最強魔法剣士にも悩みがある!!!??

REX

第1話 フェルナンドはナンパ仲間を探したい

 俺の名前はフェルナンド。この世に存在する世界最強の魔法剣士。

 俺は圧倒的な魔法剣術により、魔法討伐という難易度♾級のクエストをたったの5人のパーティでクリアしたって訳だ。

 しかし、魔王討伐によって得られたものは『魔王を討伐した伝説の英雄ヒーロー・オブ・デモンキング・デストロイヤー』やら、『魔王を倒した真の魔王ツゥルー・デーモン』やら、『神から寵愛された男ゴッド・ビーリブ・ラバー』だの御大層な二つ名だけだ。


 そんな俺だったが、今は正体を隠して、ハンターギルドのギルドマスターなんて仕事をやっている。

 正体を隠す理由?

 正直、小競り合いに巻き込まれるのが面倒だからだ。スローライフ。それをやるために正体を隠したのだ。

 幸いなことに俺は常に黒い仮面をつけて戦っていた為、俺の正体を知ってるのは魔王討伐パーティの5人だけだ。


―――

――


 今日は、魔王討伐パーティの一人、ジェットの奴がハンターギルドにやってきた。

 軽く話を聞くと、既にハンターを完全に引退しており、今は雑貨店を開いているとの事。


 だから俺は久しぶりにどうだと、ジェットを誘い、この街にある場末のバーにやってきていた。

 ここは飯はそこそこ美味く、酒は安い。なにより、人がそれほど居ないと、話すには中々最適な場所だからだ。

 だが、俺には真の目的がある。それはナンパ仲間を見つけることだ。


 一人でナンパなんて流石の俺でも勇気が出な……、いやこの俺がそんな軟派なことするわけがない。

 そもそも、ナンパに必要なのは獲物を見つける目と慎重に事を運ぶ能力だ。

 だから、ジェットのような慎重な奴が隣にいる安心する。

 そんな下心を持って俺はジェットを誘い、まんまと、この場末のバーに連れ出すことに成功したのだ。


 テーブルに着くなり、俺達は店主にビールを頼んだ。

 ビールは直ぐに届けられた。相変わらずの速さだ。

 しかし、いかにも安物ってわかる泡のキレだ。

 飲んでしまえば、酒の値段なんて関係ない。俺とジェットは軽く乾杯をして、ビールを一気に流し込んだ。


 ごくごくごく。


「ちょ、フェル。そんな一気に飲んで大丈夫? 君はそんなにお酒強くないでしょ!」


 俺はジョッキに一杯に入っていたビールを一期に飲み干してから、テーブルに叩きつけた。


 ドン!


「大丈夫だ。俺も酒は飲めるようになったからな。」


 ジェットの心配する声を無視することにした。

 これからナンパっていう冒険をするんだ。酒の勢いを借りなきゃやってられんだろうが!


 グラスを叩きつけたことで、ジェットの体がビクッと動いた。

 しかし、思いの他、酔いが強く回ってしまったようだ。安い酒は悪酔いしやすい。飲めば同じと言った言葉は撤回させてもらう。

 まぁ、本題の前に少し雑談でもしてくか。


「なぁ、ジェットぉ……聞いてくれよぉ……」


「どうしたんだい? フェル?」


 酔いどれの頭を叩きながら、俺をフェルと呼ぶこの男を改めて見つめる。

 そう。名前はジェット。

 かつて俺の魔王討伐に一緒に出向いた俺のパーティメンバーの一人。

 職業はレンジャー。

 おどおどとした慎重な性格をしている。それ故か、危険を察知する能力は魔王城の攻略を縁の下で支えたパーティの案内役だ。

 警戒心が強く、自信もなくて、いつも人の顔色を伺ってるような奴だった。


 外見の特徴はチビで、身長は160cmもない。

 こういう奴が隣にいると俺が余計に映えるという物。

 まぁ、俺は魅力的すぎるから、俺の隣にいたらどんな奴でも日陰になるのは当然なのだが。


 ぶっちゃけ、ジェットと特別に仲が良かったわけではない。俺にはできない探索が得意という事で、役に立ちそうだから魔王討伐に連れて行っただけだ。

 しかし、酒に誘ったら満更でもない顔をしてついてくるくらいには、こいつとそこそこの関係性は築けていたようだ。


 魔王討伐後に、こいつが何をしていたのかは全く知らなかった。

 それにしても雑貨屋、ねぇ……

 これも時代の流れって奴なのかな?


「俺ら、魔王を倒したよな?」


「うん。倒したね。しかも、ほとんど君一人の力で。」


「だよなぁ……なら、よう……なんでこんなに生活が苦しんだ?」


「あー……それは、単純に魔王がいなくなって魔物が少なくなったからじゃないかな? つまりハンターとしての仕事がない。」


 考えてみれば当然だ。

 魔物退治を生業にする俺のようなハンター家業は、そりゃ、魔物を生み出す魔王がいなくなったらお払い箱なわけだ。

 最近は残党狩りみたいな仕事か、採取クエストでかろうじて飯の種にありつけているという状態だ。


「それによ。報酬とかも今にして思えばうまく出来過ぎてると思ったんだよ!」


「あー……」


 百万ゴールド。

 これが魔王討伐で王様から支払われた報酬だ。

 それをパーティ五人で分け合った。

 つまり一人の取り分は二十万ゴールド。

 破格の金額だった。この金が有れば三世代は余裕で過ごしていけるだけの金額。

 そう、当時としては―――


 あろうことか、魔王討伐後に王様は代替わりをして、新しい政策を打ち出しやがったのだ。


「なんで! 魔王が居なくなったからって貨幣価値が十万分の一に落ちるんだよ!!!! おかげで魔王討伐の報酬が、今や一月の生活費分くらいにしかなんねーじゃねーか!!!」


