エルフさん異世界に行く

古狐さん

第1話 異世界≠異世界

 私の世界ガイファラウンド大陸の西にある大森林にヒッソリとしたエルフ村がある。


「フィオ! もう少しこちら側に追い込める?」


「うん。任せて! お母さん」


 巨大なイノシシを獲るため、罠を仕掛けていた場所へ誘導していく。


 エルフにも様々な種類があるのだが、数ある中でも稀なエルフ『フェイカー』と呼ばれるエルフが私達だ。


『フェイカー』と呼ばれる原因は、見た目はかなり幼くみえるが、中身は身体能力・魔力・体力を含めて全てが特化している化物だからである。


 ちなみに、巨大イノシシ程度だとチョンと撫でるだけでその部分が木端である。なので、落とし穴を仕掛けて落とした後に、手のひらで穴をポンっと叩けば空圧でイノシシが無傷で獲れる訳である。


 追い込みも終盤、もうすぐイノシシが罠に落ちる。


「お母さん! そろそろ私が仕掛けた罠に着くから任せておいて!」


「本当に任して大丈夫? 全部ひとりでやるの初めてでしょ?」


「大丈夫だよ! だって私ももう16歳だもん」


「ん〜わかったわ。けど、無茶は絶対にだめだからね!」


「は〜い!」


 お母さんが木の影に消えるように去っていく。


 私ももう16歳だ。イノシシぐらい綺麗なまま獲っちゃるんだから!


 イノシシを更に誘導し、規定位置まで誘導が完了する。


「よし! ここだぁ〜!!」


 罠を起動させる。


 ズズズン!! と巨大な地響きと共にクレーターができる。


 巨大イノシシがまるでマメみたいに見えるほどのクレーター。


 その底は見えず、まるでブラックホールの様だった。


「あれぇ〜、ちょっとばかり大きさ間違っちゃったのかな?」


 巨大イノシシより更に小さなフィオと呼ばれた少女はそのままブラックホールみたいな底にイノシシと共に落ちていった。


 ⋯⋯⋯⋯⋯⋯。


「はわ〜。ちょっと寝ちゃってたのかな⋯⋯」


 落ちた先ーー暗い闇からの記憶がない。


「jぅsけんっfかks」


「?? 聞いたことのない言語だ」


 即座に【言語対応】を使う。これは自分を変えるのではなく相手の脳から直接対応するものである。


「大丈夫か嬢ちゃん? 倒れていたから運んだけど。どこかで迷子にでもなったのかい?」


 見慣れぬ格好のハゲたおじさんが心配をしてくれている。


「ここ⋯⋯どこですか⋯⋯??」


 自分が寝ていた白い物体、天井に輝く光、木でできた部屋。どれも気になるものばかりである。


「ここは古兎町の寺だよ。一応日本語は分かるんだな? どこから来たんだい?」


「ガイファラウンドの大森林⋯⋯けど、無くなっちゃった⋯⋯」


 ポロリと涙が出るとハゲたおじさんがあたふたと慌てる。広域検索をかけて現代位置を確認しようとしたが詳細不明とでていた事が涙の原因だ。


「ガイファラウンド?? 外国か何かか?? うーむ。とりあえずどうしたもんか⋯⋯」


 ポロポロと涙を流している少女を見ながら、ポリポリと頭をかいて考える。


「とりあえず警察に伝えるべきか⋯⋯」


 警察という単語に、フィオが反応する。


『警察』いわゆる警備兵であり執行者でもある。連れて行かれた場合、当分の間は拘束される可能性有り。


「警察はいやです⋯⋯。ここから動きたくない⋯⋯」

 

 フィオからしてみれば、この寺という場所に私がいたということなら、なんらかの手かがりがあるかもしれないため動きたくはなかった。


「ふむ。心細いか⋯⋯。まぁ幸い、困っている人を見捨てる事は仏様に失礼か。なら嬢ちゃんは、ここでお手伝いしながら自分のやりたい事をやりなさい。ただし、嬢ちゃんに関係する人が迎えに来たり、話せるようになったらでいいから今の状況をきちんと説明しなさい」


「はい⋯⋯あの、ありがとうございます」


 ポンポンと頭を置かれる。


「自己紹介がまだだったな。私はこのぼろっちぃ寺の住職をしている神薙玄冶(かみなぎげんや)だ。で、嬢ちゃんの名前は?」


「□■■□です⋯⋯」

 

「『ちぃ』ちゃんか。よろしくな」


(どうやら発音的に私のいた世界の発音とここではズレがあるのね⋯⋯。けど、この言語に合わした名前ならこのままでよいか)


「で、ちいちゃんは何歳なんだい? 幼くみえるが喋りかたの受け答えはしっかりできてるから、10歳ぐらいかい?」


「違います。昨日で16歳になりました」

 

「おぉお?? そうなのかい? それは失礼したね。てっきり見た目⋯⋯⋯⋯」


 玄冶が言っている最中に、軽快にバキンと何かが壊れる音が響き、次の瞬間にはちいちゃんの胸が爆発する。


(あ〜とうとう胸当てが壊れちゃった⋯⋯。グスン⋯⋯10年近くありがとうね⋯⋯)


 爆発した煙が収まると、その体に似合わないほどの大きな脂肪の塊が二つ姿を表していた。


「⋯⋯⋯⋯これは⋯⋯たしかに10歳ではありえねぇな⋯⋯」


 

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