前編。
2年教員達の会議は険悪が基本だった。
「では、これより新学期に伴う2年生の会議を始めたいと思います」
『よろしくお願いします』
2年の学年主任の務めている
高等部の校舎内にある教員用の会議室を利用して、2年の教員達を集めて会議を始めていた。
「それではAクラスの
「はいです〜」
「鶴谷先生、返事は短く」
田中先生に促されて笑顔で答えるのはAクラス担任の
いつもニコニコしている美人な女性教員で、全クラスの生徒達からも人気高いフレンドリーな先生。毎年Aクラスの担任を務めている3人の教員の1人であったが、教員の中でも1番緩い性格な為にこうした注意も少なくない。
その辺りが色々と厳しいEクラスの佐倉先生が叱るように言うが、鶴谷先生は全く気にした風もなくのんびりとした口調で話し出した。
「とくに問題なく平常通りです〜。
「その2人、時々激突していると聞ているが? あとBやCクラスどころか私のEクラスとも度々衝突しているようだが?」
「喧嘩するほど仲が良いって言うじゃないですかぁ〜。それに衝突と言っても学園が認めてるクラス同士の対抗戦だけですよ〜?」
「ほぉ? 本当にそれだけか?」
「おっしゃってる意味がわかりませんねぇ〜」
ちなみに2人は犬猿の仲である。それは教員どころか生徒からも周知の事実なのだが、これを面白がった学園長が2人の担当の学年を同じにして、AクラスとEクラスを意図的に衝突させて生徒達だけなく、2人まで焚きつけている節があった。
……学園長は
「あーコホン……では、Bクラスの柳先生お願いします」
「あははは……はい」
このまま続けさせると会議が終わらないと、進行役の田中先生が次に移らせる。
Bクラスの担任の
面接時に大地のステータスの高さを見て、教員達から一目置かれた原因の女性教員だった。
「比較的に穏やかですね。クラス代表の
「塔子ちゃんは面白い冗談を言うねぇー?」
「なんならすぐに対抗戦を始めてもいいんだぞ、柳?」
「……」
どうして女性陣はこうもピリピリし合うのか、Dクラスの男性教員の
「え、ええと……Dクラスはとりあえず平常維持ですかね。Eクラスとは結構衝突してますが、それでも仲は良いかと?」
「精々引き落とされないように気を付けることだな、片岡よ」
「は、ははは……」
佐倉先生に鋭い視線を向けれて苦笑いで誤魔化す片岡であるが、凄まじく居心地が悪い。
クラスのランクについてはタブー扱いであるが、ランク制の扱いなのはやはり事実。最初の頃は1年生も気付いていなかったが、能力の授業や2年3年と交流を持てば自然と気付いてしまう。
なのでランクが1つ上のDクラスとEクラスが対立するのは必然であった。
更に学園長権限によりクラス単位、もしく個人の成績次第でランク上げが認められており、クラス単位の場合はクラス規模でランクが入れ替わる為に生徒達も本気にならずには入られなかった。
現段階でクラスが入れ替わるような大きな衝突は起きていない。
しかし、2年に慣れば穏やかだった学生でも牙を剥くことがある。大物喰いを狙ってAランクを狙うクラスも少なくなかった。
ちなみに個人ランキングも存在している。年に3回行われるランキング戦は全学年にチャンスがある最大の勝負だ。
これは学年別ではなく全学年でのランキング扱いとなり、Aランクの学生はこれを狙っている者が多い。
3年と競い合う機会は殆どないが、ランキング戦に関しては順位に合わせて対戦相手が決まる。競い方は戦闘がメインな為に挑戦出来ない者も中にはいるが、他の形式で競える内容も用意されており、戦闘系ではない他の者達はそちらで競い合っている。
中でもこのランキング戦やクラス替えに燃えているのが、失礼ながら問題児認定を受けている最下位のクラス。
「では、佐倉先生お願いします」
「はい」
Eクラスの佐倉先生の話が始まる。それだけで2年の教員達が自然と身構えてしまう。全学年問わずEクラスだけは優秀や凡人関係なく別格なのだ。
