02
もうすぐ日の落ちかける時刻。
午後の授業も、店番の手伝いも終わり、あとは夕飯まで自由時間だ。
小遣いの勘定も終わったルナは、昼寝をしていた場所に向かっていた。
そこには先に帰っていたミリィが、木陰に座ってスケッチをしている。
「あ、おかえりルナ。どうだった?」
「ただいまー。別に、いつも通りだよ」
「いつも通り、ちやほやされた?」
横に腰を下ろすルナに茶化すように囁く。
まるで内緒話でもするように、口に手を添えて、いたずらっぽく笑う。
こういった愛嬌のある仕草を私にだけじゃなく、誰にでもできるようになれば可愛がられるのに。
「もう、あれは別にちやほやとかじゃないって。商売上手だと言って」
ツンと言い放つルナにコロコロとした笑い声が掛けられる。
「それより、スケッチブックのお金は溜まった?」
「うん! もう少しで買えそうなところまできたよ」
「そう、なら明日買い物に行こ。値切り交渉してあげる。ミリィそういうの苦手でしょ?」
「本当⁉ あ、でも、いいのかなぁ」
「いいっていいって、今度私の絵でも描いてくれれば」
「そうじゃなくて、お店の人に申し訳ないというか……」
「呆れた。気にしすぎだって」
ミリィは友達になる前からこういうところがあった。
臆病で極端な引っ込み思案。
おかげで人と対面することが苦手な人見知りっ娘だ。
そんな彼女がさっきまで描いていた絵が目に入る。
「……ちょっと待って。その絵は何?」
「ああこれ? 昼間のルナ」
仰向けになった私の顔面に腹を押し付けるように寝ているにゃん太、これが昼間の私らしい。
死相を猫で隠されている人にしか見えない。
これもまた彼女らしく、細部まで細かく繊細なタッチで描かれている。
私が死にそうになってたのに、こんなにじっくり観察している暇があったとは。
「ミィリィィィィ」
「あっはははは! くすぐったいってばぁ!」
――
じゃれ合いもほどほどにしたところで、ふと思ったことを尋ねる。
「そういえば、ミリィって肖像画っていうの? 描かないよね」
「あー、なんだか怖くって……」
「怖い?」
「下手っぴに描いたら怒られちゃいそうで……」
再び呆れた、とルナ。
十分上手いのに、どれだけ自信がないんだこの子は。
「ね。怒らないから今度私を描いてよ。大丈夫、きっと上手く描けるから、そしたらミリィも自信が付くでしょう?」
そう提案するも困ったように唸るだけで、意外にも快い返事はこなかった。
続けて、ね? ね? と詰め寄っている内に夕飯を知らせるベルが鳴らされてしまい、この件は保留となった。
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