第51話 黒いゴブリン


「まずい、出口へ!」



 嫌な雰囲気を感じ取った俺は、即座に二人を出口へ促した。



 だが、アリシアは前に出て俺を守ろうとする。



「おい」

「ルーク様をお守りするのが私の役目ですから」

「……」



 すると、それに触発されたのか、エリスも弓を構える。



「ゴハンをもらった分、ちゃんと働かないとっ!」



「お前ら……」



 ここで対峙するしかないか……。



 黒い皮膚になって蘇ってくるゴブリン達。

 その瞳は怒り狂ったように真っ赤に染め上がっていた。



 普通のゴブリンだった奴らが何故、こんなことに……?



 そんな中、最奥で種ゴブリンが起き上がる。

 そして、その背後に空間の揺らぎを見つけた。



「あれは、まさか……」



 見覚えがある。

 間違い無い。

 あれは、あの時の……。



「ニヴルゲイト……」

「……!」



 俺の発した言葉にアリシアが敏感に反応した。



 よもや、こんな場所にもアレがあるとは……。

 ゴブリンが変化したのもアレの影響か……?

 それ以外は今の所、説明が付かないな。



 ともあれ、ニヴルゲイトが関わっているということは、翼竜ワイバーン黒怒竜ニーズヘッグのように一筋縄で行かない可能性が高い。



「油断するなよ」

「はい」

「うん……」



 身構えた俺達の周囲を黒ゴブリン達が取り囲み始める。



「ケケケケケ……」

「クェェ……」



 醜悪な顔が舌舐めずりしながらジリジリと近付いて来る。



「やぁっ!」



 先制攻撃を仕掛けたのはアリシアだった。

 魔法剣で黒ゴブリンの頭を叩き切る。

 だが、



「!?」



 刃は黒ゴブリンを切り裂くことなく、皮膚の上で止まっていた。



「グヒヒヒ……」



 下卑た笑いを見せた黒ゴブリンは素手で剣を掴みあげる。

 その際、ジュッと音がして肉が焦げる臭いがしたが、奴はそれをものともせず、アリシアを剣ごと持ち上げる。



「っあ!?」



 そんな彼女の真下に飢えた餓鬼のように黒ゴブリンが群がり始めた。



「させるかっ!」



 糸を放糸キャストし、ゴブリンの腕に絡ませる。

 表面から捻り上げると、奴は堪らず剣を離した。



 アリシアは翼を使ってバランスを保ち、なんとか元の場所へ着地する。



「すみません……ありがとうございます」

「ああ……」



 とりあえず、外力だけでなんとかなって良かった。

 これが黒怒竜ニーズヘッグのように呪詛防壁を含んだものだったら、咄嗟には対処出来なかった。



 しかし、今ので少し触れたから分かるが、黒ゴブリンの皮膚は翼竜ワイバーンのように魔力で守られている。



 しかも、その構造は翼竜ワイバーンのものとは全く違う形をしていて、同じ解析方法は通用しなそうだった。



 一から調べ上げないといけないのか……!

 解析レベルが上がっているとはいえ、これだけの数を捌くには時間が足りない。



 それに影縫いで時間を稼ごうにも、こう薄暗くてはまともに使えない。



 どうしたら?



 考える間も無く、黒ゴブリンが襲いかかってくる。



「ギギィッ!」



 エリスに向かって一匹のゴブリンが飛び掛かる。



「ひぃっ!?」



 彼女は思わず反射的に弓を引いた。



「グギャッ!?」

「え……?」



 黒ゴブリンは顔面を押さえてその場でのたうち回った。

 エリスは何が起こったのかと呆然としていた。



 見れば黒ゴブリンの目に矢が突き刺さっていた。



 どうやら眼球はそれほど防御力が高くないらしい。

 俺はニヤリを笑った。



「エリス、奴らの目だけを狙って射抜けるか?」

「え? あ、うん。多分できる」



「よし、じゃあ、それを頼む」

「う、うん!」



 すぐさまエリスは次々に矢を番え、放った。



「ギャッ!?」

「アギャ!?」

「フギャッ!!」



 場所も狭く、弓は扱いにくい。

 しかし、そんなことはものともせず、小さいターゲットだというのに、正確に射抜いて行く。



 突き刺さった矢は脳にまで達し、ゴブリンは絶命していた。



 目を狙われていると気付き顔を隠す奴もいたが、そこは俺が糸を使い、眼球から侵入。

 脳を通って、脊髄を直接破壊した。



 種ゴブリンも同じ要領であっさりと倒し――、



 今度こそゴブリンの巣は壊滅していた。


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