妹もジョブを取れそうだけど、$目の後輩は金に目がなかった。

「でもいいなぁー、魔法とスキル。空にも取れないかなぁ?」


 模擬戦も終わって休憩していると、妹の空が物欲しそうな顔でぼそと呟く。


 内容に関してはとくに驚くところはない。能力者のことは以前から興味を抱いているようだし、性格からして話せば欲しがると思っていた。


 お兄ちゃんなりにその問いに対する穏便な回答も用意していたが……。



「あ、ソラちゃんも欲しいの?」


「えっ、何か方法があるのマイちゃん!?」


 後輩が一緒の時に尋ねるのは勘弁してほしかった。

 その空のお願いに関しては麻衣の方が可能性がある上、本人も全く止める気がないのだ。


「異世界のジョブ取得の儀式。簡易的な方法だけど私でも出来るよ?」


 言っちゃたよこの後輩。本来ジョブ取得の儀式には、職業ごとの祭壇型の魔道具と司祭や司教などの儀式を司るジョブ持ちが必須だ。


 『魔導王』である麻衣なら儀式魔法や契約魔法も出来ていた。


「ジョブって……その職業のことだよね!? 空でもなれるの!?」


「なれるよ。ただ絶対とは言えないけどねぇ……」


 チラリとこちらを見る後輩。話を進めてもいいかというところだろう。

 話した以上は止めてもしょうがないし妹の性格的に今さら逸らしてもダメだろうが、厄介なことはやめてくれよ?


「そもそも試した機会が全然で、元の世界でなんて初挑戦になるからねぇ……。勿論失敗してもソラちゃんには影響が出ないようにするけど」


 そう、俺の不安とは失敗した場合である。向こうでは取得失敗でもとくに影響はないそうだが、こちらの世界の場合はどうかは分からない。


 専用の祭壇などの魔道具が無いのも不安の理由かもしれないが、1番はやはり火力馬鹿な麻衣が何かやらかすのではと言う1点。


 本人は慎重にやるとは言っているが、正直アテにならない。これに関しては信用度がほぼ0パーであった。


「うーん。その条件とかってあるのかなぁ? 取得するには『何かが何レベル必要』みたいなのが?」


「条件……かぁ」


「そうだな……」


 空に訊かれて目を合わせる俺と後輩。言われて気付いたが、基本職業の取得条件ってなんだろう? 


 いや、とんでもない条件とかはないと思われるが、最低限の何かしらの条件とかはあるかもしれないか?


「体内に宿っている魔力量でしょうか? センパイ」


「最初は俺達も無かった筈だ。当初は知識関連の指導しかなくて、ジョブの方はすぐ取得出来ただろう?」


「あ、でしたねぇ」


 あるいは儀式さえ出来れば問題なく取得も出来るということか。

 ……もしかして儀式が可能な麻衣さえいれば問題なくイケるのか? 改めて考えてみるとなんか出来る気がしてきたが。


 試していない以上は断言するような発言は口に出来ないが…………一応確認だけはしてみるか。


「空は……そのジョブとか、すぐ取得してみたいのか? 話を振ったのは麻衣だが、正直俺は進めたくない」


「え、う〜ん? ……どうかなぁ? 2人の話を聞いてると欲しくはなるかなぁ?」


 やっぱり会話が原因か。

 けど絶対に欲しいとかじゃないなら、まだ危ない賭けは避けても問題ない筈だ。


 ぽわーんとした妹の中では、ファンタジーはまだブームではなかった。


(いいな? 後輩)


(はぁ、センパイは心配性ですねぇ?)


 後輩と視線でアイコンタクトを取る。シスコンを見るような呆れた目であったが、後輩の了承は取れた。


「なら、ちょっと考えさせてくれないか? こっちも軽い気持ちで儀式をやらせるのは気が引ける」


 あと何気に日常生活にもリスクが出てくる。身体能力を強化してなくても常人よりもずっと高くなっている。

 まぁ学校の体育では手抜きして、部活も入ってないから問題にはなっていないが、妹の場合だとバスケやってるから誤魔化さないといけなくなるだろう。


「しっかりと安全が確保が出来てから、空がどーしてもなりたいと思うなら、その時は俺達も手伝うからさ?」


「うん、いいよぉー」


 多少強引かなぁとも思ったが、意外とあっさり納得してくれた。ご理解のある我が妹で本当に助かったよ。ブームが最高潮になったら分からんけど。


「おなかすいたなぁ……」


 ……いや、単にそこまで思考が回らなかっただけか。

 気付いたら夕飯時であった。





 ――しかし、真の本題は夕飯の頃。偶然麻衣と2人っきりになった。


 夕飯の時間になったので調理をしていると、リビングでのんびり座っている麻衣が急に話を振って来た。


「センパイは能力者の育成学園って知ってますか?」


「調理中の俺に何訊いてるの?」


 今日は麻衣のお泊まり会でもあった。

 俺と麻衣の両親は共働きで家を留守にすることが多く、こうした家族ぐるみの泊まり会はよくあった。


 一応年頃の男子が一緒にいるので少しは考慮して欲しいが、妹や麻衣と不仲じゃないからか両方の親から全然気にされていない。


『アンタ達なら問題ないでしょう?』


 何言っている義母さん? あなたの娘が1番危ないんだよ?