 空になったジョッキを口に運び。最後の一滴まで飲み込む。


「20ゴールドじゃ、ゴブリンをコツコツ狩ってた方が儲かったね……」


「ジェット、もういっそ国をぶっ壊そうぜ!」


「フェル、それは駄目だって……確かに君にはその力があるかもしれないけど、そんな悲しい事を言わないでくれよ。それに、君はまだマシな方だよ。僕は魔法討伐クエストをクリアしたって称号の所為で、余計にハンターの仕事が来なかったから。頼みの綱の採取クエストにすら依頼主から参加は不可ってされちゃったからね。」


 ジェットの言葉に俺は口を閉じる。

 こいつはこいつで割と深刻だったんだな。

 いつからかハンターギルドに来なくなったのはその為か。


「すまんね。そんな事情と知らずについつい感情的になっちまった。」


「気にしないで。僕だって気持ちはわかるから。それに僕はフェルナンドに感謝してるんだよ。魔王討伐なんて偉業をなし得た君に選ばれた事は僕の誇りなんだ。」


 良いこと言うじゃねーか……

 俺は気を落ち着かせるために、ふぅと大きな一息ついた。

 ……では、本題に移ろうか。


「あー、あー、ジェット? 話題は変わるが、俺らは既に25歳を過ぎたよな。」


「そうだね。いい歳になったよねぇ。それがどうかしたの?」


「いやさ。俺らのくらいの年齢になると、もう周りも結婚とかし始めるだろ?」


「そうだね。それがどうかしたの?」


「これからナンパでも行こうぜ。ほら、魔王退治の時から今の今まで生活立て直すのに追われて忙しかったろ? 俺もそうでさ。彼女とか作る暇も無かったからよ。この完全無欠の俺が隣に居れば、お前でもナンパに成功するって!」


「ナンパ? 僕は行かないよ。だって、もう結婚してるもの。」


 えっ?

 えっ?

 えっーーーーー!!!!!!????


「嘘だろ……」


「本当だよ。えっ、それより、フェルって彼女もいないの?」


 むっきー!!!!

 無自覚な煽りで内心怒り心頭!


 どうせ、ジェットの奥さんなんて、ゴブリンみたいなやつなんだろう。

 そうに決まってる。

 俺は負け惜しみを心に念じながら既に空になったジョッキを何度も口に運ぶ。


「だからー、今日のフェルは飲み過ぎだよ?」


 その指摘むかつく奴だ。

 すると、こんな薄暗い場末のバーに女が一人で入ってきた。


 美少女だ。素直にそう思った。

 小さい顔に低い身長。

 しかし、胸部に着いた胸のボリューム感はしっかりとしている。

 俺の好みのタイプだ。


 あの女をナンパして、今日は――むふふ……

 俺がそんな妄想をしていると、女が先に口を開いた。


「あっ! ジェット! ここに居た! 遅いよ! 今日は直ぐ帰るって言ってたじゃん!!!」


 小さい体にそぐわない大きな胸が女が怒る度にぷるんぷるんと揺れ動く。


「あぁ、御免御免。マロン。今日は昔の恩人に誘って貰えたからさ。」


 怒る女にさっと返事を返したのはジェットだった。

 えっ?

 何、この気さくな感じ?


「こっちはフェルナンド。 ほら前に話したあの魔王を倒した最強の魔法戦士だよ。」


「えー! あの有名な『神に寵愛された男ゴッド・ビーリブ・ラバー』様なんですか!? すっごーい! ジェット、もうっ、そう言うことは早く言ってよ!!」


「いやー、だって、僕もフェルとはパーティを組んでただけで、約に立てたのかすら怪しいところだよ。でも今日はフェルから誘ってくれたんだ。これは行かないとダメでしょ。」


「それすごいじゃん! それなら仕方ないよ! 許す!」


 プンプンと怒っていた女は180°の態度を変えて、俺に近づいてくる。


「あっ、私、マロンって言います! ジェットの妻です! 是非、握手してください!」


 ハイテンションのマロンから差し出された手を、呆然としながら握り返す。


「きゃー! ありがとうございます!!! 英雄様と握手してもらっちゃった! あっ、もちろん英雄様の正体は秘密にしますよ! こう見えて口は固いんです!」


 ……そうは見えない。とか口に出す余裕は俺にはなかった。


「それじゃ、ジェット帰ろう! ご飯できてるよ!」


「うん。それじゃフェル、ごめんね。僕はもう帰るよ。」


 そう言い残して二人は手を繋いでバーを出て行ってしまった。

 最後にジェットが半身だけを乗り出し、親指を立てて、


「あんまり飲みすぎないでね! フェルにもいい出会いはそのうちあると思うよ。」


 と、言って帰っていった。

 俺の手には柔らかい感触だけが俺の掌に残った。

 二人が出て行った後、不思議と俺の頬に暖かい水が流れ落ちた。

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