「現状は大きな変化はありません。相変わらず鷹宮はAクラスを潰すことしか考えていない。この間の小競り合いでも何名か潰していたな。江口は自由行動が多くこの間も別の島に許可なく入っていたな。この2人の制御は無理だから諦めた」
「指導者が諦めたらどうしようもないんですが……」
名を上げられた2名については、田中以外の教員もよく知っているが、全く更生されている気配がないのだと愕然とする。どちらも性格が割りまともな方なのだが、探究心というか上を目指す野心と言うべきか、何処まで己を貫いていく問題児であった。
「他はまだ目立った動きはないが、影で何かしらしてるだろうな。ま、その辺りも込みなのがこの学園なんだが……」
何名か怪しい学生はいるが、表向きには真面目な生徒として振る舞っているので、担任立場の彼女でも深くは探り難かった。
佐倉はつまらなそうに言っているが、そんな面々を上手くまとめ上げているだけに他の教員からは尊敬の念を送られていた。
「ですが、田中先生が言っているように2年になったので、そろそろ頭角を表してくるでしょう。この学園はイベントが多いので早ければ4月中には動き出すかもしれません」
目上なので田中にだけは自然と敬語になる。失礼ではあるが、慣れない様子の教員達であるが、付き合いの長い柳がふと思い出して尋ねてみた。
「……そういえば彼はどうですか? 『サポート部』に入って以降、目立った話を聞きませんが?」
「……幸村か。アイツはよく分からん」
訊かれた佐倉は胡散臭そうに渋い顔をする。柳に言われて目を向けていたが、彼女が見ている限り目立った動きは見せていなかった。
授業の成績は非常に平凡で悪くないが、優秀とも言えない。それでも授業態度は良く評価は最低なものは1つもなかった。
しかし、肝心の能力関連の授業は、ハッキリ言って平凡でしかない。やる気がないのかと思えるほどテストの成績は低く、モンスターの討伐でも参加が少なかった。『サポート部』に所属して他のチームなどで補佐を務めることは何度かあったが、教員達の耳には大きな出来事は一切聞こえて来なかった。
「正直柳の考え過ぎだったとしか思えん」
時間の無駄だった。そう不満顔で向ける佐倉だったが、不思議そうな顔をした柳から彼女の考えを覆しかねない思わぬ言葉が返ってきた。
「そうなんですか? でも、今年の1年のトップは彼の後輩だそうですよ? 彼の妹さん同様に未覚醒ですが、とんでもない素質でしたよ?」
「――何?」
今年の入学生の面接には参加していない佐倉は知らなかった。
教員の中では少なからず話は広まっていたが、個人的な情報だったこともありある程度で止まっていた。妹の方も素質が高いと注目されていたが、大地との繋がりまで知っている者は殆どいなかった。
「凄いですよ彼女は。私もしばらく興奮が止まりませんでしたが、彼の後輩で顔見知りだと知って思い出したんですよ? アレ程のものはこれまで見てきた中にも居ませんでしたから」
「それほどなのか……?」
「一部の生徒達には、もう情報が漏れてると思いますが、Aクラスに彼女を置いておくと他Aクラスの生徒達によろしくありません」
「……1年のEクラスは1番危うそうだな」
だからこそ手に負えないと判断したか、柳は学園長と1年の主任に危険度を伝えておいた。
遠回しに伝えた彼女の言葉の意味を察して、佐倉や他の教員も苦笑いするが、1年の担当教員達が居たらとても笑いごとではなかった。……残念ながら居ないので全員がほぼ他人事であった。
そして、会議が終わって入学式が始まったすぐのことだ。
ダントツの素質者だった小森麻衣が1年生として天輪に入学した。
これまで誰のチームにも正式に入らなかった幸村大地が、小森麻衣を含めた3人の1年生と共に新たなチームを作ったのは……。
新たな波乱の風が少しずつ現してきた。
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