『大地、お前も男なんだ。責任はしっかり取れよ?』


 分かっているならなんとかしてくれよ父さん。中学生の俺が責任取れるわけないでしょうが。


『それでいつ麻衣ちゃんを貰ってくれるの?』


 貰いません。頼むから娘と俺を引き込もうとしないで奥さん。


『孫はいつ生まれるんだい?』


 おじさんはとりあえず誤解から解かせてください。その年で孫なんて生まれたら卒倒ものだと分からないんですか?


 少しは気にしてほしいけど麻衣と何もないのも事実だからあまり強く言えない。

 義妹だからか空の方が遠慮がなく、内心ヒヤヒヤな生活を送っていた。


「片手間でも出来るじゃありませんかぁ。で、知ってますかセンパイ?」


「あー……一応知ってる。アレだろう? 人工島にあるって言う学園島のことだろう?」


 調理は俺や妹の空も出来るが、俺の料理を御所望なので俺だけキッチンに立っている。

 妹の方はちょうど席を外している中、ぼんやりと思い出しながら口にすると麻衣が話を続けた。


「例の『特定区域』付近に建てたと言う能力者の為の人工島です。いくつもある内の1つらしいですが、そこで学生の為の学園があるそうです」


 政府が管理している日本の『特定区域』。

 モンスターが誕生する『存在の原点』とも呼ばれているが、さらに広範囲のことを指しており、その一帯を政府が『管理街』として扱っている。


「能力者達の溜まり場の側だから近寄ろうとは思わないが」


「目を付けられた面倒ですからねぇ。能力者の中には索敵や感知タイプの人がいますし、最悪の場合バレる可能性もありますもんねぇ」


 日本に住む大半の能力者がそこで活動している為か、経済的なレベルも非常に高い。

 モンスターの討伐以外にも、生産系の能力を持つ者が多数いるからだ。意外と能力者の中には金持ちが多い。


 逆に金欠の人もいるらしいが、理由の大半は自業自得の一言であった。


「で、その能力者ばかりが多い島の話がどうしたんだ?」


「おや? 珍しく察しが悪いですねぇ。それとも惚けているだけですか?」


 そして、学園島とは『管理街』と橋などで繋げた海に浮かぶ人工島の1つ。10年くらい前から設立されており、優秀な能力者が何人も発掘されていたが、その話を切り出したということは……。


 惚けているつもりはないが、後輩の性格を考えると察したくない。


「センパイ、この学園を利用してみませんか?」


「お前、目が$の目になってるぞ? とりあえず調理を続けていいか? 長引くと空がグズる」


「ああ、大丈夫ですよ。ソラちゃんには悪いですが、幻惑魔法でお部屋でおやすみして貰ってますんで」


「人の妹に何しているの? あとで怒られて知らんぞ」


 しかし、目が$の時の後輩は大抵ロクデモナイことを考えてるのは間違いない。異世界でも何度もそれでひどい目に遭って来たので、そこは嫌な自信があった。


「金が絡むとお前は色んな意味で厄介な存在になるからなぁー」


「そうでしたっけ?」


「そっちこそ惚けるか」


 以前から思うが、この普段には見せない行動力が怖い。


 例えば高額な懸賞金が賭けられた盗賊を倒す依頼を引き受けた際。対象を捕獲すれば済む話だったのか、何故か隠し財宝の略奪に発展。盗賊の根城に殴り込みをさせられた。


 結果、盗賊軍との全面対決にまでなり、問題なく勝ちはしたが、死屍累々な景色が今でも脳裏に焼き付いてる嫌な経験の1つであった。


「ていうかそれが本題か? 突然空にジョブ話を振って離して……一体何が狙いだ?」


 ただの金儲けな気しかしないが、俺ももうすぐ3年生ですぐ受験生になるのだ。

 受験先はとくに考えていなかったし、とりあえず学園の話だけでも聞いてみるのも悪くないか?


 $目でニヤリと笑みを浮かべる後輩を胡散臭うさんくさく見ていると、小生意気な後輩は勝ち誇った顔でカバンから学園のパンフレットを取り出した。

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