間話3 回収屋〈ゲイツ視点〉


 飯の誘惑に負けて、よく分からない男について行くことにしたゲイツとティアナ。



 男の仕事場と思しき畜舎のような建物に到着すると、そこでようやく彼の職業を告げられる。



 その男の正体は魔物の死体回収屋だった。



「し……死体回収……!?」



 ゲイツ達は絶句した。



 荷車に載せられていた魔物の死体を目にした時から嫌な予感はしていたが、本当にそんな仕事があるとは思ってもみなかった。



 死体回収屋の男はボルフと名乗り、実際の仕事内容を伝えてくる。



「冒険者が打ち捨てた残り物の魔物を回収して、その中から金になりそうな素材を抜き取るのが俺達、回収屋の仕事だ」



「抜き取る……って……」



 ゲイツは恐る恐る尋ねる。



「ん? 例えばコレとかさあ」



 ボルフは言いながら、引いてきた荷車からゴブリンの死体を引きずり下ろす。

 そのゴブリンは冒険者に斬り付けられたのか、腹がパックリ割れていた。



 彼はそんな傷口に何の躊躇いもなく手を突っ込み、中の臓物を引きずり出す。

 それはまるで魚の内臓を取り出すかのような気軽さだった。



「おぇええぇぇぇっ……!」

「ひぃぃっ……!?」



 ゲイツはあまりの惨たらしさに吐き気を催す。

 ティアナに至っては毎度のように失禁していた。



 ボルフはそんなゲイツ達を特に気にとめる様子も無く、ゴブリンの腹の中から鉈で肋骨を刈り取ってみせた。



「こいつは結構丈夫だから、農具の部材として需要があるんだ。お前らの報酬はこれだと一本あたり、鉄貨五枚ってとこだな」



「鉄貨五枚……」



 ゲイツはその金額を聞いて呆然としてしまった。

 鉄貨といえば小銅貨よりも下の貨幣価値だ。



 ――こんな気持ちの悪い仕事の見返りが……たったそれだけかよ。



 だが報酬の不満よりも、この仕事をこなせる自信が無い。

 どこか感覚が麻痺していないと出来ない仕事だ。



「ちなみにこっちのコボルトの方が高い素材が取れるぜ?」



 ボルフは荷台から犬頭の小人を引きずり下ろした。

 そして死体の口を大きく開けてみせる。



「この犬歯が一本で鉄貨八枚だ」

「八枚……」



 たいして変わらなかった。



 ――冗談じゃ無い。こんな仕事やってられるか! トラウマになるどころの話じゃ無いぞ。



「いや、俺達は……」



 断りを入れようと口を開きかけた時だ。



「つーわけだから、さっさとやっちまいな! 飯はこの作業が終わってからだ!」



 ボルフはデカい声を出して、ゲイツの背中を叩く。



「おふっ……!?」



 それが思いのほか馬鹿力で、心臓が飛び出しそうになる。



「こ……こんなの出来るわけないわよ……!」



 ティアナが小声でゲイツに言ってくる。

 しかし、ボルフはこちらがいつ作業を開始するのか、厳つい表情で見張っている。



「……今更、断れるような雰囲気じゃないんだけど……」

「情けないわね……あの男より、あんたの方が強いはずでしょ!」

「でも、なんか……顔怖いし……勝てる気がしない……」

「……」



 ティアナは呆れた顔を見せた。



 そこでボルフは痺れを切らしたかのように口調を強める。



「やるのか!? やらないのか!?」



「はっ、はい! やらせて頂きます!」

「ちょっ……ちょっと!」



 思わずそう答えてしまったゲイツに、ティアナは焦った顔を見せていた。



 覚悟を決めた二人は表情を強張らせながら死体に近付く。



「うへぇ……」

「うわぁ……」



 そんな状態から作業を開始して数時間後――。



 言われていたノルマは、なんとかこなしたのだが……。



 全身血塗れになったゲイツ達は、先ほどまで腹が減っていたはずなのに食欲は完全に無くなっていた。



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