第39筆 海人族の思惑
◆◇◆◇◆◇◆
〜???視点〜
「放テェーー!!!」
海人族の部隊長の号令によって、魔法弾が続々と放たれるなか、ある少年と少女が彼らを足止めていた。
「マジかよ、いきなり襲われるとはツイてないな、チトセ?」
「そうね、〘風防陣〙──!」
少年は白翼と黒翼を持った馬に跨がり、自慢の剣戟で圧縮された水弾を切り裂いて粉雪へと変え果てた。
少女は中級魔法とも思えない巨大な風の砦で村への猛攻を防いでいた。
かつて、マサオミをなめてかかっていた男、ヴィセンテ・ガトニスが高天ヶ原で神となり、帰還したのである。チトセは彼の婚約者である。
「おーい、大丈夫ですかー? 叢雲よ、吸収せよ!」
こぼれ弾をあっという間に雲へと変えて近寄る彼の顔を忘れるわけがない。
憧れの人、東郷雅臣さんだ。
「あっ、雅臣先輩~! お久しぶりっす!」
◆◇◆◇◆◇◆
〜雅臣視点〜
どこかで見覚えのある顔だなぁ。
えーっと、シャルトュワ支部で見たような……。
あ、思い出した。
(ヴィセンテくんだ!)
ってか、前に会ったときとは違い、神力を常に纏っている。
しかもあのチンピラみたいなナメた態度から一転、柔和になった。
あの嫌な予感は的中してしまったわけか。
「おぉ!! 久しぶりだね、ヴィセンテくん。その隣の女の子と馬は?」
小柄で綺麗な茶髪のミディアムヘアに俺と同じヘーゼルアイ。巫女服が良く似合いそうな少女だ。
アクセサリーもヴィセンテくんとお揃い。もしかして……ね。
彼女も神力を放っており、腰には弓と銃が合わさった見たこともない武具を持っている。
さながら弓腰姫のようだ。
馬はラグニエルに似ていて、白黒の斑模様に黒翼と白翼を持つ独特な印象。
⟬
──噂は本当だったのか!
「はじめまして、萌木ちとせです。ヴィヴィくん、いえヴィセンテくんの婚約者です」
こここ婚約者ですとっ!?
凄いね、ヴィセンテくん。君、俺よりも異性に対するアタック力あるよ。陰ながら尊敬させてもらいます。
「ローヴェンバッハです。両親がいつも世話になってます」
しゃしゃ喋ったァ!?
俺が召喚したお馬さんたち喋れないよ、どうして君だけ喋れるのぉ!!?
「ヴィセンテくんは神になってるし、強くて可愛い婚約者さんもいるし、喋れる黄泉神馬隊総長もいて整理がつかないや……」
二人と一匹はくすくすと笑っていた。
どうやらお馴染みの光景のようだ。
っぐほっ!?!
「グワァーハッハッ! その絶大な神力、テメエを総大将と見る。 敵を目前にして雑談こくたぁ良い度胸してやがるゥ!!」
「イッタアァァァ!?!」
海人族の艦隊の統率者らしき男が、俺の腹に槍を突き立てていた。
金色の血が溢れだし、めまいがしたがここはぐっと堪えて抵抗する。
「貴方、流石ですねっ! 迂闊でしたよ……〘
「か、身体が消えて──」
触れた男は槍ごと
「ちょっと、マサオミくん! 私のお友達を〘|返還リバース〙しないでよッ!!」
ビダァァン!!!
え、え? ミューリエから平手打ち!?
友達だったのか! あわわわ、やっちまった……。
「ご、ごめん。知らなかったとは言え相手方への抑止力になると思って……」
んぎぃぃ!?
頬をつねって引っ張らないでっ! 叩かれた所が更に痛いからっ!!
「〘
「ま、待って! あぁ、行ってしまった」
帝級治癒魔法のおかげで無傷にしてくれたけど、俺氏好感度下がったかも。
もう小さく見えるほど離れてしまった。
望遠鏡を召喚して様子を見ると、なにやら全ての攻撃を魔法で掻き消して、艦隊と海一帯を凍てつかせ、震え上がる部下の海人族を説得して連れてきた。
「「「「すみませんでしたぁぁ!!!」」」」
「まさかミューリエお嬢様のご友人とは露知らず……」
「お願いですから、部隊長を元に戻してくださいぃ!」
「ほら、言ったでしょ? 私のお友達だって」
満面の笑みで言われたら返す言葉もないよ。
「ミューリエ、怒ってない?」
「ううん、怒ってない。私が一番怒っているのはウィラさん。あの人の意地悪さには思うところがあるの」
なんとなくだが、ウィラさんからキナ臭い感じがする。攻勢はこちらにあるだろう。真相を話してもらおうか。
◆◇◆◇◆◇◆
部隊長ことニクラウスさんを再召喚し、ヴィセンテくんと情報共有を図った。
ニクラウスさんは失踪した人たちが救出済みでミゼフ王国にて保護されていることを初めて知ったようだ。
会議場に戻ってウィラさんを問い詰めることにした。
「あら、お帰りになられましたか? 」
すまし顔でウィラさんはずっと座って待っていたようだ。まるで海人族がやって来るのを最初からわかっていたように。
「ウィラ王女殿下、もう皆を騙すのはやめろよ。陛下から連れて帰れって言われてんだ」
「「「「「王女!? 」」」」
俺も代表陣も皆驚いた。次の瞬間、ウィラさん、いやウィドシルラ王女は本来の姿を現し、薔薇色の髪が目立つ人魚の姿へと変化した。
──この人を一方的にだが、知っている。
「ミューリエ、このヒトで間違いないよね?」
「うん、合ってると思うよ」
まさかと思っていたが、当たりのようだ。
俺は⟬エリュトリオン全集⟭に挿し絵つきで再三登場する邪神と互角に渡り合った伝説の王女の名前を知っている。
