第41話 研究っぽいものを考えよう
※36話と37話の間のお話です。
(あ、もう23時だ)
研究をネタにした寸劇はいいのだけど、どのような研究発表にするかを俺は悩んでいた。まだ高校生ではあるけど、研究の種みたいなのはいくつもストックしてあるから、査読がナシでツッコミどころありありでいいのならそれっぽい研究発表をすることは難しくない。
ただ、マイコン部の出し物を聞きに来る人は高校生にせよ、外部からのお客さんにしても一般の人だ。専門分野に関する研究発表を披露してもチンプンカンプンだろう。とすると、身近な話題を取り扱うのがいいだろう。
俺たちの専門分野である形式言語や形式文法は一般の人にとって馴染みが薄いのは間違いない。しかし、じゃあ多少専門分野を外れてAIの話をしても、技術的に多少突っ込んだ話になった途端、聴衆にとって退屈で理解不能な話になるのも間違いない。
「パッケージマネージャーとかはどうだろうか?」
パッケージマネージャー。PCをヘビーに使っている人ならあるいは知っているかもしれないもの。Ubuntu/Debian Linuxでのapt-getやWindowsでのNuGet。macOSのHomebrewなどなど。でも、プログラマーじゃなくても知ってるかもしれないけど、パッケージマネージャーと言われてすぐわかる人は相当PCがスキルが高い人だけだ。
「あー、もう。文化祭当日まで4週間切ってるのに」
研究者にとって締め切りはいつも頭を悩ませられる問題だ。
人口知能研究の大家である松尾先生も
なぜ私たちはいつも締め切りに追われるのか
Why Are we Researchers Always under Deadlines?
Yutaka Matuso
http://ymatsuo.com/papers/neru.pdf
なんていうタイトルの半分以上ネタにまみれた、でも半分くらいは真面目な論文を以前書いてらっしゃったっけ。
「そうか。締め切りだ!」
松尾先生の論文を読んだときにも思ったことだけど、「締め切り問題」は期日までにどのようにタスクを進めれば理想的な状態になるかという問題として扱うことができる。
(確か、似たような研究もあったよな)Google Scholarで以前見た論文のタイトルを入れて検索してみると……出た!
Scheduling Algorithms for Procrastinators
Michael A. Bender, Raphael Clifford, Kostas Tsichlas
https://arxiv.org/abs/cs/0606067
これは締め切りがある複数のお仕事があるときに、どの順番で仕事を片付けるのがもっとも効率が良いかについて考察した論文だ。これは締め切りをぶっちぎることもありとしたうえで最適戦略を考えるというもので、笑いをこらえるのに必死だった記憶がある。しかも、単なるネタではなく、面白い定理を導き出すこともできている。
「俺たちの場合、高校生だから締め切りがあるっていうとまずは宿題だよな」
毎週のように出される宿題。期限は一週間後のことが多くて、締め切りまでの残り時間や難易度は各科目や生徒の得意不得意によってばらばらだ。ここで、宿題をHとして、H = (科目, 期限, 問題数, 難易度)という組み合わせで表現してみよう。
ある期限10月10日までに解かなければならない宿題の集まりは、
H1 = (数学, 10月10日, 10, S)
H2 = (現国, 10月10日, 15, A)
H3 = (物理, 10月10日, 8, S)
H*= {H1, H2, ..., Hn}
...
のように表現できそうだ。また、生徒Sは
S = (集中力, 学力[数学], 学力[現国], ....)
のようなステータスを持っているとする。
集中力は、宿題をやる上での効率性に関する値としてみる。先行研究で示されている通り……というか、それ以前の話で、集中力は締め切りが直前に迫ると否応なく高まるという性質がある。一定の集中力でコツコツできる人は稀にいるらしいけど、締め切り前に宿題を効率的に解くことがラクラク出来る人には関係ない問題なのでまあいいだろう。
学力Aが科目ごとに存在するという前提は悪くないし、試験の成績から測定することも可能だろう。これと宿題Hの難易度から、進行速度Vを算出可能というのもモデル化としてはありに思える。しかし、宿題の難易度を事前に測定する事が難しいという問題がある。ちょっと涼子にも相談してみるか。
と思ったけど、
【夜遅く悪い。少し時間があるか?】
そうLINEしても30分以上未読のまま。さすがに寝たか。
(いやしかし、今回の発表はツッコミどころがあった方がいいんだよな)
宿題の難易度を測定することが困難であるというところをツッコミどころの一つにするのはいいかもしれない。
(もう少し洗練させたいところだよな)
難易度や学力をS, A, B, C, D, E, Fで近似するのはアリだとして、数値にしたときにSとAはどの程度差があるんだろうか。学力Fが0であるという仮定は明らかにおかしい。あらゆる問題を解けない生徒というのはさすがにモデルとしても非現実的過ぎるだろう。
(S, A, B, C, D, E, F) = (6, 5, 4, 3, 2, 1)
のように表現してみるべきか。しかし、単純な差だと、学力Fの生徒が難易度Sの宿題を解く速度は負の値になるのでモデルの作り方としておかしい。たとえば、F - Sは-5になってしまうけど、宿題が進まないのならともかく「戻る」はありえない。
1時間で1問を解ける速度を1としたときに、難易度dの問題を学力dの生徒が解く時に、速度V = 1になるという風にしてみるか。でもって、難易度Sの宿題を学力Fの生徒が解く速度はF / S = 1/ 6のように割り算で算出してみると、差をとるよりはいくらか近似としてマシな値になるように思う。これもE / S = 1/ 3、つまり学力Eの生徒が難易度Sの問題を解く速度とF / D = 1 / 3、つまり学力Fの生徒が難易度Dの問題を解く速度が同等でいいのかというツッコミどころはあるけど、そこもおいておこう。
集中力Wは科目によらず、宿題に対して一日最大何時間かけられるかを示す値としてみる。先行研究では、締め切りが近づく程にWが上がっていき、しかも上がり方が非線形であるという特徴があったけど、実感としては2日前、1日前に飛躍的に上がる実感がある。それまではWの増え方は線形でかつ傾きが非常に緩やかであるとしてみる。
(さて、これでなんとかネタの素はできた)
適当にツッコミどころを残したまま、このネタを発表スライドにまとめて、あとはシナリオを作って……。
(ああ、でも)
こういう時にやっぱり相談できる相方が眠っているのは痛い。しかし、こうなってしまうと集中が途切れないのが俺の性分だ。朝までかけてなんとか仕上げよう。
こうして、朝四時まで色々作業をしたのだけど、その結果。
「ぬあー。今日も寝不足だ……」
「だから、善彦は熱が入りすぎなのよ」
そんなお小言をいただいたのだった。
☆☆☆☆41話あとがき☆☆☆☆
今回は宿題を締め切り前に解くという問題を雑に考えてみるというお話です。
41話の考察はあえて雑にしてあるので理論的なツッコミについてはご容赦を。
☆☆☆☆☆☆☆☆
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