒に行くの?」

 「俺達は後からだ。先に行っててくれ」

 「うん!」


 ――あの日、レッツェルとの戦闘で制服はボロボロになってしまったんだけど、お見舞いの時にティグレ先生が持ってきてくれた。新品の制服に袖を通して、気合を入れる……のはいいんだけど、あの時は大変だった……俺はその時のことを思い出して脱力する。


 ◆ ◇ ◆


 「せ、先生ならラース君に無理をさせないようきっちりとどめを刺して欲しかったですぅ!」

 「ならお前も頑張れば良かったろうが!」

 「お前なんて言われる筋合いはないってこの前いいましたぁ!」

 「あーいえばこういう……面倒くせぇ女だな!」

 「ふん!」


 ◆ ◇ ◆


 ――という具合にベルナ先生とずっと病室で言い合っていて、学院長に笑いながらつまみ出されていた。どっちも俺の先生だし、仲良くしてほしいけど……。


 「まあ、ふたりが出会うことはそうそうないか」

 「なんのこと?」

 「いや、こっちの話。それにしてもルシエラが兄さんのことを好きだってのは驚いたね」

 「や、やめてくれよ。僕はノーラ一筋なんだ、ルシエラには申し訳ないけどね」


 今さら兄さんがノーラ以外を選ぶとは思えないけどね。そんな話をしていると、そのノーラが笑顔で手を振っていた。


 「おはよー! ラース君、今日からなんだー」

 「おはよう。うん、打ち身や切り傷で、深手は負わなかったしね。どちらかと言えば魔力切れがきつかったかも」

 「良かった良かったー♪」


 そう言って俺と兄さんの間に入り手を繋ぐノーラ。嬉しいような気もするけど、ルシエラに付け入るスキを与えそうなので俺はやんわりと手を離して言う。

 

 「ノーラは兄さんの彼女だから俺と手を繋ぐのはもう止めといた方がいいって。正直、兄さんに悪いしね」

 「ラース……」

 「えー。オラは三人で仲良くしたいのにー」

 「俺だって彼女が出来たらその子と一緒にいることになるだろ?」

 「むー」

 「……」


 頬を膨らませて納得いかないと言った顔のノーラだけど、大きくなってこのことで拗れたりすることは良くあること。なので心を鬼にして前を歩く。スキンシップはしないけど話すことはするので、学院につくまでには何とか笑顔に戻ったのでホッとした。けど、逆に兄さんの表情がすぐれないのが気になったかな。


 「お、来たかラース。お前はこっちだ、ご両親は?」

 「すぐ来ると思います」

 「それじゃあ後でねー」

 「お昼はそっちに行くから」


 兄さんとノーラと別れ、ティグレ先生に連れられて俺は別室へと向かう。ベルナ先生と喧嘩しているティグレ先生ではなく、学院長に直接言われていたからこのことは知っているのだ。

 程なくして『会議室』と書かれた大きな部屋の前に立ち、ティグレ先生がノックをする。

 

 「入っていいよ」

 「失礼します」

 「失礼します」


 俺はティグレ先生に続き中へ入るとそこには――


 「やあ、ラース=アーヴィング君。待っていたよ」

 「こ、国王様!?」

 

 俺は声をかけられた人物に俺は驚き、慌てて頭を下げる。すると国王様は笑いながら学院長を見て口を開く。


 「はっはっは、気にしなくていいぞ? ここは権力を押し通せない区域らしいからな?」

 「これは手厳しい。ですが、その通りですな」

 「言いおるわい」


 気さくに話している二人を尻目に、今度は見知った顔が俺に声をかけてきた。


 「よう、ラース。元気そうだな? ……ったく、ブラオの息子とふたりだけで追い詰めようとかとんだやんちゃ坊主だったな? ローエンさんに似て冷静なやつかと思ったんだが」

 「ごめんなさいハウゼンさん。みんなを巻き込むのはどうかと思って黙ってたんだ」

 「馬鹿野郎が、ギルドに所属しているお前の味方をしないわけないだろうが。……無事でよかったけどよ。でも! 次からは俺に言えよ?」

 「そうするよ。なら嫌って言っても手伝ってもらうからね?」

 

 そう言って返すと、目を丸くした後に肩を竦めるハウゼンさん。それにしてもあの時の主要人物が勢ぞろいかな? 一体何の話があるのかと思っていると、父さんと母さんと……ベルナ先生が入ってきた。


 「お待たせして申し訳ございません。ベルナ先生を迎えに行っておりまして」

 「ラースの母、マリアンヌでございます」

 「わ、わたしはベルナ、です」

 「……ガチガチじゃねぇか」

 「!」


 ガッ!


 「いてぇ!? なにすんだ!」

 「ふん!」


 あーあ、仲悪いなあ……相変わらず……父さんと母さんに挟まれ座り、母さんの隣にベルナ先生が座ると、国王様が頷き、咳ばらいを一つした後、話し始めた。


 「まずは、ラース=アーヴィング。この度のお前の働き、正直褒められたものではない」

 「……はい」


 やっぱりこういう話だったか……。命を狙われたわけだしそれも仕方ないことだと思う。処罰は甘んじて受けるつもりだ。


 「だが、ブラオ=グートの陰謀を暴き、町に潜む悪党と言う言葉も生ぬるい悪魔のような医者を倒したことは貢献に値する。よって、私と王子を危機にさらした罪は相殺してやろう」

 「え!? で、でも、結構危なかったですけど……」

 

 すると国王は目を大きく開けて『嬉しくないのか?』という顔をし、すぐに笑みを浮かべた。


 「はっはっは! 私は国王だ、命を狙われることが無いわけではない。私とて鍛えていないわけではないぞ? ……不問にするのはそれだけではない。連れていた騎士四人は、騎士団でも腕利き。それが二人がかりで歯が立たなかったのだ。それを消し飛ばしたのだ、それに可能性としてお前がことを為そうとしなくても、なにかをしていたやもしれんしな」

 「え、ええ……」


 一理ある。けど、いいのだろうか? 俺が困惑しているのが分かったのだろう、国王様がもう一つ、と話をしてくれる。


 「それとな、オルデンが帰ってから人が変わったように勉学と剣を学びたいと言ってきたのだ。ラース、同い年のお前があれほどやれるのを見て火が付いたようだ。のらりくらりとしていたあやつにやる気を起こさせてくれただけでも価値があるわ!」


 そう言って笑う国王様。建前かもしれないけど、気を使わせないように言ってくれているのだと思うと、この国王様は良い人だと思う。そこで学院長が口を開いた。


 「国王様、そろそろ次の話にいかれては?」

 「おお、そうだな。次に、領主のことだが、当然ブラオには降りてもらう」


 そうなるのは仕方ない。そう仕向けたのだから。リューゼには悪いことをした……あいつがしたいことはサポートしてやらないとね。それが罪滅ぼしになればいいけど。


 「次の領主は選挙をする……予定だったのだが、領主になりたいものはこの町にはおらぬとのこと。そこで、ローエンよまた領主に戻ってみる気はないか?」

 「……!?」

 

 俺は驚き目を見開く。だけど、問題は――


 「国王様直々にそう言っていただけるとは……ありがとうございます。しかし、領主になるための財産は私共にはありません。申し訳ありませんが、ここは辞退したいと思います」


 そう、お金の問題だ。ことを運ぶには早すぎたから、お金なんてほとんどない。俺が稼いだお金も五十万ベリルがいいところなんだよね……


 「フフフ……」

 「?」


 父さんの話を聞き終えた後、ギルドマスターのハウゼンさんが不敵な笑みを浮かべて立ち上がる。どうしたんだろう?

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