本名ウィドシルラ・アビスクリウム。海人族を統べる海底王レイゲルフ・アビスクリウムの娘だ。
それは
邪神の影響で荒れ狂った海流を、父と共に修復して血の海へと成り果てた赤い海を澄みきった青海へと戻した王女。
その実力は水聖神カーシャ・ラーシャに匹敵し、世界を沈没させるとも。
今一度問おう。
「貴方はウィドシルラ・アビスクリウムさんですね?」
俺の問いに今までの悪趣味な表情は何処に、善意のみを感じさせる明るい表情で口角を上げた。
「わぁぁぁぁ、大正解! そして合格よ!! 貴方、本当にこの上ないイカイビトだわ。今まで私の後ろにある絵画の意味を理解出来た人は数えるほどしかいないの」
「……ウィドシルラだったのか! 姿が違うから気付かなかった。これでは“
ウィドシルラさんがアグバイシス様の背中を軽く叩いて励ました。
「〘
「だな」
「全くだね、ウィラっち」
「ごめんねーアウロギお兄ちゃん。もー、嫌だわ。お姉さん、堅苦しい言葉嫌になっちゃう」
冷めきった紅茶を飲んで気伸びをした。
ミューリエの内なる怒りはどうやら消えたように見える。
いつの間にか手を繋がれていて、握った手の強さが和らいだからだ。
「私ね、9年前に家出したのよ。そろそろイカイビトが来ると思うと、うかうかしてられなくなっちゃて……前任の村長に掛け合ってリーザック村の村長になったわけ。5年前くらいから邪神教が動き出して密かに裏社会を牛耳ってきた。それを止めようとしたけど、止めきれなかった」
「そこで
ディルクさんが立ち上がって、ウィドシルラさんと拳を合わせた。小声で(この人ならば……)と言っていたのがこれなわけだ。
「ふーん、まさか僕やアグバイシスにも黙っているとは思わなかったけどね!」
「あぁ、いや、その……アウロギ様に迷惑をかけまいとした結果でしてな──」
「ばーか。ディルクの老け顔おバカ。それは独り善がりじゃん」
「……確かにディルク殿は愚か」
「隠し事はいけないッスよ」
ダイロンさんとハンクさんが相槌を打つ。
「申し訳……ない。こんな崩れた状態だが、会議を再開し、つい最近まで邪神教員だったラギ殿にお話を伺おう」
「ちぇ、逃げた。まぁ、良いけど」
アウロギ様が責め立てたが、ラギさんはそれよりもいきなり指名された為に少々困惑し、紅茶で一息ついて話す準備を整えた。
「オレは10日前までは洗脳され、正気を失っていた。断片的にしか覚えてないが、独特の訛りがある亀の刻印と甲羅を背負った亜人がオレの上司だった。
我が故郷はここ数年の酷暑による影響でオアシスが枯れ果て、湿地帯は干からび、砂漠化が深刻になるばかり。
あと数日と資源が保たない中、その亜人は現れた。奴曰く、『世界を滅ぼし再生すれば、砂漠一つない豊かな土地となるねん』
そう言い放った。普通なら胡散臭いと弾き返すが、飢えによる平静さがない時、ヒトはどうなるだろうか?
その後のことはほとんど記憶にないが、有益な情報として提供出来るのは、既に数十万人が邪神教員となっている。
眷属となったものは首輪をつけられ、指令に反すれば死に至る。 幸いオレらは友人のオロチに首輪を解除してもらった。
もし死に至った場合、生ける屍として再び使い倒され、骨が見えれば
最後に救聖霊団と精神生命体研究信奉会に注意してくれ。邪神教の下部組織だ」
「有益な情報ありがとねラギさん。皆様もこの貴重な情報、是非生かして欲しいわ。最後に邪神教対策についてなんだけど、何か意見を頂けるかしら?」
流石に直ぐと言われても皆答えきれない。あの案が通るかわからないけどとりあえず言ってみる。
「はい」
「どうぞ、マサオミさん」
「世界樹を各地に植えて魔素の安定化を図る、というのは如何でしょうか? 広義に魔物として扱われるハンクさん、ケンドリックさん、ダイロンさんたちは世界樹を植えたあとに進化しました。
その為、魔物も進化して強くなる反面がありますが、協力してくれる存在も現れると期待しています。
更に世界樹は宇宙全体で共通化されている力があって、邪なものを浄化し、強力な磁場と結界を構築する能力を持っています。これに関してはダイロンさんやフロレンシアさんの方がもっと詳しいでしょう。召喚は勿論俺がやります」
反論が来るかなと思ったが、特に無さそうで安心した。
「異議ないみたいね。我々リーザック村は南方大陸同盟に参加し、筆頭として東郷雅臣殿を推挙いたします」
「海人族は構わねぇ。同盟に参加し、東郷雅臣を筆頭にする」
「シャルトュワ村、同盟に参加、シノ・ファルカオを筆頭に推挙します」
「ヤルロ森林、同盟に参加する。筆頭はフロレンシア殿」
「ミゼフ王国、同盟に参加。東郷雅臣を筆頭に推挙じゃ」
「煌炎神、同盟に参加だね。東郷雅臣を筆頭に推挙するよ」
「ナゴルア山脈、同盟に参加、東郷雅臣を筆頭にしよう」
「無為の森、同盟に参加してやる。筆頭はよくわからんが誰でも良い」
「同盟は総員一致、多数票で東郷雅臣殿が筆頭だわ。筆頭の名前のみで仕事もないので、以上をもって会議を終わります」
あれよあれよと同盟の筆頭になってしまったが、この後の俺は書類仕事に追われるなんて思いもしなかった。
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